第1話:前世は魔術師でした
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私は仲間たちと一緒に、焚火を囲んで座っていた。
長い魔族との戦いに終止符を打ち、「これでようやく、故郷に帰れる」と、仲間たちと笑いあっていた。
幼馴染の彼が、神々に勇者として抜擢されたあの日。私は彼と共に旅をすることに決めた。彼は仲間と共に困難に立ち向かい、長く険しい旅路を踏破した。
魔王との戦いで満身創痍、体力は限界を迎えていたが、気力だけは充実していた。私も、彼らも、みんな表情は明るかった。
「それもこれも、みんなのおかげだよ」
勇者は私の肩を抱きながら、みんなに語った。私は彼の横顔を見る。愛しい彼の顔は、どこか誇らしげだ。
祝宴は続き、勇者とその仲間は、月が高く昇っても騒ぎ続けていた。
「――ふぅ。ちょっと飲み過ぎたかも」
私は切り立った崖に立ち、冷たい夜風で火照った頬を冷ましていた。長い旅路、本当に色々あったな、と思い返しながら。
「ここにいらしたんですね」
背後から声が聞こえた。彼女もまた、神々に見出された聖女だった。彼女の癒しの奇跡は、何度一行の窮地を救ったことだろうか。
「あなたも酔い覚ましに?」
振り返らず答えた。
「ええ、そんなものです」
落ち着いた彼女の声が返ってきた。
彼女は私のそばに来て、一緒に夜風に身を晒していた。
「――結局、勇者様はあなたを選んだのですね」
彼女はぽつり、と呟いた。彼女もまた、この旅で勇者に好意を抱いた者の一人だった。だが私も彼女も、自分の気持ちに嘘をつくことなどできなかった。二人で勇者に気持ちを伝えると、彼は「すべてが終わったら答えを出す」と言った。
魔王を倒した今、彼の傍らには私が居た。つまりそういうことだった。
あるいは彼は、困難の前に仲間内にしこりが生まれないよう配慮しただけかもしれない。私と彼は、幼いころから心を通じ合わせていたと思っている。
「ごめんなさい」
謝罪が口をついていた。彼女が、強く彼を思っていたのを知っていたから。
「謝られるようなことではありませんよ」
彼女は、吹っ切れたようにさばさばと応え笑った。彼女の気配が背後に来る。
「――でも」
トン、と背中を押された。私の身体はバランスを崩し、崖から転落しようとしていた。
慌てて彼女に手を伸ばす。
「あなたが居なくなれば、彼は私のものよ」
彼女は私の手を取ってはくれなかった。私の身体は崖下に放り出されていく。激しい戦いで私は、魔法を使う体力を使い切ったままだった。
彼女の言葉を理解できぬまま、私の身体は落下していく。彼女の姿がどんどん小さくなる。――その顔は、醜悪に歪んでいるような気がした。
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ぱちり、と目が覚めた。顔を上げると、馬車はお日様の光の中、宿場町へ向かう街道を進んでいた。
私は、自慢のブロンドをかきあげ整える。お日様を反射してきらきらと輝くそれは、私の手の中からするり、と逃げていった。
(――うたたねしてしまっていたのか)
「お目覚めになられましたか、お嬢様」
向かいに座る、侍女のカタリナが話しかけてきた。
「私、どのくらい寝てたかな?」
「一時間ほどでしょうか。本日は暖かいですから、よくお眠りになられてましたよ」
確かに今日はお昼寝日和だ。お日様の温かい日差しが、馬車に差し込んできていた。
(久しぶりにあの夢を見たなぁ)
小さいころから時々見る夢。今とは違う時代、夢の中の”私”は、勇者と共に魔王を倒した魔術師だった。
(勇者様、あのあとどうしたんだろう)
夢の中の”私”はその時に死んでしまったらしく、その後のことを夢に見ることはなかった。
(聖女さん、あんな怖い一面があったんだなぁ)
魔王を倒す旅の中、治癒の奇跡を操る聖女は、いつも穏やかに微笑んでいた。だから”私”も、まさかあんなことになるとは思っていなかったみたい。
「もうすぐ宿場町ですよお嬢様」
カタリナが語り掛けてくる。窓から眺めると、遠くの方に小さな町が見え始めていた。
ここから王都までは、あと四日ほどだろうか。
今年で十五になる私は、自宅のあるジルケ公爵領から王都へ向かっていた。「そろそろお前も年頃だから」と、お父様が王都で学校に通うように言い渡してきたのだ。
仮にも公爵家の子女である。良縁との出会いを期待して、地方にある公爵領から離れ、「上位貴族がたくさん居る王都で社交に励みなさい」と言われていた。
「友達、たくさん作らないとだなぁ」
「それよりも、きちんとした伴侶となる殿方を探してください」
カタリナの言葉に、気分が重たくなった。
(結婚かー)
いつかはしなければならないとはいえ、気が乗らない。両親が勝手に相手を見繕うよりはずっと恵まれているけれど、婚活というのもまだ実感が湧かないのだ。
