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吸血のハニーレイン  作者: 宵の月
1/1

マッチングアプリ

宜しくお願いします。

吸血鬼に血を吸われた者。その者即ち吸血鬼となる…。











































「あー、誰か良い男でも見つからないかな〜。ね!雫。」

「………」

隣席で酒を煽り、異性との出合いがないことを嘆く親友・夜華を尻目にかけ雫は小ジョッキを手に取り200mlのビールをぐいっと勢いよく飲み干した。

「…久しぶりにお互い予定が合ってこうして飲みにきているのに話題が男って…。他になんかないの?」

雫はつい不満を口にした。

「あはは!ごめんごめんって!ほら、なんやかんやであたしもあんたももう26じゃん。少しは結婚とかそういうの考えとかないとまずいっしょ。」

「そうかな。私はまだ早いと思うけど。」

「なーに言ってんの!そんなんじゃあっという間に30過ぎておばさんになっちゃうでしょ。…でもまぁ、新人美人アナウンサーである雫だったら問題ないか。」

「……はあ?」

夜華の言葉に雫はつい眉をしかめた。

「はぁ…。あのさ私昔から男の人が苦手だって夜華知ってるでしょ。それに今の仕事凄い忙しいし。」

社会人になって2年。

午前1時には起床し、身支度を整え朝食を手短にとり

午前3時までに勤務地であるテレビ局に向かわなければならず4時までにはスタジオ入りしなければならない毎日だ。

「最近目のクマも酷いし、化粧でカバーするのが大変だよ。」

「確かに雫前より痩せたような気がする。あんまり無理しちゃだめだよ。身体壊れちゃったら元も子もないんだからさ。」

「そういう夜華は前より随分綺麗になったよね。肌の艶もいいし。羨ましい限りだよ。」

雫はそう言っておつまみの唐揚げを箸でつまみ上げると一口かじる。

口いっぱいに肉のジューシーさが広がり、思わず笑みがこぼれ落ちる。

「雫はほんっと昔から色気より食い気よね。雫が言う男の人が苦手っていうのも単に免疫がないだけでしょ。」

「そんなこと!……はあるけど。」

夜華の言葉に否定できず。つい目線を唐揚げの方に逃げてしまう。

雫は極度の男性恐怖症ならびに赤面症である。

昔から男性と二人っきりになるというのがどうしても恥ずかしく苦手であった。

職場でも数人の男性はいるがあくまでも“仕事”として接し、誘われても丁重にお断りを入れていた。

雫自身、結婚願望が全くないわけではないが結婚している自分など到底想像もつかないうえに昔から男性を苦手対象としている点で半ば諦めている。

「少しは男の人に免疫つけたほうがいいって!雫は綺麗で可愛いんだからもっと自信を持っても良いと思う!」

「別に良いってば!私の性に合わないよ。それに今の生活もそれなりに満足してるし。」

そう言って唐揚げを口に放り込む。夜華は思わずムッとして雫を軽く睨む。

「いやいや!やっぱダメだって!そんなんじゃ!せっかく人間の女として生まれてきたのに恋愛の一つもしないなんて人生半分損してる!」

「私は損してるなんて一度も思ったことないけど。」

「今はそうかもしれないけどそのうち後悔する時が来るかもしれないよ。若いっていうのも今だけなんだから!だからさ…。」

そう言って夜華はバッグの中からスマホを取り出すととあるアプリを開いて雫に突きつけた。

「…何それ?」

「見りゃわかるでしょ。“マッチングアプリ”だよ。」

夜華は顔をニヤニヤしながらそう答えた。

「………」

「知ってるでしょ。マッチングアプリ。ネット上で異性とやりとりして交流を深めるっていう。あたし最近インストールして使い始めてみてるんだけど中々マッチしなくてさ〜」

夜華はつい不満を口にする。

雫は軽く引きながらそのアプリ画面を眺めていた。

「マッチングアプリって…。夜華出合いがないからっていくらなんでも出合い系に手を出すなんて…」

「別に出会い系ってわけじゃないよ!ちゃんとした審査手続きとかもあるし。それにネット情報だと身体目的の人たちが使ってるわけでもないらしいからさ。」

