第二話 異世界からの来客
あの大鷹の近くでは誰かに見られると面倒なため、カイラのアパートへ向かいながら話を聞くことになった。
話を聞くところによると、彼女セリエルは異世界ニゼルギアにあるラヘルド王国の騎士で、あの大鷹を討伐する任務を受けて森に入ったらしい。鷹が飛び立ったのを見つけ、追いかけようとしたところなぜか森の先には海が続いており、そのまま追いかけたところ俺が襲われているところに遭遇したというわけだ。
話の通りだと彼女は海を走ってきたことになるが…
それはいったん置いておこう。
彼女自身、自分がどこにいるのかもわかっていなのに落ち着いている。
というのもあちらの世界、ニゼルギアでは異世界に転移するという現象自体は認知されているからということらしい。
そうして一通り事情を説明されたところでアパートに着いた。
『というわけで申し訳ないが、一晩君の家で泊めてもらえないだろうか?』
唐突な申し出に驚いたが、相手は命の恩人である。一人暮らしで誰かに迷惑がかかるわけでもないため、
『狭い部屋ですが、それでも良ければ』
深く考えず、二つ返事で了承する。
そうしてセリエルを家へ招き、軽く屋内の説明をしたところで夜も遅いため、とりあえずは就寝することになった。
一度も使われていなかった客人用のマットレスを押し入れから出し、カイラは物置状態だったロフトに布団を敷く。
流石に初対面の相手と近くで寝るのはお互い気を使うため、せめてもの配慮だ。
横になって目を瞑り、たった二時間ほどの間にあったことを振り返る。
いきなり襲ってきた信じられない大きさの鷹、そんな鷹から命を助けてくれた女騎士、テレパシー?で話す彼女は異世界から来たという。今でも現実とは思えない。
セリエルに聞きたいことを色々と考えていたが体は疲れていたのか、気づけば眠りについていた。
人々が仕事や学校に向かう頃、カイラは自然と目が覚めた。普段ならここから二度寝をするところだが、昨日のことがあってはそうもいかない。
重い体を起こし、ロフトから部屋を見渡す。そこにはこちらの視線に気づいた女性が立っていた。
睡眠でリセットされた頭でカイラは今の状況を改めて認識する。
どうやら昨日のあれは夢じゃなかったらしい。
一通り状況の整理を終えたカイラはロフトから降り、セリエルと朝の挨拶を交わす。
もっとも言葉は通じないため、手に触れて彼女のテレパシー?に頼る必要はあるが。
そこでカイラはふと浮かんだ疑問をセリエルにぶつけてみる。
『この会話はどういう原理で行っているんですか?』
『これは魔力を使って思考を送ったり、読み取っているんだ。当然人間以外にも使えるぞ』
さも当然かのようにセリエルは答える。
『魔力!? まさか、セリエルさんの世界には魔法が存在するんですか?』
カイラは驚きのあまり、思ったまま疑問をぶつける。
『ああ、私は魔法の類はほとんど使えないがな』
その答えを聞き、カイラの胸が高鳴る。
漫画やアニメを見るたびに思っていた。これはフィクションで現実じゃない。
しかし、今目の前に現れた。フィクションの世界が。これには興奮せずにはいられない。
好奇心を抑えられないカイラは思うままに質問する。
『俺がそちらの世界、ニゼルギアに行くことは出来ますか?』
その質問を聞いたセリエルの表情が少し曇る。
『すまない、それは私にもわからないんだ。ひとまずはまた海を渡って転移の状況を調べようとは思っているが』
その反応を見てハッとする。
ニゼルギアへの行き方を知らない。つまりセリエルは元の世界への帰り方がわからないのだ。言葉も通じない見知らぬ土地に来て、むしろ帰り方があるなら知りたいのは彼女の方だろう。
『すみません‥』
自分の無神経さに気づき、その考えなしの愚かさが嫌になる。
『君が気に病むことじゃない、むしろ私を泊めてくれたことに感謝しているよ』
バツの悪そうなカイラの様子を見てセリエルは優しく笑う。
ふと思う。彼女の言うように陸地が海上に突然出現したのなら間違いなくニュースになっているだろう。
『もしかしたら転移のことがわかるかもしれません』
カイラはパソコンを起動させると、セリエルが驚いてパソコンを見回す。液晶画面に驚いているようだ。
カイラがそのままブラウザを開くと、ホーム画面にあるニュース記事の見出しが目に入る。
『『これはどういうことだ‥』』
二人してそう呟くのだった。