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1 父が親子を連れて来た



 私の名は、シャーロット=バーネット。

 6大侯爵の1つ、バーネット侯爵家の1人娘である。

 母は幼き頃に亡くし、父は母をこよなく愛していたため、後妻を迎える予定はない。

 そのため、父娘の家族2人であったが、家令達がシャーロットを娘の様に優しく、時には厳しく大切に育てていたのである。

 そんな、穏やかで温かい生活が暫く続いていた。続くと思っていた。




 ーーしかし、数年前。




 変化の時を迎えた。

 シャーロットに家族が出来たのだ。




 厳密にいうと、家族ではなく"家族みたいなモノ" なのだが。




 父、セイバール=バーネットには、血の繋がった弟が1人いた。

 名をマイセンと言い、父は大層可愛がっていた。

 父の父、シャーロットの祖父が早々に他界し、長子であったセイバールが18で当主になった時、弟マイセンはまだ8歳だった。

 弟は歳が離れていたと同時に病弱であったため、父セイバールは何かと気にかけ可愛がった。

 そのマイセンが、呆気なく亡くなってしまったのである。

 父は表情にこそ出さなかったが、酷く悲しみに暮れていたのをシャーロットは昨日の様に思い出す。




 そのマイセンは母方の伯爵家を継いでいて、妻と娘がいた。

 マイセンの死後、多額の借金が分かると、父セイバールは路頭に迷う母娘を伯爵家の使用人ごと引き取る事にした。

 我がバーネット家は、膨大な敷地を有しており人手は幾らあっても困らないからである。



 しかし、領地は譲り受けるには自領が大きく、管理仕切れない。借金がなければ、領地を王家に返上したのだが、そうもいかない。

 国王陛下に、領地を売る事の許可を貰おうと上奏したところ、今までの功績のおかげもあり、他国でなければと恩赦された。

 そのため、弟マイセンの領地を信用のおける人に売り払い、借金を返す事にした。



 もとより多忙な生活をしていたセイバールは、売る人の査定や領地の選定なども増え、ますます実家に寄り付く事が少なくなってしまった。

 そのため、愛娘シャーロットを家令達に任せる事となったのである。



 弟嫁リンダと、まだ幼いロランナ。

 その2人と使用人達は、シャーロットのいる本邸とは別。敷地内ある別邸に住まわせていたのだが、ある日を境にリンダとロランナは本邸で暮らす様になっていた。



 4歳離れた従妹ロランナを、シャーロットが実の妹の様に可愛がっていたため、父セイバールが寂しくない様に配慮したのだと執事マイクが教えてくれた。




 ーーそれが、平穏の終わりの合図だった。




 その頃から、取れていたハズの調和が少しずつズレ始めたのである。

 本邸に呼ばれた事に気を良くした叔母リンダは、シャーロットに "母" と呼ぶように言い出したのだ。

 だが、シャーロットの母は、亡くなったディアドラ1人であったし、父からも再婚したともするとも聞いていなかった。

 そのため、余計に違和感を覚え決して母とは呼ばなかった。

 それがいけなかったのか、元からの気質なのか、シャーロットを疎ましく扱うようになっていったのである。



 母の態度を見て育ったロランナも、従妹であり当主の娘のシャーロットを、邪険に扱うようになったのだった。



 上がそうなら、下も必然的に右に倣えなのか、ただ常識を知らないのか……リンダ寄りの元伯爵家の使用人達も、少なからずシャーロットよりロランナに比重を置く事が多くなっていた。