この国では、だいたい十八歳が結婚適齢期と言われている。魔力の強い上位貴族は十五歳から魔法学園に三年間通い、卒業後に婚姻を結ぶことが多かった。――家の都合で、在学中に婚姻を結ぶ例もあるみたいだけど。
ジルケ公爵家は五代前に王族の女性が降嫁してきた家で、私にも王家の血が流れているらしい。そうなると、相応の家柄でなければお父様は認めてくださらないだろう。
(恋愛結婚なんて、夢のまた夢だよねぇ)
そんな思いにふける私を乗せて、馬車は宿場町へ入っていった。
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間もなく陽が沈もうかという頃、馬車は王都にあるシュバイク侯爵家に辿り着いていた。お父様と交友が深いシュバイクおじさまが、在学中の私の身を引き受けることになっていた。
「やあメルフィナ、よくきたね。長旅は疲れただろう?」
「シュバイクおじさま! お久しぶりです!」
私はシュバイクおじさまに勢いよく抱き着いた。宮廷魔術師を務めるシュバイクおじさまは、小さいころから魔法に興味津々だった私に色々なことを教えてくれたものだ。
「ほらほら、淑女がみだりにそういうことをしてはいけないよ」
「はーい」
おじさまが優しく微笑みながら私を引きはがした。小さいころからの癖で、ついつい甘えてしまう。
「さぁ、部屋へ案内しよう。――クラウス!」
おじさまに呼ばれて、背後に控えていたクラウスがやってくる。黒い髪を丁寧に撫でつけた、私より少し年上の青年は、アメジストのような瞳を閉じてゆっくりとお辞儀をした。実に絵になる。
「メルフィナ様、ご案内いたします」
私の侍従たちが荷物を運び入れている横を通り過ぎ、クラウスに案内されて二階の一室へ入る。
「後程、お呼びいたします。それまではごゆっくりおくつろぎください」
丁寧なお辞儀をした後、クラウスは部屋を出ていった。
私はそれを見送ると、ベッドに向かっていき、ぼふり、と身体を沈めた。久しぶりのふかふかベッドの感触を味わう。
「つかれたー」
「お嬢様、ドレスが皺になってしまいますよ。さぁお着替えください」
言われるがままに旅装を脱ぎ、室内着へ袖を通す。まぁ、私は立っているだけで、お付きの侍女がだいたいやってくれるのだけれど。
「間もなく夕食ですから、うっかり寝てしまわないようにしてくださいね」
「はーい」
しばらくするとクラウスが呼びに来たので、食堂まで足を運ぶ。食卓ではシュバイクおじさまが私を待っていた。
食卓を囲むのは私とシュバイクおじさま、二人きりである。おじさまは奥様を亡くされて以来、独り身を貫いていた。二人いる子供たちは既に成人し、爵位を得て家を出ているらしい。
「明日はクラウスに街を案内させよう。明後日は会食を用意してある。来賓には殿下もいらっしゃるから、失礼のないようにね」
「はーい」
王子様かー。そういえば、王族と会うのは初めてである。
「殿下はどんな人なの?」
「そうだな……少しわがままなところがおありだが、ご令嬢に人気の高いお方だよ」
どうやら、それなりに顔はいいらしい。婚約者がすでにいる、とのことなので、残念ながら婚活相手にはならない。まぁ、王族と婚姻などしたら、とても大変なことになるだろうから、それは構わないのだけれど。
「メルフィナも年頃なのだから、良縁が見つかるといいね」
「気が重いよー。お父様も期待してらっしゃるようだけど、私は伴侶より魔導書を漁りたいです」
「メルフィナらしいな」
正直に思ったことを口にしたら、おじさまは大笑いをしていた。
「あとで書斎に行くといい。お前好みの本が、きっとみつかるだろう」
シュバイクおじさまは、私にウィンクを飛ばし、ワインを呷っていた。
夕食後、おじさまのご厚意に甘えて書斎にお邪魔した。
とても広い部屋に、びっしりと魔導書や古文書が並んでいる。実に壮観である。
「さすが宮廷魔術師、おじさまも本の虫だねー」
手近な本を手に取る。どうやら古代の神々について綴られた古文書の写しらしい。ぺらりとページをめくっていく。
(そういえば、夢の中の”私”は現代と違う神様を信仰していたっけ)
勇者に同行していた”私”は知識の神を信仰していた。知識欲旺盛だった”私”は、旅をする先でも貪欲に知識をむさぼっていた。
今の私が魔法を好きなのは、きっと”私”の影響を強く受けているせいだろう。
(――あった)
知識の神。知識を司り、古代の魔術師を筆頭に、広く信仰を集めていたらしい。それなりに有名な神様のようだ。今では失われてしまった古代魔法を紐解くうえで、重要なポジションにいるみたい。
(いつ頃の神様なのかな)
ページをめくっていくが、詳しい年代までは載っていなかった。今度おじさまに聞いてみよう。おじさまは古代魔法史を専門に研究している。きっとご存じだろう。
