やってきましたテロ会場
その日の夜。三栗は両親と共に『炒り豆に花文化会館』にやってきていた。
「三栗、今夜ここでテロが行われる。と、予告が来た。」
山椒は眼鏡を光らせ、警察手帳を磨いていた。
「え!テロですか!?」
三栗の頭には苺の顔が浮かんだ。
「そう、今日講演を行う番茶出花婦人の所属する『怒髪天の会』と敵対している団体がテロ予告をしてきた…と、予想されているのよ。」
柿八子は手元の文庫サイズほどの資料をものすごいスピードでめくりあげ、内容を確認しながら三栗に伝えた。
「予告があったってことは、私がここに来なくてもよかったのでは…?」
三栗が不安そうな声を出すと「確かに」と、山椒は言ったがそれに続けて言った。
「これまでテロ予告は多くあったが、実行されることは少なかった。今回はとりあえず、予告のあった場に三栗を連れて行ってみようの会だ。」
山椒は胸ポケットに警察手帳をしまいながら言った。三栗は本当に頭を抱えたい気分だった。いや、もう抱えていた。
「テロなんかじゃなくて他の不運が起こらないといいんですが…。」
講演会会場『薪に花の間』にやってきたが、ステージで番茶出花さんがマイクを通して話してはいるものの、皆思い思いに移動しあちこちで雑談をしている。
「講演会っていうより雑談会って感じねえ。」
柿八子は腕時計に仕込まれたカメラで会場のあちこちを撮影しながら言った。
「怒髪天って感じの人は少ないんですね。」
三栗はそういって辺りを見回した。辺りにはふくよかで裕福そうな女性が多い印象を持った。みんなにこにこと談笑にいそしんでいる。
「三栗ちゃん…。」
その声を同時に三栗は優しく背後に引かれた。そこには苺がちょこん、と立っていた。山椒と柿八子が勢いよく振り向いたので、三栗を引っ張った苺は「はれぇ…。」とおびえたような声を出し、三栗の服の裾をつまんだまま、一歩後ずさった。
「苺ちゃん!」
三栗は見知った顔を見て胸がホッとした。山椒と柿八子も三栗の知り合いと知ると仕事用の恐ろしい顔からにこにことした外向きの顔に変わった。
「あらあ!あなたが苺ちゃん?三栗からお話聞いてます!」
柿八子は苺の手を握り明るく話した。
「三栗がいつもお世話になっています。」
山椒も柿八子の隣に並んで苺に話しかけた。
苺は困った様子で「は、はい…。」と小さく返事をした。
…山椒と柿八子は苺が近付いてきたとき、どうして気付かなかったのか疑問だった。まったく気配が無かったのだ。
「あ、あの、三栗ちゃんと、その、ごはんたべても、」
と、苺がいうと「あらあ!どうぞどうぞ!」と柿八子は三栗の背を押した。
「え?は、離れてもいいんですか?」
三栗が柿八子に聞くと「何かあったらすぐ向かうわ。あなたもね。」と、柿八子は三栗に耳打ちした。
「何かあったらじゃ遅いんですよね…。」
と、三栗は思ったが、なにもなければないでいいし、苺を一人ここで放しておくのも怖いと思った。