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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

SかMか

彼女か、彼女でないか ~SかMか3~

作者: 青葉めいこ

 俺にとって女は二種類しかいない。


 彼女か、彼女でないか。





 前世で義理の母である彼女に手を出したのは、ちょっとした好奇心からだった。


 堅物な養父である大叔父が大金を払ってまで手に入れ妻にした若く美しい女。


 しかも、仕事上の取引相手の「玩具」になっていた女だ。それ以前も実の両親によって金持ちの変態共の「玩具」として売買されていたという。


 あの堅物な養父が、そんな女を大金を払ってまで手に入れた上、妻にしたと聞いた時は驚いた。


 確かに、彼女は俺が今まで見た人間の中で最も美しいと言ってもいいほどの容姿だ。


 堅物な養父といえども男。


 孫ほど年が離れていようと、その美しさや妖艶さに篭絡されたのだろう。


 俺も男として彼女に惹かれた。


 俺は人として何かが欠けているのだろう。


 養父が俺を本当の息子や孫のように愛してくれているのを分かっているのに、その彼の(おんな)だろうと手を出すのをためらったりはしなかった。


 金や権力で養父に負けているのなら歯止めになったが、幸か不幸か、俺はもう養父を上回る金と権力を手にしていた。だから、養父を敵に回しても恐れはしなかった。





 彼女が普通の女でないと、すぐに気づいた。


 押し倒した俺に最初から抵抗せず、おとなしく抱かれていた。力では敵わないから俺に従っていたのではない。


 義理とはいえ息子である俺との不倫を楽しんでいたし、変態から救い出してくれた夫になった養父を裏切る申し訳なさとかも、まるでなかったからだ。


 彼女は真性のドMだ。


 罵倒されて悦ぶ人間なのだ。


 彼女にとって実の両親によって変態共の間で売買された人生は不幸でも何でもなかった。


 普通ならば死にたくなるような境遇を彼女は存分に楽しんでいたのだ。


 そんな彼女を俺は理解できない。


 けれど、否定する気もない。


 これが「彼女」だからだ。


 ここにきて俺は、ようやく自分の恋心を自覚した。


 どれだけ美しい容姿だろうと、体の相性が最高だろうと、こんな難儀な女を受け入れようという気になったのだ。


 恋以外の何だというのか。


 自分の気持ちを自覚した後は、彼女を完全に俺のものにしたくなった。


 愛人関係では我慢できなくなったのだ。


 彼女が俺に恋していない事は分かっている。


 俺は彼女でなければ駄目だが、彼女は「俺」でなくてもいいのだ。


 俺の外見を気に入り体の相性も最高で何より自分の性癖を満たしてくれるから俺と不倫しているに過ぎない。


 俺以上に自分を満足させてくれる男が現われれば、俺をあっさり捨て、そいつの元に行くと断言できる。


 彼女は確かに金で買われ変態共の「玩具」にされてきた。一見、囚われているように見えるだろう。


 けれど、違うのだ。


 彼女は望んで、その境遇に身を置いていたのだ。


 嫌になれば逃げるなどという面倒な真似はせず、元凶を、自分を「玩具」にしている主人(変態)殺す(始末する)はずだ。それも、自らの手を汚すのではなく、その美しさで篭絡した男を使ってだ。


 短い付き合いでも、彼女がドMなだけの女でないのは見抜いている。


 自らの欲望に忠実で、嫌な事があれば他人どころか自分の顔や体を使ってでも排除するのを厭わない、したたかで美しい女。


 こんな女、二人といない。


 俺にとって唯一にして永遠の愛しい女。





 まさか養父が彼女を殺すとは思わなかった。


 確かに、彼女は夫である養父を裏切った。


 けれど、堅物な養父の事、怒りはしても殺人まで犯すとは思わなかったのだ。


 恋は人を狂わせる。


 社会的地位が高く堅物で優しい養父すら、殺人という人としての禁忌を犯したのだ。


 彼女を銃殺した養父は呆然と立ち尽くしていた。


 その彼をわざと挑発して俺を殺すように仕向けた。


 養父を殺しても彼女は生き返らない。


 彼女がいない世界で生きても俺には無意味だ。


 ならば、せめて養父には、妻と義理の息子を殺した罪を背負って苦しんで生きてほしい。


 それが、俺の最愛の女を殺した養父への復讐だ。


 お養父(とう)さん、あなたにとって彼女は、まさに運命の女(ファム・ファタル)だ。


 Famme fatale(ファム・ファタル)。


 魅入られた男を破滅させる妖婦。


 彼女と出会わなければ、妻にしなければ、晩年を犯罪者として監獄で過ごさずにすんだ。


 俺にとっても彼女は運命の女(ファム・ファタル)


