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魔王と勇者の転生体  作者: 春賀喜多
第1章 幼少期
3/5

不思議な4人暮らし

 「ほら、口を開けろ。ミルクの時間だ」


 銀髪の少女がぶっきらぼうな口調でスプーンを俺の口に近づける。

 俺は大人しくその少女の腕の中でミルクをいただく。


 それにしても…この少女は随分粗末な小屋のような場所に住んでいる。

 部屋は恐らくひと部屋しかない。寝るときは床に毛布を敷いて寝る。

 かまどや水場のようなものはあるが、もちろん部屋の中にだ。

 あとは暖炉くらいしかない。なんとも寂しく貧しそうな住まいだ。


 俺が赤子として目を覚ましてから、少女と金髪の女と偉丈夫は荒れ地を旅していくつかの集落を渡り歩いた。そして、ここに少女と俺だけを残し去っていった。一度だけ偉丈夫が何かを持って訪れたが、それ以降彼は来ていない。

 どういう経緯でこの少女と俺が一緒にこんなボロ小屋に住むことになったのかはわからなかった。

 言葉がわからなかったのだ。

 しかし、どれくらい発ったのかはわからないが、最近では少女の話す言語が理解できるようになっていた。少女は決して口数は多くない。ほとんど無口と言って差し支えないかも知れない。なのになぜ言葉が理解できるようになったのか。それは、口やかましい二人の男の存在があったからだ。


 「ふむ、リリアーナよ。ミルクをあげるにしても、赤子にはもう少し声をかけてやらないといけないのではないか?ほら~、おいちいミルクの時間でちゅよ~、べろべろば~!」


 銀髪金眼の男が俺に気持ち悪い仕草でべろべろば~というのは…なんというか、ね。俺も体感年齢アラサーの身としては少々厳しいものがある。


 「…リリアは不器用で口下手なんだよ。そんなこと出来るはずがないだろう」


 そう言ったのはもう一人の男だ。茶髪で青い目をしたモテそうな男だ。さぞかしリア充に違いない。


 「しかしリリアーナも子供を育てるのであれば、もう少し自覚をだな…」


 「その子供が問題なんだ。あんたは転生術を使ったと言ったが、ごらんの通りあんたは幽霊のようになっちまって転生術を使って世界のどこかに逃げおおせることに失敗したわけだ。もちろん、すぐ側にいた俺もこの有様だ。だとしたら、俺とあんたの特徴を受け継いだこの赤子は…一体誰なんだ?」


 「ふむ…わからん」


 「わからんじゃないだろう!俺にはこの赤ん坊が魂のない存在には見えないぞ。腹が減れば泣く、おしめを濡らせば泣く、普通の赤子に見える」


 「ふむ…これはあくまで仮説だがな。あの時吾輩はお前たちの強力な結界術から逃れるのは不可能だと判断し、肉体を捨て、転生術をもって別の体に逃げおおせようとした。しかし、予想以上にリリアーナの魔力が強くてな、それは失敗に終わったと言うわけだ」


 「それはわかっている。で、問題はその先だ」


 「ふむ」


 銀髪の偉丈夫は顎に手を当て思案しながら続きを話す。


 「吾輩の転生術も中途半端、貴様の結界術も中途半端。その結果がこの赤子だ」


 「どうして転生術と結界術が中途半端で、俺とあんたが体を失い、赤子が生まれるんだ」


 「転生術は召喚術に似ている。というより、兄弟のようなものだ」


 「そんな話きいたことがない!」


 「人間は魔法を理解していないからな。そもそも人間の身では魔力が少なすぎて転生や召喚、結界といった高度な魔法は使えん。だから貴様もリリアーナに結界魔術を使わせたのだろう?」


 「…そうだな。それで?」


 「ふむ。つまり転生は生命を送り出す魔術であり、召喚は生命、またはそれに類似したものを呼び寄せる魔術だ。吾輩の転生魔術が失敗したことにより、何者かの魂だけが召喚されたか、あるいは、造られた、ということだな」


 「魂が造られた?」


 「然り。魂は複雑な過程により造り出すことができる。例えば、一度命令を下せば命が解除されるまで戦い続ける魂や、もっと簡単なものなら、下女のようなただいうことを聞く感情のない魂も可能だ。まあ、器…人間の体や、動物の体などが必要にはなるがな」


