5.彼とロミオ
(ティボルト・キャピュレット─。)
その名前はロミオも聞いたことがあった。
あのパーティーでジュリエットが紹介してくれたから、顔も知っている。
(あいつが、マキューシオを……。)
ロミオは気づいたら怒りに燃えていた。
さっきまで、絶望しかなかった自分が嘘のようだった。
ロミオは憎しみという名の希望を手に入れたのだ─。
ロミオが決意を固める時には、もう雨は小降りになっていた。
行くなら今だ。
「ありがと、ロレンス。」
そう言うと、ロミオはキャピュレット家に向かった。
(キャピュレット家に、着いた……)
ここに来るのは久しぶりである。
(ここでジュリエットと会ったんだっけ……?)
ロミオはキャピュレット家を見上げる。
(さて、どうやって忍び込もうかな……。)
ロミオは無意識に懐に隠している短剣を握る。
「……、貴殿は……、モンタギュー家のロミオ殿……か?」
不意に声を掛けられ、ビクッと体が動く。
「……!? 貴方…は……。 」
(どうしてこうなったんだろう……?)
ロミオは目の前に置かれている紅茶を眺めながら、そう思う。
目の前で紅茶を優雅に飲んでいる人は、パーティーで会っているため、ロミオは知っている人物だ。
ちなみに、ナレーターである私ももちろん知っているが、もしここで名前を出したら、この物語が面白くなくなりそうなので、やめておこう。
だから、今後はこの人物を彼と呼ぶことにしようと思う。
さて、ロミオたちがこうしてキャピュレット家に入り、紅茶を飲んでいるのは、ロミオが彼にキャピュレット家に入るようにと勧められたからである。
(雨が強くなってきたから、入らないかって言われたんだよな~。
ティボルトを殺すチャンスもあるかもしれないし、来てみたのはいいが……。)
いきなりお茶を出されるとは思わなかった。
「……、先程から気になっていたのですが」
ロミオは思い切って彼に話しかけてみる。
「ん? なんだい?」
「な、なんで私のことを知っておられたのですか?」
ロミオは一人称を「私」に変えて話す。
代々対立しているモンタギュー家とキャピュレット家は、ほとんど関わりを持たない。
このロミオだって、彼やティボルトのことを知っているのは、あのパーティーに参加したからであって、顔も名前も知らなかっただろう。
さて、ロミオの質問を聞いて、彼は あ~、そのことか と小さく声を漏らしていた。
「ロミオ殿がジュリエットと交際していることを知っていたからね。」
「ッ!?」
ロミオは驚きすぎて、口にしていた紅茶を吹きかけ、咳き込む。
(な、なんで知っている!?)
ジュリエットとの交際は秘密にしていたはずだ。
(どこから漏れたんだ?)
少しでも平然といようとこの家に入った時からしていたが、今ではほぼ不可能だ。
「ど、どうしてご存知なのですか?」
彼はニッコリ笑う。
「我が家の執事は優秀でね。」
(尾行してた…と……。
全く気づかなかったな……。)
「さて、私の方からも質問してもいいかな?」
彼がそう言う。
「なんでしょうか?」
「……、どうして、君は“あの場所”にいたんだい?」
「!?」
“あの場所”というのは、“キャピュレット家の前”のことだろう。
普通は関わることのないモンタギュー家とキャピュレット家。
そのモンタギュー家の一人息子だであるロミオが、キャピュレット家の前にいるのは不自然だ。
(正直に話すわけにはいかない…よな……。)
「え、え~っと……」
ロミオの反応を見て、彼はクスリと笑う。
「ティボルトを殺しに来た?」
「!? なんで……」
わかったんですか?
さっきからロミオは彼の言動に、驚くばかりだ。
「実はね…」
彼はロミオがなぜ“あの場所”にいたのか説明してくれる。
ネタバレになるので、説明は省きますよ。
その全てを知って、ロミオはまた驚く。
「え、あの子が…?!」
おい、ロミオくん。それ、軽いネタバレ。鋭い人はわかる。
「ロミオ君。もし、何かあったら」
「連絡、ですね? わかってます。」
「すまないね。巻き込んでしまって。彼のことも。」
彼が申し訳なさそうに言う。
彼の言う「彼」はマキューシオのことだろう。
「いえ…。貴方の所為ではありませんから。」
「優しいね、君は。」
その一言を聞くと、ロミオはこの部屋から出ようとする。
「ロミオ君。」
だが、その前に名前を彼に呼ばれ、足を止める。
「? なんですか?」
「何があっても、死ぬなよ。」
キャピュレット家で彼に会ったロミオ。
彼らはバッドエンドを回避しきれるのか……。
次回に続く─。
どうも、こんにちは。
この小説を描き始めて1か月を過ぎたことに今更気づいたあぷりこっとです。
ちょっと出来た隙間時間に描き始めた小説なのに、ここまで続くとは……。自分でも少し驚きです。
さて、今回のストーリーで一応ロミオ編(?)は終わりです。来週からはジュリエットも登場してくれると思います。
今回のストーリーは何と言うか……、謎の人物が出てきましたね。
彼と「あの子」は一体誰なのか……。皆様に説明したくても、出来ないことが多々あり、申し訳ございません。いつかこのストーリーで出てきた謎が全て解ければいいな と思っておりので、そこまでお付き合いいただければ幸いです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
また次回、お会いしましょう。
バイバ~イ!