なぜに異世界なんですか?
1、はじまり
目が覚めると見たこともない部屋にいた。
事務所のような所で、自分は多分、パイプ椅子に座っている。
きっと夢に違いないと思い、目を閉じると正面から声がした。
「おはようございます。気分はどうですか?」
驚いて目を開くと、全身真っ白なスーツを着た若い男が立っていた。
近いはずなのに、顔はよく見えない。
「ビックリしましたか?ここは僕の部屋です。なんであなたがここにいるかといいますと、あなたの肉体がなくなってしまったので、魂を僕が捕まえてその器にいれたからです。あっ、僕の名前はケイです。」
ケイという男が早口で説明をした。
私は変な夢だなあと思いながら、茶色のテーブルに頬杖をつこうとして異変に気付いた。
私って全身黒いな、肌もゴツゴツしてるし、洋服も真っ黒だしなんだコレ、怪人のアレっぽくないか?
「生前、ヤマダA子さんは、特撮の番組大好きだったでしょ?そのキャラクターに会いたいって言ってましたよね?私、頑張って作ってみたんです。よくできているでしょ?」
ケイが無感情で話す。
ちょっと理解が追いつかない。
「わっ、私、しんだの?」
声がめっちゃ低い。
ケイは無感情のまま頷いた。
「覚えていないでしょうが、◯◯で、◯◯になって◯◯に。」
全然聴き取れない。
それに怪人が好きなんじゃなくて、中の人が好きだったのですが。
「まあ、とりあえず、あなたの名前は岩いーわです。極悪怪人がいる世界に飛ばしますので。それでは。」
訳がわからないままの私を無視して、ケイがこちらに右手を差し出した時のことだった。
部屋の温度が一気にさがった。
「邪魔するな!!!」
ケイが大声で叫ぶ。
空間がぐにゃり、と歪み、両脚がものすごい強さで下に引っ張られた。
床を抜けてどこまでも落ちていく感覚。恐怖。
一瞬だか、なん時間だか分からない。
気を失ってしまった。
大勢の人がいるのか、ガヤガヤ声がする。
「どういうことだ!聖女じゃない!」
「何者でしょうか?」
「魔物とは違うのでしょうか?」
「目覚める前になんとかせねば、いっそ天に還ってもらうしか、」
物騒な言葉が聞こえて、目を見開いた。
神官?ぽい格好のひとが沢山いる。
なんだここは。
私は魔法陣の上に横たわっていた。
「目を覚ましたようだぞ!皆、構えろ!」
その場にいた神官?達全員が、一斉に杖をこちらに向けてくる。
圧巻だ。映画みたいだ、現実味がない。
違う、なんとかしなければ。
「わっ、私は怪しいものではありません。」
いや、何言ってるのだ、怪しいに決まっている。
私は怪人なのだ。
自分で言って悲しくなった。
「あっ、あなたは何者でしょうか?この国を滅ぼすつもりですか?」
おそらく、この中で一番偉い人が話しかけてきた。
「私は、元人間です!よくわからないままここにいます。
もちろん、滅ぼすつもりなんてないです。」
嘘はついていない。
本物の怪人だったら、この国を滅茶苦茶にするだろうが、私はそんなつもりは毛頭ない。
ひとつの杖から綱のような光が向かってきて、私を縛りつけた。
これは絶対絶命では。