 けれど、俺にとっては俺を破滅させる妖婦(おんな)ではなく唯一にして永遠の愛しい女だ。





 俺は異世界のデアードエッス帝国、ドーエッド侯爵家の嫡子ドナティアンに生まれ変わった。


 俺は胎児から「俺」だった。


 前世の記憶と人格を持つ俺にとって彼女以外に価値を見出せない。


 地位も権力も金も興味はない。


 それでも、この世界に転生しているかもしれない彼女を見つけ手に入れるのに、それらが必要になると思ったからドーエッド侯爵になろうと思った。


 デアードエッス帝国は性に奔放で一夫多妻だ。


 今生の父も他の貴族同様、正妻である俺の母だけでなく他の妻との間にも子供を、俺の兄弟姉妹を作った。


 能力重視の国でもあり正妻との子だろうと能力がなければ妾の子が家を継ぐ。


 俺と違って野心から次代のドーエッド侯爵になろうと俺に暗殺者を送って来た兄弟姉妹は容赦なく(始末)した。


 俺に恭順の意を示し、能力がある兄弟姉妹は、部下として容赦なくこき使った。わざわざ優秀な部下になる人間を探してきて教育するより身近なのを使う方が効率的だったのだ。


 この世界の成人年齢である十八歳になるとドーエッド侯爵だった父親を表向きは病気療養という名目で領地の片田舎に幽閉し、俺が新たなドーエッド侯爵になった。





 彼女が「彼女」であれば分かるという自信があった。


 前世と違う姿なのは覚悟している。


 俺自身、前世とは、まるで違う姿だ。


 前世で最初に惹かれたのは、その美しい容姿だった。


 けれど、彼女の厄介で難儀な中身を知っても嫌悪するどろか否定せず受け入れようという気になったのだ。


 前世のような美しい容姿でなくてもいい。


 彼女が「彼女」であれば俺は愛せる。


 果たして、今生で見つけた「彼女」は前世と同じく完璧な美しさだった。


 前世と同じ姿ではない。それでも、人に与える印象は同じだった。


 艶麗な印象の絶世の美女。


 さらに、ドMな性癖も変わらない。


 俺と同じく胎児から前世の記憶と人格を持っていたのだ。


 それには安堵した。


 魂が同じでも、前世と同じ美しい容姿であっても、それだけでは俺にとって「彼女」ではないからだ。


 魂や姿が同じだけでは駄目なのだ。


 他人が絶対に受け入れようとは思えない、あの厄介で難儀な人格や俺と過ごした前世の記憶を持つ「彼女」こそ、俺の唯一にして永遠の女、俺の運命の女(ファム・ファタル)だ。





 今生で出会って即、求婚してきた俺に彼女は戸惑った様子だった。


 やはりというか、俺の気持ちは彼女にまるで伝わっていなかったのだ。


 今度こそ完全に手に入れる。


 義理の母子でも愛人でもなく生涯を共にする妻として――。


 前世の最期、彼女は「貴方がいい。貴方でなければ駄目だわ」と言った。


 彼女という人間を理解できなくても否定せず受け入れる。


 その俺の言葉が彼女の胸を打ったようだ。


 もし、今生で彼女の俺への気持ちが変わったとしても逃がしはしない。





 俺にとって女は二種類しかいない。


 彼女か、彼女でないか。


 何度生まれ変わっても俺が「俺」である限り彼女が「彼女」である限り手に入れる。


 逃がさない。


 俺の唯一にして永遠の女(ファム・ファタル)





 








 



 








読んでくださり、ありがとうございました!


この話で「SかMか」のシリーズは終わりです。

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