表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/18

10 リンダとロランナの誤算



「リンダ、ロランナ」

「「……は……い」」

「お前達は近日中に荷物をまとめて、出て行く用意をしなさい」

「「え?」」

 父セイバールが、改めてそう言えば、驚愕した表情で顔を上げた。

 まだ本気で追い出されると、思っていなかったらしい。

「デビュタント用のドレスは、住む所が分かり次第餞別として送ってやる。ラリー君は1度家に帰り、マイリー伯爵とよくよく話し合った上で、ロランナとの婚約をどうするか考えなさい」

 セイバールはそう言って、ラリーを送る馬車の手配を執事長マイクに伝える。

 一応は伯爵家の息子だし、こんな状態で一人で帰す訳にはいかないと、なけなしの配慮を見せたのだ。

「どう……するか」

 ラリーは項垂れまくっていた。

 先程まで、侯爵家当主になり順風満帆の未来を想像していただけに、今は崖の上にいる気分だった。

「三男のキミは伯爵家は継げんだろうし、母方の子爵にしても、今回の事で次男に遅れを取るだろう」

「……」

 ラリーはもはや廃人となっていた。

 実家では継ぐ領地はなかったが、侯爵家当主となれると思っていた。兄達を出し抜けるとさえ思っていたくらいだ。

 勉強なんかしなくとも、学園で学んでいた知識で、どうにでもなるだろうと、高を括り遊んでいたのだ。



「え? ラリーは跡を継げないの?」

 何も分かっていないロランナが、驚いた様に訊いた。

 だが、余りに無知過ぎる質問に、誰一人答える事はなかった。

 彼は跡を継げないから、入婿として家に来る予定だったのだとか、結婚する相手の立ち位置さえ知らずにいたのか、もう呆れ過ぎて言葉が出なかったのだ。


 


「ラリー君。ロランナ達は近々この家から出て行く。迎えに来る事を祈っているよ」

「……」

 執事長マイクが見えたので、セイバールが何の感情もない声で伝えたのだが、今の彼には何も聞こえないだろう。

 執事長マイクに促されるがまま、ラリーは死人の様に屋敷から行くのであった。




「き、近日中に出て行けって、そんな」

 今まで、聞きたい言葉しか聞いて来なかったリンダにも、やっとセイバールが言った言葉を理解出来たのか、愕然とし膝を落としていた。

 笑って済ませる訳もない、全てが終わったと理解した様だった。



「今までのような豪華な暮らしをしなければ、この間渡した金で悠々と暮らしていけるだろう」

 それだけでもありがたいと、感謝して欲しいくらいだとセイバールは思っていた。

 今度こそ、身体を休めたいとセイバールが踵を返した時、また背後から声が聞こえた。

「そんな……もう、半分以上ないわ」

「は?」

「半分以上ないのよ!」

 叔母リンダは叫んでいた。

 あの時、貰ったお金は今後の生活費だと知らなかったリンダは、今まで欲しかったドレスや宝石を買い漁り使ってしまったのだ。 

 なので、今更出て行けと言われても、先立つモノが僅かしかない。



「叔母様、その頂いたお金。すでに宝飾品に使い込んでしまったのよ」

 あの金が生活費なんて、シャーロットも知らなかった。

 だが、父セイバールの事だから何かあると、使わない様にリンダに伝え様としたのだが、小姑と一蹴されたのだ。

 大体、この父がリンダを妻に迎えたとしても、そんな簡単に自由に使えなんて渡す訳がない。

 数年同居していれば、不審に感じてもイイ筈なのにおめでたい。



「屑は何処までも屑か」

 温和な父が、心底ゴミを見るような目でリンダを見ていた。

 父がリンダ親子に、こんな視線を向けるのは初めてである。

「お、温情を下さい! このままでは野たれ死んでしまいます!! シャーロットも……い、いえ、シャーロット様も我が子の様に大切にしますから!!」

 リンダはこのままではまずいと、セイバールやシャーロットに縋って来た。

 平民になるなんて嫌だと、心の底から叫んでいたのだ。

「今更だな。温情なら、弟亡き後に与えたではないか。そして、生活費までくれてやる二度の温情をすでに与えた。さすがに三度目を与える程、私は甘くないしお人好しに出来てないのだよ。リンダ」

 だが、すでに情は地の底まで尽きてしまった。

 掘り出して使う気もない。



「だ、だけどーー」

「そのお金で買った宝飾品を売るなりして、また作れば良い。だが、この屋敷で生活していた時に、私が買い渡した物は全て返して貰うがね?」

 と、父は言ったのだ。

 それには、リンダが立ち上がる勢いで噛み付いた。

「い、今まで貰った物まで返せと!?」

 それは非情だと、リンダは返したのだ。

「勘違いするな、リンダ。私はシャーロットの叔母として恥ずかしくない様に買い "渡した" のだ。与えた覚えはない」

 そうなのである。

 リンダに、宝石もドレスも好きに使うとイイと、ドレスルームの許可は与えたが、与えると言った事は一切ないのだ。

 父はリンダ達親子が、ワザと誤解する言い回しをして、罠を張っていたに過ぎないのだろう。

 本質を見定めるためか、父の黒い性根が出たのか定かではないが。



「なっ! そんなの屁理屈だわ!!」

「屁理屈と叫ぶのは勝手だが、この私が"与える" など言うと思うか?」

 父がそう言って、リンダを仄暗い表情で見ると、次にこう続けた。




「弟を殺したお前に」

 



 その言葉に、侯爵家が凍り付いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