13.大切な人を想って
「うっ……。」
ロミオは重い瞼を上げる。
(ここは、どこだ?)
真っ先にロミオの目に写ったのは、真っ白な天井だった。
背中から感じる感触から、ベッドの上に寝かされていることがわかる。
ふと、消毒の匂いをロミオの鼻が感じる。
もっと情報を得ようと、ロミオは横を向いて、この部屋を見る。
(マジでここどこ?)
病院…では、ないようだ。
机の上に、幾らか道具は出されているが、この部屋には従来の病院の設備はない。
部屋に道具を持ってきただけというような感じだ。
つまり、ここは本来普通の部屋だったということになる。
だが、自分の家にはこんな部屋はない。
ガチャ
部屋のドアが開く。
「!? ロミオ殿!!」
入ってきた主は、ロミオを見ると、喜びと驚きの混じった声を上げる。
(この人は……)
「パリス殿……?」
パリスとロミオは何度がパーティーで会い、挨拶をしている。
取りあえずロミオは、体を起こそうとする。
すると、グラリと体が揺れ、そのまま上体が倒れそうになる…が、前に体重を乗せ、ベッドに座ることに成功する。
「ロミオ様!? 無理をしてはダメですよ!」
「あ、あぁ…。」
(体が…重い……。)
「何があったんですか? ここはどこでしょうか? 何故貴殿がおられるのですか?」
記憶が朦朧としていて、状況が把握できないロミオ。
それを察してか、パリスは正直に教えてくれる。
「ロミオ殿はジュリエットの墓の近くの川に突き落とされたんです。
どうにかお助けすることが出来たのですが、ロミオ殿の意識は戻る気配が無く……。どうすればいいかわからなかったので、近くにあるキャピュレット家に連れてきたのです。
なのでここは、キャピュレット家の一室です。
ロミオ殿が眠っておられたのは数時間というとこでしょうか?」
「パリス殿が助けてくださったのですね、ありがとうございます。」
ロミオの名をあの時呼んだのは、多分このパリスだろう。
「いえいえ、ロミオ殿の意識が戻ってよかったです。
そして、すみません……。」
パリスは頭を下げる。
ロミオにはその意図がわからない。
「え? ど、どうされたのですか!?」
「ロミオ殿を突き落とした犯人を捕まえることが出来ませんでした。もし出来たなら、黒幕を追い詰める証拠となったのに……!」
「『黒幕を』って、もしかして、犯人の計画のことを知っておられるのですか?!」
黒幕の計画─この話は彼から、ロミオは聞いた。
パリスが口を開いたとき、部屋のドアが開く。
「あぁ、私が伝えたのだよ。」
部屋にキャピュレット家当主─ジュディッタ・キャピュレットが入ってくる。別称─彼だ。
「ジュディッタ殿!?」
「やぁ、ロミオ君。体調はどうだい?」
戸惑うロミオを気にすることなく、ジュディッタは優しくロミオに言う。
「体…、は、大丈夫です。
……、すみません、ジュディッタ殿がご忠告してくださったのに、こんなことになってしまって……。」
(「何があっても、死ぬなよ。」って、言われてたのに、俺はそれを忘れて死のうとしてた…。)
「しょうがないよ。私だって君と同じ立場だったら、同じことをしただろうさ。」
こういう風に励ましてくれるところは、ジュリエットに似ていると、ロミオは思う。というか、ジュリエットがジュディッタに似たのだが。
「それで、ジュディッタ殿、本当にジュリエットは、その…、死んだのですか?」
ロミオは本当は訊きたくなかったことを訊いてみる。
(ナレーターはあぁ言ってたけど、その通りに事が進んでるとは限らないし。)
え、もしかして私、信用されてない?
(そういう訳じゃないけど…)
「それは……、私たちにもわからない。
死体は見たし、息をしていないのも確認した。
今、ジュリエットの体は、教会が預かっているんだが、まだ火葬をしてないのが引っ掛かるところなんだ。」
(つまり、ジュリエットは仮死の毒で眠っている可能性があるってことか。)
まだ、望みはある。
ロミオはホッとすると同時に、とあることを思い出す。
「あの、パリス殿、確認なのですが、私が眠っていたのは数時間、なんですよね?」
「はい。そうですが?」
『(ロミオが自殺した)直後に仮死状態から目覚めたジュリエットも、ロミオの短剣で後追い自殺をする。』─。
(俺は自殺していない。
─けど、黒幕がそう伝えたなら、どうなる?
ジュリエットは…)
そこまで考えると、ロミオはベッドから抜け出す。
「!? どうしたのですか?! ロミオ殿。
まだ安静にしていた方が…」
「ジュリエットが危ないかもしれないんです!!」
それだけ言うと、ロミオは走り出す。
(間に合うだろうか。もう手遅れかもしれない。
でも─)
もしかしたら、間に合うかもしれない。
その可能性に賭けて、ロミオは走る。
体は重たい、ぬかるんだ地面に足を取られて転びそうになる…
だけど、大切な人を想う気持ちが、前に進ませた─。
どうも、こんにちは。
ジュリエット父の名前を考えるのにかなり苦労した、あぷりこっとです。
さて、今回のストーリーで1つ、明らかになりましたね。そうです、彼の正体!
「5.彼とロミオ」で、話してたのは、ジュリエット父だったんですね。敵でもある彼女の父に交際がバレてたとか、普通にキツいですよね~。よく耐えたな、ロミオ。
そして、本編では初めてパリスとロミオが会話しました。特に修羅場的な展開にもせず、むしろ助けてくれるとか、パリス君、良い奴ですよね~。いっそ、ジュリエットと本当に結婚させます?
「おい、それは、勘弁してくれ。お前が言ったら洒落にならん。」
……。
……、それでは、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
また次回、お会いしましょう。
バイバ~イ!