本を閉じ、本棚にそっと戻した。
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翌朝、朝食をいただいた後、クラウスとカタリナを連れて馬車に乗る。今日はクラウスに王都を案内してもらう予定だった。
馬車は大通りを抜け、大きな商店の並びを通り過ぎる。お父様の領地も立派なものだと思っていたけれど、王都はそれよりもずっと整備されているようだった。
「すごいねー。こんなに大きなお店がたくさん並んでるの、はじめてみた!」
「仮にも王都ですからね。商流の中心地と言っても、過言ではありませんから」
クラウスが応えてくれた。各地から様々な商品や技術が流れてきて、王都の貴族たちがそれを買い求める。新しい技術も、王都を中心に発展することが多いらしい。
馬車が商店街を抜けた後、一際大きな建物が近づいてきた。
「あれが王立の魔法学園ですよ」
貴族の屋敷よりはるかに大きな敷地に、重厚な建物が立ち並んでいた。春からはここに通うことになる。
「さすが王立校だね……」
ジルケ公爵領にも学校はあったが、とても比較にならなかった。このブロードウェル王国では魔法が盛んなため、代々魔法教育には特に力を入れているらしい。
馬車は学園を通り過ぎ、大きな劇場や図書館、工房街を抜けていく。
「工房では何を作っているの?」
「王都ではなんでも作っていますよ。でも、一番盛んなのは魔道具でしょうね」
魔道具。魔獣の核から抽出された魔石を燃料にして動く、魔法のアイテムだ。専門家が作り出す魔道具は人々の生活を豊かにしたり、国防に役立てているらしい。
魔法を使えない者でも同様の効果を得られるので、騎士団でも重宝しているとか。
そうして馬車は貴族街に向けて戻っていった。
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「どうだったかな? 王都の様子は」
夕食の席でおじさまに聞かれた。
「うん、とても見事な街並みだったよ! ジルケ公爵領も負けてられないね!」
「王都に負けない街並みを作るのは、大変だよ?」
おじさまは楽しそうに笑っていた。
(そうだ。昨日の本の事を聞いてみよう)
「ねぇおじさま。古代の神々って、いつごろの時代のお話なの?」
「時代か。詳しくはわかっていないね」
おじさまは目を細めて話し始める。
「現在信仰されている神竜様の宗派は、五百年以上昔に誕生したらしい。少なくとも、それより古い時代になるだろう」
私は昔から疑問に思っていたことを、ついでに聞いてみることにした。
「伝説の魔王がいた時代、というのはいつ頃になるの?」
「勇者の叙事詩でも読んだのかい? あの伝説はとても古いものだといわれているね。現存する最古の叙事詩が千年ほど前のものになるから、それより古い時代なのは確かだ」
千年――そんなに古い時代のことなのか。
夢の中の”私”が実在したかどうかを調べるのは、とても大変そうだな。あとでその、勇者の叙事詩を書斎で探してみよう。
夕食後、書斎に行き、勇者の叙事詩を探し始める。
(んー、これかな?)
いくつかあるそれっぽい叙事詩の中から、適当に一冊を取り出してページを開いた。
そこには魔王が現れ人類を脅かしたとき、神々が勇者を選び出して魔王討伐を命じた、などと書かれていた。
ぺらぺらとページをめくり流し読んでいく。
(んー、夢の中の話と、大筋は一緒なのかな)
大げさになっていたり、ちょっと違う物語になっている部分もあったけど、夢の中の”私”が勇者と旅をした内容がそこには綴られていた。
(最後は……魔王を倒した後、勇者と聖女が結婚してハッピーエンドか)
勇者一行の魔術師は、魔王との戦いで命を落とした、とあった。
(やっぱり夢とは違うけど、死んだ時期はだいたい一緒かー)
となると、あれは前世の夢なのだろうか。
でも前世の記憶を持った人の話など、たくさん本を読んできたけど見たことはなかった。
本を閉じ、棚に戻す。
(勇者様も実在したのかなぁ)
魔術師と幼馴染だった勇者様。夢の中の”私”は勇者にベタ惚れだった。だからこそ、危険な旅とわかっていても同行を決意していた。
勇敢で頼もしく、でも時折見せる幼い所が可愛らしかった勇者。
(あんな男性が今もいたなら、伴侶に選んでもいいなぁ)
私はそっと書斎を後にした。
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翌日は、夜会の準備で屋敷は大忙しだった。
「第一王子がいらっしゃるのでは、手は抜けないからね」
おじさまはそう笑って、忙しそうに指揮をしていた。
私も夜会用のドレスを身にまとい、支度を進めていた。今日の主役は一応、私らしい。
「お嬢様の歓迎会なのですから、こちらも手は抜けませんよ」
カタリナははりきって私を飾り立てていく。
