俺の幼馴染はアホだった。
俺の幼馴染はアホだ。
「私たちが混ざったらきっとコーヒー牛乳みたいになるよね」
帰宅途中、俺の幼馴染は突拍子も無く変なことを言い出した。
「そーだね」
「反応冷た」
君は頬を膨らませて不満げな顔をした。
「だって私は白が大好きで、アンタは黒じゃんね」
「だから白と黒でコーヒー牛乳?」
「うん!」
...謎理論でドヤ顔された。
呆れつつもやっぱり可愛いと思ってしまう俺がいる。
いつもの日常だ。
そう思った途端、突然背中に激痛が走る。
「がはっ」
道路にパタリと倒れ込んだ。
俺を刺したであろうナイフ持ちの男は黒い服を着ていた。
何故。
理解できないまま、痛いよりも熱いという意識が僕を飲み込んでいく。
「ねぇ、大丈夫?!」
俺の身体を揺さぶる君。
「アホだなぁ、なんで早く逃げないんだよ」
衝撃で痛みが飛んでいるのだろう。
苦し紛れではあるがこの状態でも笑って話すことができた。
君は必死に俺に声をかけ続けた。
「XXXXXXXXXXXXXXXーーごぼっ」
君が何かを言い切る前に血と涙が空を舞った。
パタリ。
君は俺に重なるように倒れた。
大丈夫か、なんて思う間も無く俺の意識は暗闇に落ちていった。
そして目が覚めると俺は白い空間にいた。
病院か。
周りには誰もいない。
誰も、いない?
同じ時に刺されて運ばれたのなら、アイツがいないとおかしいじゃないか。
もしかして。
身体中にイヤな汗が滲んでいく。
ふとテレビから聞こえた音を俺の耳が捉えた。
『先程、先日起きた通り魔殺人事件の容疑者が逮捕されました』
『犯人は包丁を2名に刺したということで、そのうち16歳の女性が命を落とし、もう1人は意識不明の重体とのことです』
『16歳の女性には8ヶ所もの刺し痕があり』
それ以上は聞こえなかった。
聞きたくなかった。
「嘘だ」
そんなはずがない。
この事件じゃない。
アイツが死んだはずなんてない。
でもアイツが死んだ理由には心当たりがある。
あの時アイツは俺を庇った。
俺に覆い被さって、必死に。
そのせいで8回も刺されたのだろう。
あの時にアイツが言いかけた言葉は単純だった。
"アンタのいない世界なんてイヤだから!"
そう言ってくれた君はもういない。
「俺も一緒なのに、人の気持ち考えろよ、アホ」
子供のように泣きじゃくった。
"私たち結果的に混ざったけどコーヒー牛乳じゃなくて赤ワインだったね"
君の声が聞こえた。
いるはずもないのに。
「最期に残してく言葉がそれかよ...」
呆れて、可愛くて、悲しくて笑った。
「相変わらず、アホだなぁ。」
愛おしかった君と、いつもの日常はもう帰ってこない。
俺の幼馴染はアホだった。
完