 「じゃあ、こいつは…なんらかの魂が造られた存在だと?」


 「いや、魂の創造は複雑だ。別の人間の魂が召喚されたと考えた方が自然だな」


 二人の男は複雑な表情で俺を見下ろした。銀髪は特に普段から顔が怖いのでやめて欲しい。

 なんなら、得体のしれないやつが銀髪の少女…リリアーナのそばにいるのは危険だから殺そうとか言われたらたまったもんじゃないからな。ここは媚でも売っておこうか。


 「あうー、あー」


 俺は赤子の声を出し、銀髪の男に手を伸ばした。男は顔をほころばせる。


 「ふむ…悪い奴ではないだろう。赤子だ。貴様のことより吾輩の方が好かれているみたいだしな」


 ちょろい。銀髪は得意げに、ふふん、と鼻をならした。


 「あんた…こいつが悪い奴でリリアを危険に晒すような存在だったらどうするんだ」


 「む…」


 眉間に皺を寄せて今度は怖い顔で俺を睨みつける。


 「あう~」


 俺が一声発せば銀髪は頬を緩めた。ちょろい。


 「いや…あんた…まあ、いい。俺もこんななりじゃこいつですら殺すことが出来ないしな」


 殺すとかお兄さん、冗談でもやめて欲しい。というか、生まれ変わって突然誤解で殺されるとか勘弁して欲しい。事情はなんか複雑みたいだけど、俺は前世で傲慢なくせに怠惰に生きたことを後悔しているんだ。今度はきちんと勉強して一流上場企業で働くか士業を目指してチャレンジとかしたいし…いや、そういう世界じゃないってことはもうわかっているんだけどね。


 「こいつに別の魂が入っているとして、俺たちが幽霊みたいになっているのはなんでなんだ?」


 茶髪の兄ちゃんが質問を再開する。


 「うむ。貴様の結界術は光の勇者である貴様を依り代にして、吾輩と貴様を永遠に封じ込めるというものだったな」


 「ああ、そうだ。野郎同士の無理心中だな」


 なんて言い草だ…


 「それはある意味成功したといえよう。しかし、依り代になったのは貴様ではない。この赤子だ」


 「なんだって!?」


 どういうことだってばよ?


 「貴様も気づいているだろう。吾輩も貴様もこの赤子から離れて動くことはできない。つまり、吾輩と貴様の魂はこの赤子に封印されているのだ。出来損ないだがな」


 「…できそこない?」


 「うむ。現にこうして赤子のそばを漂う程度のことはできる。完全な封印ならそれも儘ならないだろう」


 「なるほどな…」


 つまり、俺はこの人たちの喧嘩に巻き込まれて、赤ん坊に転生した挙句、一生幽霊みたいな存在の二人のイケメンに付きまとわれるってこと…?なんだかとばっちりが激しいなぁ。


 「とにかく、この赤子が生きている限り吾輩も貴様も囚われたままだ。それに、この赤子が死んだところで元に戻る肉体もない。ここでリリアーナの暮らしと赤子の成長を見守るくらいしかすることもないだろう」


 「…もう、リリアに話しかけることすら出来ないのか」


 「元よりそのつもりだったのだろう」


 「まあ、な。でも、すぐそばにリリアがいるのに…」


 「ふん。青臭いことを言うな。我妻はもう死んだぞ。貴様ら人間に殺されてな」


 「…」


 この話はたまに聞くんだよな。どうやら、この銀髪金眼の偉丈夫はデュピロスとかいう魔王様だったらしいんだが、人間によって奥さんを殺されて世界征服をしたらしい。で、事情を知らない若造のこの茶髪に青目の兄ちゃんが光の勇者アクトだかで、デュピロスを封印しようとしたとか…

 まあ、客観的に聞いてる限りデュピロスは可哀そうだけどやりすぎなんだよな。アクトは突っ走り過ぎだし。どっちも極端というか…まあ、デュピロスは見た目に似合わず達観しているようで今の状況でも割と穏やか、というか隠遁じいさんの雰囲気すらある。対するアクトは若いんだろうな。まだやり残したことがあるというのが滲み出ていて、現状を受け入れられないって感じだ。個人的にはデュピロスとの方が仲良くしたいね。魔法、使えそうだし。話せるようになったら教えてくれないかなぁ。剣と魔法の世界!とか、憧れるよな。次こそ長生きしたいから危ないことはしないけどね。


 

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