「めんどくさいよー……」
正直言って社交界は苦手だ。腹の探り合いとか、私には向いてない。
「お嬢様は微笑みを絶やさずにいれば、それでいいのですよ」
渋い顔をしている私にカタリナが助言してくるが、表情筋が死にそうな話である。
コルセットで締め付けられていては、食事もあまり入らないだろう。楽しみがない。
夜会が始まり、来賓の流れが会場に入っていく。
私がおじさまにエスコートされて入場していくと、会場から拍手がわいた。
私はおじさまと共に来賓に挨拶をしていく。とてもじゃないが顔も名前も覚えきれない。私はそういったことが苦手だった。
「メルフィナ、殿下がご挨拶にみえたよ」
おじさまの示す方を見ると、ご令嬢をエスコートした青年が目に入った。
(えっ――)
そこには夢の中の勇者が居た。いや、別人なのだが、強く面影を感じた。
サラサラの金の髪、紺碧色の瞳。まだ幼さの残る顔つきは、数年もすれば精悍な男性となることが伺えた。優しい微笑みを浮かべるその様は、まさに王子様だった。
私はスカートのすそを広げてお辞儀をする。
「第一王子、ステファンだ。きみがジルケ公爵のご令嬢だね」
「はい、ジルケ公爵が娘、メルフィナでございます」
私が顔を上げると、目の前に殿下の顔がある。やはりよく似ている気がした。
「彼女は私の許嫁のサラだ。仲良くしてやって欲しい」
殿下は横にいる女性を示して紹介した。
「サラです。来年度から同じ学園の生徒になる者同士、仲良くしてくださいね」
サラ様は優しく微笑んでくれた。
「はい、こちらこそ」
(なんだろう? どこかで会ったような)
記憶を漁って既視感をたどってみる。――あ。
(夢の中の聖女?)
よくよく見ると、聖女の面影を感じた。慈愛に満ちた微笑みを浮かべた顔は、優しげに見えてどこか我の強さを感じさせる。
(不思議な偶然があるんだなー)
夢の中の勇者と聖女は、”私”と同い年だった。殿下も同い年らしく、来年度から学園に通うと言っていた。
「シュバイク侯爵、少しメルフィナ嬢をお借りしてもいいかな?」
おじさまと他愛ない話を続けていた殿下が切り出してきた。
「ええ、構いませんとも」
どこか不満げなサラ様を置いて、殿下は私をテラスへ連れて行く。
(いいのかな?)
月明かりの下、テラスに二人で並ぶ。月光が地面に二人の影を落とした。
殿下の目が私の顔に止まる。
「――きみとは初めて会った気がしない」
殿下の一言にびっくりしながら、私は返答する。
「……陳腐な口説き文句ですわね」
「どこかで会ったことはないか?」
「私は初めて王都に来ました。お会いになる機会など、なかったとおもいますわ」
「だが、きみの顔を見ていると、どこか懐かしい気持ちになるんだ」
「――殿下。婚約者のある身で女性を口説くなど、サラ様に叱られてしまいますよ」
私は、微笑みを張り付けたまま嗜めた。
殿下が月を見上げながら言った。
「親の決めたことだ。私の意志ではない」
(これ、本当に聞かれたらマズイ奴なのでは)
私は背中に冷や汗を流しながら、どう受け答えをするか悩んだ。
正直に言えば、勇者の面影を持つこの王子に言い寄られて悪い気はしない。だけど、さすがに泥沼の関係は嫌だなぁ。
そんな私の胸の中を知らずに殿下が続ける。
「もしも伴侶を選ぶことができるなら、きみのような人がいい」
「出会って間もないのに、私の何がわかるというのです?」
「一目惚れ、といったら信じるか?」
「そのようなことを言っていてはいけませんよ」
「だが本当のことだ」
「……私のことを知れば、幻滅するだけですわ」
令嬢らしくない女だという自覚はある。貴族の殿方が望むような女にはなれないだろう。
「知ってみなければわからないさ」
なかなか諦めてくれないな。どうやって切り抜けようか。
――突然、”私”の勘が大音量で警告を告げた。
「殿下! 伏せて!」
”私”は殿下を地面に押し倒した。
先ほどまで殿下がいた空間を何かが切り裂いていった。
”私”は急いで体勢を立て直し、そのまま防御結界を展開する。続いて襲ってきた何かを、防御結界が弾き飛ばす。
地面に落ちたものを確認する――黒塗りの矢。
「誰か! 曲者です!」
私の声にびっくりしていた周囲の衛兵が集まってきて、殿下の周囲を取り囲んだ。
それまで感じていた殺気が薄まり、”私”の警告音も鳴りやんだ。
私は、大きく安堵のため息をついた。
「お前はもう魔法が使えるのか」
殿下がびっくりしながら聞いてきた。
魔法学園に入学する前だ。その年齢で実用的な魔法を使える人間など、それほど多くはない。
「……いえ、私も咄嗟の事だったのでよくわかりません。身体が勝手に動きました」
私自身、自分に何が起きたのかよくわかっていなかった。まるで、夢の中の”私”のように体が動いていたのだ。
「失礼しました殿下。お怪我はありませんか」
私は立ちあがると、殿下に手を差し出した。
