夜の図書館
葡萄は三栗が跡をついてきているのを確認すると再びにんまりとした笑みを作って、そのまま振り向かず図書館の大きな扉前で止まった。
「ここまで来るの、あっという間だったね。」
葡萄はそういって図書室の扉をノックした。
「ノックしちゃうんですか!?」
「しー、三栗ちゃん。少しここで待ってて、10分間、私が出てこなかったら、助けに来て。」
そういって葡萄は颯爽と図書館へと入室し、三栗はあっという間に一人ぼっちになってしまった。
「て、展開が早い…。」
三栗はとりあえず手元のスマートフォンの画面を見た、7:50と画面に表示され、8:00ピッタリになるまで葡萄のことを待つことにした。
少し、扉に耳を当てたりなんかしたが、中からは争うような音も声も聞こえない。真っ暗な廊下に残された三栗はひたすら恐怖と戦った。何も考えないでおこうと思えば思うほど、小学生の頃流行った怪談が頭をよぎるのはどうしてだろう。
両親に渡された防犯ブザーを今にも鳴らしたいような気分だった。
それよりも、ここで待ち受けている人間はそんなシャベルで対抗しなくてはいけないほどの危険人物なのだろうか。そうなのだとしたら、私なんかではなく本当に警察やらを呼んだほうがよかったのでは?と、三栗は思った。なんなら遺品すら奪われているようだし、これは窃盗ではないかと三栗は思った。
スマートフォンの画面を点け、7:59になった頃だった。
図書室から何か物が落ちるような大きな物音がした。
「星さん…!」
三栗は慌てて、飛び込むように図書室の扉を開けた。
すると、そこにはまだ見た記憶の新しい能面を付けた黒尽くめの人間がいた。能面自体は先日講演会で見たものと顔の作りは同じだったが、どうにも頭に角のような装飾がされていた。
そして、《《なにか》》を大切そうに胸元で抱えた葡萄が図書室も真ん中の椅子に座らされ、いくつもの管が葡萄から伸びていた。管には葡萄の艶めいた黒髪が引っかかり、その光景はさながら蜘蛛の糸に掛かった蝶のようだった。耳を澄ますとゴウゴウと微かにエンジン音が聞こえ、葡萄に繋がれた管には暗い赤色の液体が吸い上げられていくようだった。
三栗はその光景を前にまったく言葉が出なかった。その場に固まってしまい、数秒が経った。