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3 不穏の影



 ラリーがロランナと出会ったその日から、シャーロットへの態度が一変した。

 正確には、態度というより行動である。



 当主としての勉強はどうしたのだ? と言うくらい、暇な時間を見つけてはバーネット侯爵家へ通う様になったのだ。

 今まで、理由を付けては来なかった婚約者がである。




「シャーロット、会いたかったよ」

 と言うラリーの目線は、ロランナを追っていた。

 ロランナも、ラリーが来ると妹の役目だとばかりに、ラリーの世話を甲斐甲斐しく焼く。

 見目麗しい従妹ロランナに、鼻の下を伸ばすラリー。

 シャーロットは、元より余りなかった彼への情もスッカリ冷えていた。

 真面目に勉学をする姿勢はなかったし、自分にわざわざ会いに来る事も少なかったのに、あからさま過ぎるからだ。

 それでも、婚約者であるため、優しく接しようと努力はしたし、来れば笑顔で迎えた。勿論なるべく会話もしようとした。

 だが、それらを放棄したのは彼だ。

 すぐにキミは忙しいだろう? と蚊帳の外に追い出すのだ。手伝ってくれても良いのですけど? と何度となく口に出そうだったが、勉学が捗らない彼に当主代理の仕事は任せられない。

 元より多忙なシャーロットは、ラリーをロランナに任せる他なかったのである。




 これでは、シャーロットが婚約者なのかロランナが婚約者か、どちらなのか分からなくなり始めていた。

 ラリーに苦言を呈してみたものの、妬きもちかと鼻で笑われる始末だし、強く言えばイイ加減にしろと邪険にされる。

 挙げ句、蔑ろにする様になってしまった。

 ラリーは何をどうしたいのか、シャーロットには分からなくなっていたのである。

 様子を見て、婚約の破棄をして貰おうと、シャーロットが心に止めたのもこの頃であった。





 ーーそんな奇妙な関係が、1年程経ったある日。





 叔母リンダとロランナのドレスや洋服が、急に豪華な物になり始めたのだ。

 元から派手な色を好んではいたが、生地があからさまに違う。父が与えていたドレスは、色こそリンダ好みのままだったが、飾りは抑えめで上品な物だった。

 宝石にしても、ゴテゴテした物を父は与えていなかった。なのに、派手で下品な物にガラリと変わったのだ。

 シャーロットでなくとも、違和感を覚えた。



 リンダの洋服は、元から持っていた物か、父セイバールが季節毎に数着買い与えた物である。それは、リンダの娘ロランナも同じだ。

 何が起きたのだと、家令達もにわかにザワつき始めていた。

 その金の出所は何処の誰なのか。

 ラリーには、そんな自由に使えるお金はない筈だ。




 ーーそして、ある日。




 屋敷に、王都で1、2を争うデザイナーとパタンナーが来たから驚きだった。

 彼女達は、シャーロット自身もデビュタントの時に、ドレスをあつらえて貰った超一流の洋裁師である。



「リンダ叔母様」

「なぁに? シャーロット」

「つい先日、ドレスを購入したと思いますが、またお買いになるおつもりですか?」

 見兼ねたシャーロットは、つい口を出してしまったのだ。

 ロランナはつい先月16歳になり、デビュタントがある。そのデビュタント用のドレスは、父が買い与えていたのを知っている。なのに、また来たのだから違和感しかない。



「セイバール様に許可を得ているわよ」

 鼻を鳴らしてリンダは、いやらしい笑みを浮かべる。

「父に "許可" ですか?」

 その言葉に、シャーロットはますます眉根を寄せた。

 散財を嫌う父が、叔母のリンダに金を落とすとは思えないのだ。

 母には糸目は付けなかったが、それは父と同じ感覚を持つ母を心から信頼しているからだ。

 その父が、本当に許可を出したのだろうか?



「えぇ "好きに使え" とお金を頂いてるのよ?」

 シャーロットの表情が悔しそうに見えたのか、リンダは気分良くツラツラとさらに言う。

「あなたは、私を母と呼ぶ気はない様だけど、あの方は違うんじゃないかしら? それに可愛げのない娘より、可愛いロランナをお好きみたいだしね?」

「私も、新しいドレスが欲しいわ!!」

 洋裁師を見つけたロランナが走り寄り、母リンダの腕に絡み付いて来た。

 先日購入したばかりなのだが、まだ欲しい様である。

「そんなに、購入してどうするの?」

 呆れたシャーロットが、溜め息混じりに言えばーー。

「ドレスなんて何着あっても構わないもの。お姉さまも欲しいのなら、お父さまに強請ったらイイわ!」

 どうせ買っては貰えないでしょうけど? と表情に見え隠れするロランナは、勝ち誇っていた。



「叔母様、そのお金は領地の方々の税金からーー」

「あぁ、うるさい事!! セイバール様が許可を出したって言ったでしょう!?」

「お母さまぁ、お姉さまが可哀想ですから、あちらでやりましょう?」

「そうね。本当にシャーロットは小姑だわ」

 リンダ親子は、そう言って客間へと消えたのであった。





「マイク、お金の出所は?」

 父がとは、俄かに信じ難いシャーロットは、執事長を呼んだ。

 リンダに絆されたにしても、こうまで変わるものだろうかと。

「リンダさんのおっしゃる通り、セイバール様がお与えになったのかと存じます」

「何故?」

「わたくし共には、計り兼ねます」

 執事長に訊けば、望んだ答えは返っては来なかった。

 父の考えは誰にも分からないと、言う事なのだろう。



「セイバール様にお聞きになっては?」

「自分で考えろと言われそうだし、万が一にでも彼女を後妻にと言われたら……気分が悪いわ」

「……」

 渋い表情をしたシャーロット。

 父と、リンダの事で話した事はほとんどない。

 引き取ったのは弟のためか同情かは分からないが、そこから大切な人を亡くした者同士、傷の舐め合いから情に?

 否定出来る程の材料が、シャーロットにはなかったのである。










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