殿下はその手を取り、ゆっくりと立ち上がる。
「最近、命を狙われることが多くてな。ともかく礼を言う。助かった」
「いえ、殿下がご無事でなによりです」
「――ステファン」
「はい?」
「俺のことは呼び捨てにしろ」
突然の事にびっくりしていると、殿下はさらに続ける。
「やっぱりお前のことは、初めて会った気がしない。遠い昔も、こうしてなんども命を救ってもらったような、そんな気がするんだ。そんな奴に敬語など使われては、背中がむずがゆくなる」
「いえ殿下。そのようなことはとても――」
「ステファンだ」
(頑固だなぁ)
「……ステファン様、許嫁のある身で、あるまじきことですよ」
「様もいらん。敬語も抜け」
「……ステファン、これでいい? でもこれ不敬にならないの?」
ステファンはいたずらっ子のように会心の笑みを返した。
「うむ、とてもしっくりくる。これからはなるだけそうしろ。ああでも、公の場では控えてくれ」
「言われずともそうするよ」
大きなため息がついて出た。とんだトラブルメーカーだ。
でも彼の表情を見ていると、やはり勇者の面影を色濃く感じる。彼もやはり、こうしてわがままを言っては、いたずらっ子のように笑っていた。”私”はその笑顔が大好きだった。
ステファンの元に、衛兵が報告に来た。
「毒矢です。外から撃ち込まれていたようです」
「周囲の警邏を強化しておいてくれ。それと、シュバイク侯爵にも報告を」
衛兵は返事をすると、部下に指示を飛ばした後、おじさまの元へ向かっていった。
私は衛兵の背中を見送った後、ステファンに振り向いた。
「こんなことが、よくある事なの?」
「ああ。まぁ仮にも第一王子だ。このぐらいは珍しくもないさ」
「シュバイクおじさまが叱られないといいんだけど……」
「そこは俺がなるだけフォローしておくさ」
「ステファン様! 無事ですか!」
サラ様がステファンの元へ走り寄ってきた。周囲の安全が確認できたのだろう。
「ああ、無事だ。メルフィナが守ってくれたからな」
(私のことも、もう呼び捨てか)
サラ様はこちらに向き直り、お礼を言ってきた。
「ステファン様の命を救ってくださり、ありがとうございます」
その眼差しの底には、敵意が見え隠れしていた。どうやら風向きは、あまりよろしくない方向になりそうだ。
(波風、立てたくないんだけどなー)
「いえ、偶然お助けすることができただけです。大したことはしておりませんわ」
私は微笑みを張り付けたまま、ステファンからそっと距離を取った。女の嫉妬には近寄りたくないし。
「さあ、戻りましょう?」
サラ様がステファンの腕を引く。ステファンはサラ様に連れられて会場に戻っていった。
「メルフィナ! 大丈夫だったか!」
入れ違いにおじさまがやってきた。
「ええ、問題ありませんわ」
おじさまは私を抱きしめた後、私の無事を確認してから安堵するようにため息をついた。
「預かって早々、こんなことに巻き込んでしまってすまなかった。今後はより警備を厳重にしなければな」
「おじさま、これはよくあることなのですか?」
「そうだな。殿下が命を狙われるのは、そう珍しいことではない。わかっていたから、相応に対処していたつもりだったのだが」
こんなことが日常茶飯事だなんて、王族も大変そうだなぁ。まぁ私も、そのはしくれらしいんだけど。
私はおじさまに肩を抱かれ、室内に戻っていった。
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まだ入学前のある日、ステファンから打診があった。
「どうしよう、カタリナ」
「観劇、ですか」
手紙を読んだ私がカタリナに相談した。
「こういうの、許嫁のある殿下がやることじゃないと思うんだけど……」
だが、手紙の最後にはきっちり「これは命令だ」、と書いてあった。
(わがままな……)
「殿下の命令、とあれば、断るのも難しいですね。仮病でもお使いになられますか?」
「うーん、なんとなく、見破られて物凄く不機嫌になる殿下が見えるんだよね……」
そして曲がったへそを戻すのに大変苦労するだろう。謎の確信があった。
「今回は警備の者が同伴するようですから、そこまで警戒なさらなくても大丈夫かと思いますよ」
先日も襲われたばかりである。当然警護は厳重だろう。
「それなら、諦めて受けておくかなー」
「では、そのように返事をしておきます」
「あ、代筆じゃなくて自分で書くよ。文句も言っておきたいし!」
そうして私は筆を執った。
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「ベルンハルトだ。よろしく」
迎えに来たステファンに同伴していたのは、同年代の騎士見習いだった。ダークブラウンの髪にコバルトブルーの瞳の好青年だ。
(この人も馴れ馴れしいな……)
