表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/18

8 ロランナ、ラリーの短い幸せ



 執事長マイクは元婚約者ラリーに、今日の夜更に侯爵家当主が戻られるから、明日来いと伝えに行ったのだが……どうやら、残るらしい。

 ラリーは既にロランナと婚約したし、近々結婚するのだからと、リンダ親子が残れば良いと勝手に許可したらしい。

 となると、今夜はこの屋敷に泊まる気なのか。

 我がモノ顔だなとシャーロットは溜め息が漏れだのだった。




 厚顔無恥とは良く言ったモノだが、こんな身近に3人もいるとは。類が友を呼ぶと言う事か。

 シャーロットは呆れて過ぎて疲れてしまい、少し仮眠をとる事にした。




 この状況で仮眠をとるシャーロットも大概だなと、執事長マイクは小さく笑っていたのであった。






 ◇*◇*◇





 ーー夕食の時間が過ぎた頃。




 父の馬が予定より早く、屋敷に着いた。

 どうやら、共を遠く突き離し1番に到着した様だ。

 父が馬から降りてバーネット本邸に着くと、侯爵家の皆だけでなく、元伯爵家の使用人達も恭しく頭を下げていた。

 シャーロットには頭を下げなくとも、さすがに当主ともなれば違うらしい。



「おかえりなさい! お父さま!!」

 実娘のシャーロットが歩み寄るよりも先に、ロランナが駆け寄って抱き付いていた。

 しかも、相変わらず "お父さま" だ。もう直す気がないのだろう。

「あぁ、ただいま。ロランナ、相変わらずだね」

「はい!!」

 父はどこか含みのある笑みを溢していたのだが、ロランナは気付いていない様である。

「シャーリー。しばらく見ない内に美しくなって。母に似てきたと言ったら怒るかな?」

 父は執事長マイクに目配せすると、ロランナを引き剥がさせシャーロットを優しく抱きしめた。

「母に似てなんて、光栄ですわ」

「シャーリーはディアよりも、美しく気高く育って嬉しいよ」

 セイバールは、シャーロットの頬に温かいキスを落とした。

 久々でも、やはり父は父だったとシャーロットはホッとしていた。

 正直、愛する父に少しでも邪険に扱われたら、心が折れるかもと思っていたのだ。



「ラリー君も来ていたのか」

「はい、先日振りです」

 婚約解消を願いに行ったのだから、ラリーとは当然つい最近会ったのだろう。

「婚約の事は?」

「伝えました」

 ラリーがチラッとロランナを見ると、

「お父さま! ありがとうございます!」

 と満面の笑みでお礼を言った。



「私が帰宅するまで我慢は出来なかったのかい?」

 父セイバールが優しく咎めれば、ラリーは

「すみません。嬉しくてつい気が焦ってしまって」

 と頬をポリと掻いていた。



 ついで、解消されたシャーロットが目の前にいるにも関わらずである。




「良識に欠けるね。キミは」

「す、すみません!!」

 さらにセイバールが溜め息混じりに言えば、ラリーはやっと焦った様子で謝罪したのだ。




「お父様」

 大事そうに肩を抱かれていたシャーロットは、そんな優しい咎め方があるの? と困った様に見てしまった。

 娘が婚約をなかった事にされたのですけど?

「ラリー君との婚約を勝手に白紙に戻して悪かったね」

「それ、謝ってませんわよね?」

 実に良い笑顔で、娘の婚約白紙をさらに伝える父。

 怒りより呆れが強かった。

 そんな心の篭らない謝罪、酷すぎる。

「お姉ぇさま、ごめんなさい。私がラリーを愛したばかりに」

 父娘との会話に、ロランナが口を挟んだ。

 しかも、謝罪などしている様子は微塵も見えない。だって、口が笑っているんだもの。



「構わなかったよね? シャーリーは別にラリー君を好いていた訳じゃないし」

 シャーロットが何かを言う前に、父セイバールが口を開いた。

「「「え?」」」

 その父の言葉に驚愕した声を上げたのは、リンダ親子とラリーだった。



「お姉さま、ラリーを愛していなかったの?」

 驚愕の事実だったのか、ロランナの声は俄かに震えている。

 どうやら、シャーロットがラリーを愛していると勘違いしていたらしい。

「えぇ」とシャーロットが頷く前に、再び父が口を挟んだ。

「ロランナ。そう言うって事は、キミはシャーロットがラリー君を愛していたと思っていた上で、シャーロットの愛する婚約者を奪ったのだな?」

 要はそういう事だなと、父の声には少し怒りが滲んでいた。

「ち、違います!!」

 事実そうなのだが、一応空気を読めたロランナは、ガラリと空気が変わり始めた事に気付き、慌てて言葉を否定した。

「勿論、シャーロットがラリー様を愛してない事は、存じていましたわ」

 母リンダも慌てた様に援護した。

 今、ここで嫌われる訳にはいかないのだと。



「愛情があるにしろ政略にしろ。人の婚約者を奪う時点で、最低だがね」

 父セイバールは冷ややかに、笑った。

 それを見たリンダ親子は凍り付いてしまった。

 やはり、父は思うところがあって勝手に白紙にした様だ。



「で、でも、ロランナとの婚約を許して頂けましたよね?」

 ラリーが空気を変えるためか、空気が読めないのか父に訊いた。

 自分はシャーロットとは解消にはなったが、ロランナとは婚約を許してくれたハズだと。

「あぁ、愛し合ってしまったモノは仕方がないからね?」

 父セイバールが、優しく微笑んでみせると、ロランナとラリーは嬉しそうに続いた。

「ですよね? 私の方がラリーを愛しているんですもの」

「ありがとうございます!! この御恩は一生忘れません。愛するロランナを妻に迎え、この家を必ず継いでいきます!!」

 2人は手を握り、固く誓っていた。





 ーー数秒後までは。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