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5 ロランナという人柄



 アンジェリカのソバカスを見て、ロランナは鼻で笑ったのだ。

「大変申し訳ございませんでした!!」

 それを聞いたシャーロットは、立ち上がり深々と頭を下げた。

 幾ら本来の言葉遣いで話すくらいの親しい仲とはいえ、軽くゴメンなさいと、言える様な事ではないとシャーロットは思った。

 言って良い事と悪い事がある。実妹でなくとも、我が家で面倒を見ている子だ。その子が、意図してか知らずか人を傷付けたのだ。

 今更ではあるが、申し訳なくて仕方ない。



「なんで他人行儀なのよ……って、謝罪はいいから」

 アンジェリカはシャーロットの行動に、苛ついてしまった気分が吹き飛んでいた。

「本当にごめんない。彼女には……心底失望したわ」

 シャーロットはロランナがあぁなってしまったのは、自分達のせいだと今まで罪悪感でいっぱいだったが、その罪悪感も完全に消えてしまった。

「甘いわね。まだ、失望する余地があるなんて」

 アンジェリカはそう言って、苦笑いしていた。

 あんな恩知らずな親子なんて、もうとっくに失望していてもオカシくないのに、まだ余地があったのだから。



「侯爵家のやる事にとやかく言いたくはないけど、あの子の教育は一体どうなってるのよ」

 本来なら伯爵家のアンジェリカが言ってイイ事ではなかったが、言わずにはいられない様だった。

 実娘のシャーロットに厳しいセイバールが、何故ロランナには甘いのかアンジェリカには理解出来ない。

「貴族に嫁いだとしても恥ずかしくないように、私と変わらない家庭教師を充てたのだけど」

「ど?」

「ロランナ曰く苛められたと」

「で、真意は?」

 苛められたなんて言葉を鵜呑みにしないアンジェリカ。

 紅茶をひと飲みして、口端を上げていた。

「おそらく、厳しくて嫌になったのだと思う」

「でしょうね?」

 あのロランナだ。

 苛めてもされる側に立つ訳がない。



「その言葉を信じたのかは知らないけど、家庭教師はすぐに違う人に変わったわ」

「だけど?」

 アンジェリカが見たかの様に、笑って促した。

「どの人も長続きはしなかったのよ」

 理由は様々とは言え、ロランナは目を潤ませて父に言っていたのを思い出す。

「で? 諦めちゃったの?」

「……」

 シャーロットは溜め息を紅茶で誤魔化していた。

 そうなのだ。

 父は厳しい教師から、温和な教師まで幅広く紹介し付けたのだが、どれもロランナには合わなかったらしい。

 優しいだけの教師も勿論いるが、甘い事しか言わないのでは教育の意味がないのだ。

 学園に通わせているからヨシと諦めたのか、可愛い姪だから甘やかしているのか、自然と家庭教師の話はしなくなっていた。




「あの子、同じ学園に通っている弟の話に訊くと、家では姉や使用人達に辛く当たられているって言っているらしいわよ?」

 悲劇のヒロイン気取りなんだと、アンジェリカの弟は笑って教えてくれたのだ。

 父が病気で亡くなり、引き取ってくれた伯父は父の様に優しいが、その娘と使用人達が自分を虐めるのだと吹聴しているとか。

 シャーロット自身と交流のある令嬢や令息、教師は信じていないが、実態を知らない人達は、ロランナが余りにも不憫だと庇護対象にしたらしい。



「その噂を何処かで聞いた家の侍女達が、ロランナに注意したのだけど、私はそんな事言ってないの一点張り。挙げ句にヒドイって泣いたらしいわ」

 なんなら、周りが勝手に解釈して、そう言う話を流しているだけ、自分は悪くないのだと再び泣き始める。

 泣く→使用人達が慰める→叔母が来て侍女を責める。

 この一連の流れにより喧嘩の様になり、教育がしっかりされた我が侯爵家の侍女達は、ムダな言い争いを好まず諦める。

 その諦めを、言い負かしたと勘違いするロランナ派の使用人達が、調子に乗るという悪循環に陥っていた。




「泣けば自分に良い方向に転ぶと思っているのでしょうね」

「良い方向に転ぶかはとにかく、あなた達が面倒くさくなって諦めるから調子に乗ってしまったのよ」

 シャーロットの言葉をアンジェリカが、呆れたように応えた。

 ロランナは怒ったり注意したりすると、すぐに泣いて話を聞かないから、面倒くさくなるのだ。

「ロランナが乗ったのは、質の良い木の船なのか、はたまた泥舟なのか」

「冗談を言える余裕があるみたいで、良かったわよ。まったく」

 シャーロットがそんな揶揄らしい表現をしたものだから、アンジェリカは笑いながら肩を落とした。

 ロランナとリンダとの生活に、辟易して疲れているかと心配で来てみれば、存外余裕だなと安心したのである。



 伯爵家の娘が、どこまで出来るか分からないが、親友のシャーロットが困っていたのなら、手を貸そうとしていたのだ。

 だが、そんな手は必要ないのかもしれないと、ホッとしたのであった。









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