「メルフィナです。本日はよろしくお願いしますベルンハルト様」
「私のことも敬語はいらないし、呼び捨てでいい」
戸惑っているとステファンが続いた。
「ベルンハルトは幼馴染でな。同じ剣の師匠から教えを受けてるんだ」
「なるほど、きみらは旧知の仲、という訳だね。でも私、初対面で敬語を抜く人を初めて見たよ」
「ステファンがそうしろ、と言ってきたからな」
(このわがまま王子め……)
私がひきつった笑みをしていると、ステファンが得意満面で答えた。
「俺は堅苦しいのが嫌いなんだ。俺の周りで堅苦しいやりとりをするな」
「サラ様はどうなるの?」
「あいつは……なんでかな。そういう気になれない」
少し陰のある表情でステファンが言った。
親に無理矢理決められた関係、というのを飲み込み切れていないのかもしれない。
「ステファンはお子様だねぇ」
肩をすくめて頭を振って見せる。
「ほっとけ。それよりさっさと行くぞ。劇に遅れる」
三人で馬車に乗り込む。周囲は警護の兵が十人ほど付き従った。
「警護はこの人数で大丈夫なの?」
警護の様子を見てから、私がステファンに言った。
「あまりぞろぞろと連れ歩くわけにもいかないだろう?」
(命を狙われてる自覚、あるのかな……)
「ステファンは言い出したら聞かないからな。諦めておいた方がいい」
ベルンハルトの言葉に、ステファンは満足そうに頷いている。
馬車が劇場に向かう途中、ステファンが思い出したように口を開いた。
「そういえばメルフィナ。お前はどこで魔法を覚えたんだ? あれだけの防御結界なんて、結構難しいだろ?」
(うーん、これはどういったらいいのか)
「そうだなぁ。あれは夢の中で”私”が使っていた魔法っぽいんだよね」
「夢?! じゃあ実際に習ったことがあるわけじゃないのか」
「そうなるねー」
「あれだけ使い慣れてそうだったのに……」
私の言葉に、ステファンは驚きを隠せてないみたいだ。
「ステファン、それほど見事な魔法だったのか?」
「ああ、俺を咄嗟にかばった直後には、もう結界を展開していた。あれほど手際よく防御結界を張れる奴は、宮廷魔術師でもそう多くはないだろう」
「そんなにか」
「それに厳重な警備の中で、どの衛兵たちよりもいち早く対応して見せた。あれはどうやって気づいたんだ?」
これも答えに困ってしまう。
「うーんとね、なんとなく危ない気がして?」
「勘、ということか」
ベルンハルトの言葉に頷いておく。
「そういうことになるかな」
「失礼だがメルフィナ嬢、あなたは戦闘経験があるのか?」
「あるわけないじゃない。ただの公爵令嬢だよ? 私は」
ふむ、といった感じでベルンハルトは考え込んでしまった。
ステファンが意地悪い笑みを浮かべた。
「きっと小動物みたいに殺気に敏感なんだろ?」
「誰が小動物か!」
だが私の抗議が、ステファンの心に届くことはなかった。
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劇場に入る。開場までもうしばらく時間がありそうだ。
「ま、その辺で待つか」
三人でロビーのソファに腰かける。
ソファの周囲を衛兵が固めているので、大変物々しい。
「なんか……目立ってるね」
「仕方ないさ。諦めろ」
「貴賓室みたいなのはないの?」
「あるが、たまにはこうして待つのもいいだろう?」
(なんの意味があるの……)
頭が痛くなって押さえていると、ステファンが何かに気づいて立ち上がった。
衛兵を制止して移動すると、何かに困っている小さな女の子に近寄り腰を落とした。
「どうしたー? 迷子か?」
女の子は躊躇いがちに頷いた。
ステファンが衛兵の一人に目をやる。衛兵は頷いた後、係の者を呼びに行った。
「お母さんと一緒に来たのか?」
女の子が頷いた。
「もう少し待っていような。お母さんを探してくれる人を連れてくるから」
間もなく、衛兵が劇場の職員を連れて来て、女の子を預かっていった。
(子供には優しいんだなー)
ソファに戻ってきたステファンに話しかける。
「子供が好きなの?」
「ああ。子供は国の宝だ。そう教わってきた。でもなんていうか、そういうのを抜きでも好きだな」
「自分がお子様だから、子供を身近に感じるんじゃない?」
「そうかもな」
私の意地の悪い発言に、さわやかな笑顔で返されてしまった。
(……これでは私がお子様じゃないか)
なんとなく恥ずかしくなって頬を膨らませてしまった。
「昔から、ステファンは子供に優しいんだよ」
ベルンハルトが笑いながら言った。
(そういえば、勇者にもそういうところあったなー)
勇者は旅先で、よく子供たちを集めてはしゃいでいた。それを遠くから眺めているのが好きだった。
夢の記憶に浸っていると、ベルンハルトがそっと耳打ちをしてきた。
「そのように無防備な笑顔を、このような場所で晒してはいけませんよ」