「ネットなんてあてになるわけないでしょ。」

雫はつい呆れて右掌を額に触れる。

「夜華は学生の頃凄いモテていたじゃない。そんなアプリを使っていたなんて想像もつかなかったよ。」

「仕事柄職場に男性がいなんだからしょうがないじゃん!!あー彼氏欲しい欲しい。」

「はいはい。」

「雫もこのアプリ使って一緒に彼氏作ろうよ!」

夜華の発言に雫はついむせてしまう。

「はぁ?!無理無理何言ってんの。嫌だよそんなの。」

「そう嫌がってばかりだから雫はそんなままなんだよ。少しは克服しようって努力しなきゃ。」

「余計なお世話だよ!そんなの。別に私は彼氏とかそういうのいなくたって生きていけるし…」

「そんなこと言って!あたし知ってるんだから学生の頃、一度だけ雫が後輩の男の子に恋してたってこと。」

「………」

夜華の言葉に雫はつい俯いた。

思い出すこと5年前。雫が大学3年21歳の時だ。

雫には密かに恋していた人物がいた。一つ年下の同じサークルに所属する後輩だった。彼は別段イケメンというわけではなく大人しく優しい男性だった。

雫が彼に惹かれたのは誰にでも平等に接して評価し、小さなことにも気遣ってくれる所であった。

当時、男性と全く話すことができなかった雫に対して優しく穏やかに接し、いつも赤面ばかりでまともな会話ができなかった雫のペースに合わせてくれて拙い言葉ではあったが唯一コミュニケーションを取れていた人物であった。

そんな彼にいつしか思いは大きくなり雫はやや辛さを感じていた。

この感情が恋心であることは自分でも理解していたが彼にそのことを伝えるつもりは毛頭なかった。

そんなある日のことである。たまには自分から彼に声をかけようとサークル活動に勤しんでいる彼のもとへ向かおうとした時だ。

彼に声をかけている女子が目につきそのまま二人は寄り添って歩いてくのを見てしまった。

彼には彼女がいたのだ。それもとても可愛いらしい小柄な女子。

その光景を目にした後、なんともいえない感情が雫を襲った。一つわかっていたのはその時雫は何故だか涙を流していたということだけだ。

そんな出来事を思い出すと雫はつい苦い顔をした。

「…確かにあったかもね。そんなこと。」

そう言って二杯目のビールを口にする。

「あったの!そんなこと!あたしもあの時の雫は本当に見ていられなかったよ!もっと雫に自信があって男性が苦手じゃなかったら少しは違っていたのかもしれないなーって思ってたのに。」

当時、雫の後輩への片想いは夜華にはバレバレだったらしく彼が彼女もちであることを知って泣いていた雫をそれはもう大いに慰めたものだ。

「あの時はまあ、夜華には感謝してるよ。でもまぁ彼が幸せならそれはそれでいいのかなって今ではそう思っているし。」

「雫は優しすぎるよね。本当に。別にあの時、諦めないでいっそのこと彼女から後輩くん奪っても良かったのに。」

「できるわけないでしょ。そんなの。それに今よりも女っぽくなかった私に…」

「女っぽくないのは今も同じでしょ。だからこそ!はい!」

そう言って夜華はアプリを開いたスマホを雫の右頬に押し付ける。

「だからやだって…」

「いいの!少しだけでも物は試し。やってみるのはいいことだって!」

「そんなこと言われても…」

「もしかしたら今よりもっと女っぽくなれるかもしれないしそれに…」

酒のせいでもあるだろうが多少なりとも酔っている夜華は強気な満面の笑みで言った。

「少しだけでも男性のことを苦手って思わなくなるかもしれないよ。」
















夜華と居酒屋で別れて自宅に戻ると時刻は午後8時を回っていた。雫はすぐに風呂に入り、ドライヤーで髪を乾かすと部屋のベッドの上に倒れこんだ。

「せっかくの休みだったのになんだか疲れた気分だな…。」

そう言って雫はスマホを手に取りタップするとおもむろに今日夜華に教わったアプリを開いてみた。

『良い?マッチングアプリっていうのはいろんな男の人のプロフィールを見てみていいなって思った人のプロフィールにいいねってボタンを押すの。それで運が良ければ自然にマッチしてチャットに飛べるからそれからやり取りがはじまるの!」