『おねえさま、そのぬいぐるみカワイイわ。ちょうだい?』

『お姉さま、そのドレス最新のでしょう?』

『お姉様、そのネックレス綺麗』



 しばらくして、まるで異母妹か実妹の様に振る舞い始めた従妹ロランナが、そう言う様になったのだ。

 母を亡くした事のあるシャーロットが、父を亡くしたロランナに可愛い可愛いと甘くしたのがいけなかったのか。

 愛らしい面持ちと仕草で、使用人達がついつい甘やかしてしまった事が良くなかったのか……両方か、彼女は我がままに育ってしまったのである。

 侯爵家の家令や使用人達が、優秀でなければシャーロットは今頃、精神が壊れていたに違いない。




 初めは自分のモノを欲しがるなんて "可愛い従妹" と思い、言われるまま与えていたが、次第にオカシな事に気付いた。

 シャーロットのモノが欲しいのであって、そのモノが欲しい訳ではない様なのだ。

 その証拠に、お揃いのモノを買ってあげても、使用した形跡はほとんどなかった。

 さすがに、シャーロットや家令達が咎めると、ロランナはリンダや使用人達に伝え、立場も弁えず反論する始末。



 その事で、侯爵家の使用人と元伯爵家の使用人が、揉める事も少なくなかったため、シャーロットは侍女数名に指示して一計を投じてみた。




「お姉ぇさまぁ。そのドレス新作ですよね? 気に入りましたの。それ、私に下さいな!」

 いつもの調子で、従妹ロランナはシャーロットの新しいドレスを欲しがったため、シャーロットはニコリと優しく微笑みこう言ったのだ。




「あらあら、わたくしのドレスが "また" 欲しいの? ロランナは相も変わらず可愛いわね。いつも、わたくしの "お下がり" が欲しいなんて」

「……っ!!」

「まぁ! また、シャーロット様のお下がりが欲しいなんて、ロランナお嬢様は余程シャーロット様がお好きなのですわね。そうですわ! 先週夜会で袖を通した青いドレスも、"お下がり" としてお譲りしては如何ですか?」

「えぇ! それは良いわねマリア! ロランナに似合うかは分からないけれど、わたくしの "お下がり" ですもの喜んでくれるわよね」

 シャーロット達がそう言えば、ロランナはギリギリと唇を噛み、珍しくものスゴく嫌そうな表情をしていた。

 いつも通りに、何で仕方ないと渡さないのかと。



 シャーロットは奪われるばかりでは、次期当主として不甲斐ないと感じ始め、侍女マリア達を使い意趣返しを思いついたのである。

 欲しいと強請る事を叱れば泣き喚き、シャーロットが悪いとなる流れになる。

 それだと、泣いたモノ勝ちみたいで酷く気分が悪く、自分に従ってくれる使用人達にも顔が立たない。

 シャーロットは成長するにつれて、父のいない間の侯爵家を上手く回せる様に努力し始めたのであった。




 いつもの通りなら、ここで仕方ないと悲しそうにするシャーロットなのに、逆に嬉しそうに譲ると言う。

 そんな姿にロランナは苛立ちを感じ拳を握っていた。

 悔しそうな表情が見たいのであって、この顔が見たい訳じゃないのだ。しかも、このシャーロットの "お下がり" だなんてプライドが許せない。



「お姉さまのお下がりなんていらないわよ!!」

 シャーロットからモノを奪うのと、お下がりと譲られるのでは、気分が全く違う。奪うから気分が良いのである。

 お下がりと言われて不機嫌になったロランナは、悔しそうに一言放ち、ドカドカと足早に去ったのであった。




「モノは言い様ですね。シャーロット様」

 侍女マリア達は、クスクスと小さく笑いを溢すと、シャーロットに賛辞の言葉を掛けた。

 昨日シャーロットに、次ロランナがモノを欲しがる素振りを見せたら、そう言う様にと言われたのだが、こうも上手くいくとは思わなかったのだ。

「可愛い可愛いで済んだのは、まだ小さな子供だからよ。わたくしもいつまでも、搾取されるがままの幼い子供ではないのよ」

「それでこそ、次期当主シャーロット様ですわ!!」

 侍女達は、自分の事のように嬉しそうに笑ってくれていた。

 それだけ、侍女達にもヤキモキさせていた日々だったに違いなかった。










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