どうやら気が付いてないうちに頬が緩んでいたらしい。慌てて扇子で顔を隠した。
「……内緒にしておいてください」
ベルンハルトは笑みで返してくれた。
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開場にあわせて貴賓席に座る。
ステファンが口を開いた。
「ロビーで劇を楽しみに待つ人たちが、たくさんいただろ?」
「そうだね」
「俺はな。ああして、人が笑いあってるのを見るのが好きなんだ」
「そのためにロビーに居たの?」
「サラが一緒の時はしないさ。でもおまえなら、こんなわがままも許してもらえる気がしてな」
「ふーん……」
そうしてる間に明かりが落ち、劇が始まった。演目は勇者の叙事詩を題材にした歌劇だ。
幼馴染の勇者と魔術師。勇者は神々に選ばれ、魔術師はそれに同行する決意をする。
(この辺は夢の通りなんだなぁ)
旅を続ける間に剣士や聖女が加わり、ついに魔王との決戦が始まる。
暗闇で音楽が大きく鳴り響く中、”私”の勘が鋭く警告を上げた。
「ベルンハルト!」
叫びつつ防護結界を張り、ステファンに覆いかぶさる。
天井付近からなにかが飛んできたが、すべて結界に防がれた。
私の叫びと動きに即応したベルンハルトが剣を抜き、衛兵に指示を飛ばし始める。
私が結界を展開する中、衛兵たちが天井付近を確認しに走る。劇は休みなく続いていった。
(殺気は……消えたかな)
「ステファン、無事?」
油断することなく結界を維持しつつ、ステファンに声をかけた。
「ああ、問題ない」
「ベルンハルト、一度外に出ましょう」
ベルンハルトは頷いた後、私たちを先導していった。
明かりの中、改めてステファンの無事を確認する。衛兵から、今回も毒矢が使われた、と報告が上がった。
「前回と同じ手口か」
ステファンの言葉に私が頷く。
「それにしても、狙いすましたように襲ってくるね」
「今日の予定は、近しいものにしか教えていないはずなんだがな」
逆に言えば、それでだいぶ容疑者が絞れたということだろう。ステファンの顔は不思議と明るい。
(もしかして)
「ねぇステファン。今回私を誘ったの、これが狙い?」
「よくわかったな。お前なら、対応してくれると思ってな」
私は頭を押さえながら首を振った。
「命知らずも、ほどほどにしときなさいよ」
「なに、お前がいれば安心さ」
にこり、と優しく微笑まれてしまった。
(どこからくるの、その自信と信頼は)
だが、こうも無防備に信頼されてしまうと、嬉しくなる自分もいた。胸がほんのり暖かくなる。
少し離れて衛兵を指揮していたベルンハルトが近寄ってきた。
「すまん、取り逃がした。――しかし、メルフィナ嬢。よくあれに対応できたな」
私が叫ぶまで、ベルンハルトも殺気に気づいていなかった。
「んー、そう言われても、今回も勘だからなー」
「その危機察知能力といい、即座に強固な結界を展開する速度といい、確かにステファンが信頼する気持ちもわかる」
ベルンハルトが頷きながら感心していた。
******
帰りの車中、ステファンが今日の事を振り返っていた。
「――今日の襲撃を可能そうなのはこのあたりだ。その辺を重点的に洗ってくれ」
「わかった。上に伝えよう」
ステファンがベルンハルトに言うべきことを言った後、私は疑問を口にした。
「ねぇステファン。どうしてあの演目を選んだの?」
「んー。なんとなく、俺がメルフィナと一緒に見たかった」
――勇者の叙事詩。襲撃させるのが目的なら、演目はどれでもよいはずだった。だがそうではないと、ステファンは口にした。
「なんとなくって、それであの演目を選んだの?」
「俺は昔から、あの物語が好きなんだよ」
ステファンは照れることなく言ってのけた。
なんだかその表情に、茶化しては悪いような気がして「そう」とだけ口にした。
「勇者に選ばれて魔王を退治する。男なら一度は夢を見る有名な物語だからな」
ベルンハルトも微笑ましそうに笑う。
「メルフィナは『あんな子供っぽいもの』、と笑わないんだな。サラにはそういって笑われたんだが」
「だって、ステファンが好きな物語なんでしょ? 誰かが好きだといっているものを笑うのは、あまり品が良いとはいえないよ」
真顔で答える。言った後で「あ」と失言に気が付いた。
(それだと、サラ様は品がない、と言っているように聞こえてしまったかも)
「他意はないよ?」
必死に弁明を始めようとする私にステファンが言った。
「安心しろ。サラには言わないから」
そう言って、どこか嬉しそうに微笑んだ。
「メルフィナ。お前はあの物語の中で、誰が好き、とかあるか」
「そうだなー。やっぱり勇者には憧れを感じるかな」
私は正直に話した。
「俺は幼馴染の魔術師が好きなんだ。理知的で頼りになる、けどどこか子供っぽくてほっとけない。そんなあいつが」
(叙事詩はそこまで描写していたっけ?)