あの後夜華に半ば強引にスマホにアプリをインストールさせられ夜華の言う通り審査手続きを済ませた後、自分の個人アカウント並びにプロフィールまでも作らされた。

『プロフィールにはいいね数っていう数字が載っているから周りからもどれだけその人が人気なのかもわかるからおすすめだよ!くれぐれも危なそうな人にはマッチしないよう注意してね!』

夜華の言葉を思いだすとついため息がでてしまう。

「そんなこと言ったってどこをどう基準に危なそうなのかよくわかんないじゃない。全く…」

そう不貞腐れながら多くの男性のプロフィールを上にスライドしていきながらそれぞれ眺めていく。

そんな中次々と雫のスマホに多数の通知オンが鳴り響く。

何事かと思ったらどうやら新しくアプリを始めたばかりである雫のプロフィールをみた世の男性陣たちが一斉にいいねを送信してきたのだ。

軽くドン引きして青ざめていた雫はふとあるプロフィール画面に目がいった。

プロフィールユーザー名《雨》

いいね0 足あと0

身長160〜180

体重 ひみつ☆

家族構成 不明

子供の有無 不明

結婚歴 不明

相手に求めていること

血が飲みたい

とそう記されてあった。

「…何この人。」

プロフィールの文面が明らかに怪しさ全開そのものであり夜華のいう危なそうな人物というのはこういう奴なのではと雫は思った。こういうヤバそうな奴は本当にいるもんなんだなと思ったがそのユーザーのプロフ画像を見てみると。つい見惚れてしまうほど美しい顔の持ち主であった。色白で瞳は蒼く鼻が高くて小顔であった。髪は黒色で癖っ毛なのか丸みがあり右目が隠れている。

綺麗な顔だなと最初は思ったがきっと何かしら加工しているのに違いないと思った。雫以外の女性ユーザーもきっとそう思ったに違いない。わけのわからない奇怪な文章に整い過ぎている顔写真だ。それ故にいいね数が0なのであろう。

