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一本目

 ぱちり。白が黒に返される。それを眺めていたツインテールの少女がさあっと顔を青ざめさせた。盤面の白はほとんどが黒になってしまった。どんなに物を数えるのが苦手でも、一目瞭然なほどに黒の勝ちだ。

 大して面白くもなさそうにオセロの白黒をひっくり返していた青年は最後の一枚をぱちりと置く。

「はい、俺の勝ちです」

「またー!?」

 ツインテールの少女は足をじたばたさせ、悔しいというのを全身で表現する。青年はそれを冷めた目で見ていた。

 何が悲しくて延々とオセロをひっくり返し続けるのか。それはひとえに暇だからである。

 オセロを片付ける様子もなく、少女は不意に、本当に不意に全く関係のない話を始めた。

「ねえ、なんで迷子のペットって犬より猫の方が探されるの?」

 オセロを続けるつもりもなく、片付けるつもりもないらしいことを悟った青年が、黙々とオセロを片付けながら、片手間に答えた。

「猫は気紛れだからですよ」

「適当に答えないでよ!」

 さすがに片手間すぎることがバレたらしい。ただ、猫が気紛れなのは事実なので、嘘は言っていない。

「犬は帰巣本能が強いので、はぐれても家には帰ってくるからですよ。賢いんですよ、犬は。しつければしつけた分のことをちゃんと覚えますし」

「へえ、詳しいね。もしかして犬派なの?」

「普通にこれくらい知ってますよ……」

 犬の帰巣本能云々は習いこそしないがどこかでは耳にするはずだ。だが、少女はそういう情報に頓着しない。

「猫にはないの? 帰巣本能」

「ありますよ」

「じゃあなんで猫は帰らないの?」

「猫の本能ですね」

「また適当なこと言って!」

「本当ですってば」

 だるそうに頭を掻き、青年は答える。

「帰巣本能っていうのは読んで字のごとく巣に帰る意識のことです。猫にも巣に帰ろうという意識はありますが、猫の本能と言ったのはつまり、帰巣本能を上回ることが多い強い意識が猫の中にはあるってことです」

「帰巣本能より強い本能があるってこと?」

「そうです。猫は気紛れ、というのはよく聞きますが、それは猫が単に気分屋なのではなくて、猫は『より快適な空間にいたい』という意識の下に行動しているからです。まあ、だからはぐれた場所が元の居場所より快適だったら、そっちに居着くらしいんですよね。あと、猫の帰巣本能は体内に記憶している地図が元になっていて、帰り道はわかるんだけど、帰っている途中に別な地図を作って上書きしてしまうことがあるとか。上書きされた地図は目的の中心部が違うので、家に帰れないらしいです」

「まじで詳しいね」

「ググったら出ましたよ」

「ググったことあるんだ……」

 まあ、これは帰巣本能云々の話であり、猫が犬より捜索されやすいことへの答えとは限らないのだが、少女はその辺は気にしていないようである。

「よし、次はトランプやろう。大富豪で勝負だ!」

「二人でやる大富豪は切なくないですか? 大富豪と大貧民が生まれるだけですよ……」

「じゃあトランプタワーは?」

「崩れたとき誰が片付けるんですか」

「崩れる前提で話さないでよ」

 そのとき、ピンポン、と間抜けなインターホンが鳴った。青年が部屋を出ていく。

 立ち上がると青年の背は冗談みたいに高く、天井はすぐそこであった。娯楽部屋のようなそこを出ると、オフィスに繋がっており、窓の外に向けて印字してあるため、反対向きに見える文字たちがその場所がどういうところであるかを示していた。

 青年がオフィスから出て、インターホンにどうぞ、と答えると、ヒールで階段を昇る音が聞こえた。客は女性のようだ。青年はドアを開けて出迎える。

「ようこそ、結城探偵事務所へ」

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