そう思いながら反論しておく。
「えー、子供っぽいのは勇者も相当だよ? いつも魔術師を困らせていたのは勇者のわがままだもん」
夢の中で、いつも勇者のわがままがみんなを振り回していた。けれど、そんな旅路が楽しかったと思う。
「勇者は魔術師に甘えていたんだよ。『こいつがいればなんとかなる』ってな。信頼の裏返しだ」
「まるで、今の私とステファンみたいだね」
「そうかもな」
二人で笑いあった。
「……でも、最後は聖女と結ばれるんだよね」
「魔術師は、途中で命を落としたからな。そうでなければ、勇者と結ばれたのは魔術師だったと、俺は思うよ」
「ステファンは昔から、ヒロインの聖女ではなく、魔術師の方が好きだったんだよな。珍しいタイプだ」
ベルンハルトがあきれるように言った。
叙事詩の中でヒロインとして活躍するのは聖女だった。慈愛に満ち、行く先々で人々を救う描写が多い。勇者の次に人気があるといってもいい。一方で、魔術師はわき役に近い。
「俺は聖女が苦手なんだよ。なんでかは知らないけどな」
ステファンはそういって肩をすくめた。
(だから聖女の面影を感じるサラ様を敬遠するのかしら――いえ、ステファンは彼女の姿など知らないから、それはないか)
だけど、ステファンが聖女より魔術師を選んでいたことに、不思議と嬉しさを覚えていた。
******
翌日、おじさまの書斎に居た私は、なんだか寂しさを感じていた。
(なにか物足りない)
この心細さには覚えがある。夢の中で、勇者と別行動していたときに感じていたものだ。
(魔術師はいつも勇者と共に居たから、それはわかるのだけれど……なぜ今、私はその寂しさを感じているのだろう?)
そう思うのだが、そばにステファンが居ないことが原因なのは確かだ。
(会いたいな)
ステファンの顔が見たい。そう思ってしまっている。けれど、相手は許嫁のいる身だ。みだりに会ってよい相手ではない。
私は雑念を振り払うかのように頭を振り、手に持っていた魔導書に目を通した。
(私が咄嗟に出してしまっている魔法、なんだか違う気がするのよね)
手にしている魔導書には、防御結界魔法が記されていた。だがその魔法と私が咄嗟に使ってしまう魔法は、似て非なるものだ。
(アレンジした、なんてものじゃなくて、根本的なところから違う)
今まで読んできた魔導書を思い返してみても、夢の中で使っていた魔法とは体系が異なっていた。
(あの夢が前世の記憶だとするならば、古代魔法、ということになるのかな)
現代の魔法は、己の魔力を編み上げて術式を組み立てていくものだ。一方で、夢の中の”私”が使っていた魔法は、より高位の存在に干渉し、力を借り、魔法現象として発現させるものだった。
(こういうのは、古代魔法を研究しているおじさまが詳しかったよね)
おじさまが言うには、古代魔法は精霊や神に力を借りるものだったそうだ。高位の存在が、今よりもずっと力を持っていた時代の魔術体系だと。
(私が咄嗟に使ってしまう魔法も、神の力を借りている気がする)
夢の中で感じていた神の気配、それは今も感じることができている。夢を見始めたころから感じていたその気配。だがそれは、夢の中よりもずっと希薄なものだった。
(神様の力が弱まってる、ということかな)
私は本を棚に戻してから、夢の中で”私”が得意だった警戒魔法の一つを、丁寧に再現してみることにした。
(知識の神よ、お力をお貸しください――我が周りの脅威を我に示し給え)
祈りと共に魔法をイメージする。祈りで集まってくる力を、己の魔力でイメージ通りに形作っていく。――そうして私は、書斎全体を覆う警戒魔法を展開していた。
(やっぱり私は、夢の中の”私”が使っていた魔法を使えるのか)
魔法を解き、考えてみる。こうなると、あの夢が前世の記憶だというのに信憑性が出てくる。
(咄嗟に身体が動いてしまうことも、前世の記憶が影響しているのかな。きっと、”私”が長い旅で身に着けた戦闘経験が、今の私にも刻み込まれている)
中々に驚きの発見だが、それはそれで非常に頼もしい。”私”は一流の魔術師で、その機転はなんども勇者の危機を救っていた。
(命を狙われているステファンにとって、頼りがいのある力だよね)
そう結論付けて、私は書斎を後にした。
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