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11 父セイバールという人



「わ、私はマイセンを殺してなんていませんわ!!」

 リンダはガクガクと震えていた。

 それは、温和な父が見せた仄暗いセイバールへの恐怖からか……。



「だが、殺した様なモノだろう? リンダ」

 セイバールは、リンダが未だにしているマイセンとの結婚指輪を見て、更に冷たい視線を与えた。

「弟マイセンは、お前が散財して出来た借金の返済に追われ、働き尽くし身体を病んだ」

「そ、そんな事知りません! 私はマイセンを愛していたし、散財なんてした覚えはありませんわ!!」

 リンダは認めないし、知らないとシラを切り通していた。

 だが、セイバールがそれで納得する訳がない。

「お前が、宝飾品等を購入したリストがあると言ったら?」

「え?」

「この私が、大切な弟が死んで原因を調べないと思うか? 証拠や証言もないのにイイ加減な事を言うと思うか?」

「……」

 リンダは唇を噛み、押し黙った。

 調べ尽くしたのだと理解し、観念したからだ。

 



 リンダはセイバールが言う通り、マイセンと結婚して直ぐにドレスや宝飾品を買い漁っていた。

 平民出のリンダは、夫マイセンには他の貴族に気後れしないためと、言い聞かせていたが真っ赤な嘘である。

 ただ、平民の時に出来なかったお洒落や夜会を、毎日の様に絢爛豪華にしたかっただけだ。

 そのため、資産は直ぐに食い潰し、領地や生活費に回せなくなり、マイセンは働き尽くし死んだのであった。



 兄セイバールがそれを知ったのは、マイセン亡き後だった。

 マイセンは、可愛がり大切に育ててくれた兄に、迷惑を掛けたくないと頑なに相談しなかったのだ。

 それを知ったセイバールは、復讐と弟への罪悪感を秘めたまま、リンダ親子を引き取ったのであった。



 弟を亡くした兄としての復讐か、マイセンが愛した妻子を守るか、葛藤しながら生活していたのだ。




 だが、リンダ親子はセイバールの情を裏切ってしまった。

 それ故に、もはや温情などあり得ないと嘲笑する。




「これで分かったな。私はこの先お前を許す事は一生ない。娘ロランナを連れて早急に出て行くがいい」

 話を終えたセイバールは、再び出て行くように促すのであった。

 血が滲む程にリンダは唇を噛み締めていたが、自業自得である。今更、セイバールに何を言おうと、逆効果だと悟り項垂れるしかない。



「お、お父、伯父様! 私はその時、まだ幼くて何も知りませんし関わっていません! 私はいてもイイですよね?」

 娘ロランナは、この期に及んで尚、現状を深く考えないらしかった。

「何故?」

「だってお母さまが勝手にやった事でしょう? 私は関係ないし、それに私は伯父様と血が繋がっているでしょう?」

「だから何だ?」

「だから、私はここに残ってもイイですよね?」

 そんな薄い言葉で、父の心が溶ける訳がない。

 父は鼻で笑った。



「娘の婚約者を奪ったお前を、ここに残す程の価値があると? 大体、お前にはラリーがいるだろう。どの道、結婚すれば出て行くんだ。それが早まっただけの事」

「そんな! ラリーとお姉さまは愛し合っていた訳じゃないし、ラリーが勝手にした事なんです!!」

「だから何だ? ラリーがどうしようが、結果お前が決断した事だろう。大体、どんな理由があるにしろ、シャーロットを阻害してイイ免罪符にはならんのだよ」

「は、反省します! ラリーはお姉さまに返すし、伯父様のためにこれからは尽くします!!」

「今更遅い。我が家には、ロランナもリンダもいらん」

 ロランナが残る余地は、幾らでもあったのだ。

 だが、その好機も自身で消し去り、分岐点も見ないで過ごして来たのだ。欲望のまま、過ごし楽しんだ結果である。もう全てが遅いのだ。



「そ、そんな酷い!!」

 ロランナは床にしゃがみ込み、泣き始めてしまった。

「私は悪くないのに。お母さまやラリーが勝手にやった事なのに!」

 この後に及んでロランナは、反省しない処か人のせいにしていた。



 ロランナのその言葉に、セイバールは小さく笑った様に見えた。

「だから?」

「え?」

「だから何だ。お前がやめさせればイイ話だし、止まらないにしても何故一緒にやる?」

「そ、それは母達に逆らうのが怖くて!」

 そう言ってウルウルと泣いて見せるロランナ。

 だが、もう泣いても喚いても誰の助けもなかった。



「怖くて? 母リンダに逆らう事さえも出来ない人間が、何故今この場で私に反論出来る?」

「お、伯父様は優しい方だからです!!」

 心底呆れた父が鼻であしらえば、ロランナは自分の言動に違和感を覚えないのか、さらに返していた。



「私は一生懸命なバカは好きだが、無邪気なバカは嫌いなんだ。そして反省する素振りさえ見せないバカは、吐き気がする」

 セイバールは冷めた目で、だが口端は笑みを零していた。

 ここまで言っても、謝罪すらする気配がないのはバカを通り越して、無知過ぎる。

 しかし、当人は父にバカと言われているにも関わらず、言葉の意味が理解出来ずにいる様だ。



「ハッキリ言う。お前は侯爵家にはいらん」

「何故ですか!?」

「それすら分からないからだ!!」

 なおも、反省する気配もシャーロットに謝罪する気配も見せない、分からないロランナに父はついに声を荒げ強く言った。

 もはや、何を言っても彼女には響かず、堂々巡りになるからだ。



「お前みたいな反省する事を知らない人間は、改心する事はない。……だが、リンダ。ロランナはこれでも、本当は反省しているのか?」

 そう言って、リンダにロランナの運命を決めさせようとしていた。

 ロランナに訊いたところで、自身の事だとは理解しないだろう。ならば、一番良く分かっている母リンダに選択権を与えた。

 大切な娘を助けたければ、今迄の行いは自分一人が悪く、ロランナは反省しているので、勿論悔い改め一生懸命やるだろうと言えばイイ。

 だが、明日には落ちて行く自分と、今助かるかもしれないロランナを天秤に掛け、リンダはつい唇を噛み締めてしまった。

 同じ様に過ごしてきた娘だけが、何もなかったように侯爵家で暮らせるなんて、ありえないし悔しいと思ってしまったのだ。




「庇うていも見せないのか。随分と立派な母だな、リンダ」

 セイバールは自嘲気味に笑った。

 それは、リンダも最後くらいは娘を守る気概を見せるかと、思ってしまった自分にである。











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