表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/18

2 ロランナとラリー



「なんなのよ!! お下がりって!!」

 ロランナは自室に戻るなり、クッションを壁に投げつけた。

 欲しいと強請り渋々、時には嫌そうにくれるシャーロットの姿を見るのは、ものスゴく気分が良かった。

 侯爵家の当主の娘というだけで、何でも与えて貰えるシャーロットには嫉妬しかなかった。

 父がたまたま弟に生まれただけで、格下の伯爵家になったのだ。伯父セイバールがいなければ、この屋敷も領地も自分の物だったと思うと悔しくて仕方ない。



 だが、好機と考えれば好機である。

 父が亡くなり、運良く侯爵家に迎えられた。

 侯爵家の使用人達は、自分よりシャーロットに従ってはいるが、伯父のセイバールは違う。

 ロランナにも、分け隔てなく愛情を注いでくれていた。

 たまに帰った時には、シャーロットだけでなく必ずロランナにも土産を買って来てくれる。

 欲しい欲しいと強請っても、そのたびに買ってくれる事はないが、それはシャーロットも同様である。どちらが、多くて少ないと差別的な事はなく、どちらかと言うとロランナに甘いのだ。



 娘には、家庭教師や躾には厳しいセイバールも、ロランナが「先生が苛めるんです」と泣き落とせば、その都度家庭教師を辞めさせてくれた。

 この調子でいけば、シャーロットよりロランナをこの侯爵家に残すに違いないと、ロランナは算段し始めていた。

 シャーロットはさっさとどこか、格下の家に嫁げば良いのにとロランナは考えていたのだ。




 そんな邪魔なシャーロットに、婚約者がいる事を知ったのはロランナが14になった時だった。

 婚約者である方は、全くバーネット家には来ないし、侯爵家でも話を聞かないので、存在を全く知らなかったのだ。

 シャーロットは既に18なのに、まだ婿がないのかと驚いた程だ。



 母リンダや侍女達にそれとなく聞いたところ、婚約者のラリーは次期当主の勉強をしている最中で、忙しいとの事だった。

 そのラリーは伯爵家の息子らしい。シャーロットには格下の爵位で似合いではないかと、ロランナはほくそ笑んでいた。




「うっそ!?」

 ラリーの噂をチョコチョコと聞いていたある日、彼が婚約者シャーロットに会いに来たのだ。

 夜会の迎えに来たらしく、ロビーの見える階段上から見ていたロランナは、すぐに目を奪われ視線を釘付けにされた。

 ロランナは再来年にデビュタントの予定だった。

 それ故に、ドレスコードを着こなした年頃の男性を間近で見るのは、初めてだった。

 金髪で碧眼。鼻筋はスラっとしていて、目は切れ長。

 身長も高くその麗しいラリーの姿に、ロランナは瞬く間に心を奪われたのである。

 それは、ラリーの姿になのか、シャーロットの婚約者だからなのか分からない。




「そちらの可愛い子は?」

 迎えに来たラリーが、目敏くロランナを見つけると、シャーロットに訊いた。

 服装からして、この屋敷の使用人ではなさそうだ。

 数年前に屋敷に引き取った娘がいると、耳にした気がしたなとラリーは記憶の底から引き出した。

「あぁ、あの子はーー」

「妹のロランナです!!」

 シャーロットが応える間もなく、ロランナは勝手に言い階段を駆け下り始めていた。

 この時、シャーロットや家令達が、ロランナの言動に呆れて沈黙してしまったため、ラリーはロランナの言った "妹" を、都合の良い方へ解釈してしまったのだが、シャーロット達は知らない。

 セイバールが外に作った異母妹なのだと、ラリーは記憶をすり替えインプットしたのである。




「きゃあ!」

 はしたなく階段を駆け下りたロランナは、裾を踏んでしまい階段を踏み外してしまった。

「大丈夫か? えっとロランナ嬢?」

 颯爽と駆け寄りロランナを支えたラリーは、まさしくロランナの王子様のようだった。

 容姿端麗でキラキラと光る金髪、自分を支える逞しい腕。

 ロランナは自分を助けてくれたラリーに、頬を赤めると目を潤ませ上目遣いでお礼を言った。

「あ、ありがとうございます。ロランナで宜しいですわ。ラリー様」

「い、いや」

 ラリーはその仕草と可愛らしさに堪らず、目を逸らせ頬を染めていた。

 貴族やシャーロットにはない、素朴で可愛らしい女性がそこにいたのだ。



 見つめ合う2人。

 その姿を、色んな表情で見る家令達。




 シャーロットは、そんな2人を冷めた目で見ていたのだが、それに気付いた人は誰もいなかった。





 





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