「はいはい。無視無視っと。」

雫がそう言って上へスライドしようとした時だ突如アパートのインターホンが鳴り、驚いた雫はついスマホを滑らせて落としてしまった。

「あちゃー」

やっちまったとばかりにスマホを拾い上げると雫はさらにもっとやってしまったと顔を硬らせた。

今のでなにか変に反応してしまったのか、《雨》という人物のプロフィールにあろうことかいいねのボタンを押してしまっていたのだ。

「嘘でしょ…。」

雫はあまりの出来事に絶句したがインターホンがなってドアがノックされていることに気づく。

「雫ちゃ〜ん。いるー?」

どうやら隣の山林さんのようだ。

「はっ、はい!今でます!」

そう言って雫は仕方なくアプリを消してスマホを閉じると玄関へ向かった。


午後9時30分

雫は起床時間が早いためいつもはもう少し早めに寝るのだが今日は旧友との飲みもあってつい長引いてしまった。

雫はベッドの布団に潜りこむと多少の疲れがでたのか眠気が襲ってきた。

親友の夜華は多少強引な所はあるが根は友達思いの良い子である。

「夜華に良い人が見つかるといいな」

そうぽつりと呟いているうちにいつのまにか雫は心地のいい夢の中へと吸い込まれっていった。


午前12時00分

雫はふと目が覚めた。何故だか異様に肌寒さを感じたからである。

スマホを手に取ると時刻は12時1分と表記されていていたため雫は軽く舌打ちする。

いつもは午前1時に起床する。まだ起きるのに1時間早い。貴重な睡眠時間であるのに目が冴えてしまっていた。

「もう最悪…。ちゃんと窓閉めたはず…なのに…。」

雫はそう言って部屋の窓を見ると言葉を失った。

窓辺に人影が佇んでいたからである。

「だ、誰……」

あまりの恐怖に雫は顔を硬らせ目には涙を浮かべた。

人影はゆっくりと立ちあがると慄く雫に近づいてきた。

「誰だって?君が僕に“いいね”をしてくれたんだろう。」

「……へ?」

声はナイーブな中性的な声をしていたがそれは男性の声であるということはわかった。

「あなたは…」

月の光に照らされて男の顔が雫の目にはっきりと写った。

それは先程アプリで見ていたユーザー名《雨》その人であった。

てっきり加工しているのであろうと思っていた顔は本当に実在していた。

写真で見た時よりもだいぶ美しく肌は色白く綺麗な蒼色の目は全てのものが吸い込まれそうな感覚になるほどだ。

あまりの美しさに男性に対する免疫がない雫は両頬を真っ赤に染め身体を硬直させるばかりである。

そんな雫を《雨》は勢いよく抱きしめると雫は「きゃっ!」と短い悲鳴を上げた。

「ずっと待っていたんだ。女の血を…」

《雨》はそう嬉しそうに呟くと雫は目をぐるぐると回らせていた。

「あ、ああのあな…あなたはいった…」

雫は《雨》に何とか問いかけようとした矢先、唇に何やら暖かく柔らかいものを感じた。

《雨》が雫の唇に口付けをしたのである。

「…っ?!」

突然の出来事に雫は一瞬頭の中が真っ白になったが

雫は男を自分から引き剥がそうと必死に抵抗した。

すると…

「んっ、?!」

こともあろうに男は自身の舌を雫の舌と絡ませていた。

雫は必死で抵抗するが男の激しくも濃厚なディープキスにだんだんと翻弄されていった。

「んっ、…むぐっ…んん…はぁ…。」

男は雫から唇を離すと糸を引いた。

すっかり男に主導権を握られ雫は自分の脳みそがもしや溶けてしまっているのではないかと思った。

そんな時だ右肩にじわっと痛みが走った。

何事かと思って視線を向けると何やら男が何かを啜っているようであった。

そしてわかった。

男は雫の“血’’を吸っていたのだ。

「い、いやあああ!離して!」

雫は自分の血が吸われていることに気づくと大慌てで抵抗する。しかし…

「あ…はぁ…んあっ!」

何故だか雫の身体は熱い。身体中が燃えるように熱かったのだ。

「嫌…だめ…はな…して…んぁっ!はぁ…あん…」

身体はどうしようもなく熱いがそれと同時にどうしようもない快楽が雫を襲ったのだった。

「何とも美味な血だ…。もっと僕に捧げよ。」

「あっ…んんっ!はぁん…ら、らめ…い、嫌…」

あまりの快楽に呂律がまわっていないようであった。そんな雫の耳元で男は呟いた。

「声が甘いな…可愛い奴だな君は…」

「んっ!…」

その瞬間雫は全身の力がすっと抜けそのまま倒れこんでしまうのを男が支えた。

「おっと、危ない危ない。いやはや美味な血であった。また来るぞ。」

そう言って雫をベッドに寝かせると男はもときた窓の外へと飛び出していった。

それから数分経つとスマホのアラームが鳴り響いた。

雫はアラーム音に目を覚ますと時刻は丁度1時00分と表記されていた。

「…ゆ、夢?」

先程の出来事は一体なんだったのか雫は未だにはっきりはしなかったがとりあえず出勤の準備をしなければと身体をベッドから起こしたその時だった。

「いたっ!」

突如、右肩からじわりと痛みを感じた。

触って掌を見てみると少しばかり血で滲んでいた。

やはりさっきのは夢ではなかったのか。

「あの人は一体…」

雫は先程の男が佇んでいた部屋の窓へと目を向ける。

寝る前に閉めていたはずの窓はやはり開いていた。

ありがとうございました。

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