16 元伯爵家の行き先は?
「どうしたのコレ」
翌朝、逃げない様にそして、駄々を捏ねて居座られても困ると、両脇をガッシリとガードされた叔母リンダとロランナがエントランスに連れて来られたのだ。
シャーロットは、その2人の姿を見て驚愕していた。
この屋敷にいて、初めて見る光景だったからだ。
いつも強気の表情は見る影もなく、目元にはクマが出来ている。顔色は青白く、ロランナには珍しく泣いた様な跡が見えた。
侍女達に揶揄われ、本気で怖かったらしい。
「昨日までの事が、やっと夢物語なのだと理解したのでしょう」
侍女達がにこやかに微笑んでいた。
少ない荷物ごと、ロビーにリンダ親子をペッと押し出す。
やっと、身の程を弁えないリンダ親子がいなくなると、心から喜んでいる様だった。
それでも、まだキッとリンダが睨み返すものだから、侍女達は面白そうに言う。
「いっそ、ワマウンド男爵に嫁いだら宜しいのに」
「平民がお嫌なのでしょう?」
「うるさいわね!! 黙りなさいよ」
リンダは一瞬ビクッとしたものの、反論していた。
母は強しなのか元の気性か、この状況でも悲観している素振りがないから敬服する。
「ワマウンド殿がどうかしたのかい?」
にこやかに、そして優雅に父セイバールが現れた。
ワマウンドがどうしたのだと、シャーロットを見たが首を振ったので侍女達を見た。
「行くあてがないのでしたら、あの方に後妻に貰ってもらえば宜しいのではと、話をしていた迄です」
「同じ名前なので」
少しだけバツが悪そうに返した侍女。
セイバールに許可なく、余計な話をしてしまったと。
だが、本心はそのくらいの意趣返しはしても良いだろうと思っていた。
「あぁ、なんだ。そう言う事」
それだけで理解出来たのか、父セイバールは面白そうに、顎を撫でたのでリンダは焦った。
そんな悪評高い屋敷に嫁ぎたくはないと。
「ふん。そんなに行かせたければ、行かせればイイわ!!」
だが、怯えたりするのは、負けた気しかしない。
本音は嫌だが、やりたければ好きにしろと、リンダは強く反撃して見せたのだ。
嫌がる素振りを見せるなんて、コイツらの思う壺だ。
しかし、さすがのリンダも次の言葉で固まる事になる。
「まぁ、確かに悪評は高いけど、あの人は犯罪者ではないから、良い考えだね」
面白可笑しい噂はあるけれど、数人いた後妻とは離縁しただけで殺害された訳ではないと、セイバールは笑った。
だから、リンダはなんだと胸を撫で下ろしたし、それなら後妻もありかと思わず考えてしまった。
そこまでは良かった。だが、次の言葉が問題だった。
「変態だけど」
「「「え?」」」
「変態なんだよ。ワマウンド」
セイバールが面白そうに笑うから、シャーロットは絶句していたし、リンダも皆も口が半開きのまま固まっていた。
後妻が次々と死ぬとか、殺害しているらしいとか、数々の悪名高い噂はあるが、"変態" は初めてである。
「へ、変態?」
「うん、変態」
娘がもの凄く嫌そうに訊くものだから、セイバールは苦笑いしていた。
「どう、どう変態なのですか?」
侍女マリアが聞かない方がいいと、思いながらもつい訊いてしまった。
そこまで聞いたら、最後まで知りたいのが人の性である。
「妻がどんな名であれ"リンダ" と呼ぶ」
「え??」
どんな名であれ、リンダ??
シャーロットは眉根が寄り始めていた。
「そして、使用人達は一部を除き、女性のみ。その女性は一糸として纏う事も許されない」
「「「え??」」」
一糸として……服を着る事は許されないという事??
「要するに、妻も含め屋敷では女性は全員 "全裸" って事」
「「「ぜ、全裸!?」」」
皆が怪訝な顔をしたまま固まってしまったので、セイバールは噛み砕いて説明してくれた。
ーーが、そんな事は知りたくなかった。
何故知っているのかは想像に任せるよと、セイバールは笑っていたけれど……実際に見てしまったのかもしれない。
「「「……」」」
女性達が全員、顔を見合わせて身震いしていた。
絶対に、自分がそうなったらと仮定して想像したに違いない。
「一応、月に数回程は下着着用を許される日もあるらしいけど、まぁ、基本的に全裸みたいだね」
その時は、来客係として回されるのだと、事細かく説明してくれる父。
「な、な、なんで全裸なのよ」
シャーロットが堪らず半歩下がり、両手で身体を抱きしめた。
父は違うが、やけに詳しいからである。
「さぁ? 女性は皆、生まれたままの姿が一番美しいから……とか?」
「絶対に違うわよね!?」
父が良い笑顔を見せながら惚けるから、シャーロットは堪らずツッコミを入れてしまった。
男が女を裸にする理由が、そんな理由な訳がない。
どう考えても、下衆な理由に違いない。
「あぁ、ワマウンド殿も当然全裸だよ?」
「そんな情報はいらないわよ!!」
シャーロットは初めて、父に怒鳴ってしまった。
なんて言う情報をくれるのだ。彼と次回会う機会が来たら、どういう顔で挨拶をすればいいのか分からない。
「あぁ、そうそう。ワマウンド殿はそんな趣向だから、使用人達の出入りがもの凄く激しいんだよ。だからいつも、新しい使用人を探している。そうだ、どうせ行くあてもないのだし、キミ達を推薦しておこう。紹介状も直ぐに書くよ」
「は!?」
「え??」
「「「ヒッ。わ、わ、私共もですか!?」」」
元伯爵家の使用人達は、こぞって絶叫していた。
確かにこれからどうしようと、思ってはいたが、そんな所に勤めたくない。急に降って湧いて来た話に、リンダも使用人達も青ざめていた。
「いきなり、放り出されるより遥かに良いだろう。マイク、ワマウンド殿に活きのイイ女性達を紹介すると、早馬を」
「はっ!!」
セイバールがそう言えば、執事長マイクは早急に伝達するため、馬の扱いが1番上手い使用人を呼びつけてしまった。
それに焦りに焦ったのは、リンダ達である。
厳しい当主は勿論嫌だが、変態はもっと嫌だ。そんな所には行きたくないと、馬舎に向かう使用人を全力で止めるのであった。
ちなみに、何故、後妻をリンダと呼ぶのかーー。
ーー妻は "リンダ" に限る……という、訳の分からない理由だった。
要は愛称がリンダ。
元がリンダと言う名なら、リンダには丁度良いのかもしれない。
と勝手に思っていたシャーロットであった。




