夜の校舎
校舎に入ると廊下は真っ暗で、警備員の姿も見えなかった。
「日本のセキュリティ、いや、この学校のセキュリティ、私にはがばがばに見えます…。」
三栗はそういって辺りを見渡した。職員室も明かりがついていない。…職場としてはホワイトなのかもしれないが問題があるのではないかと思った。
葡萄は何も言わずにずんずんと真っ暗な廊下を先に先に歩いていく。三栗も懸命に葡萄のあとについてあるいた。
「ど、どこで、待ち合わせとかあるんですか?」
三栗が聞くと「図書館。」とだけ、葡萄はぶっきらぼうに答えた。
葡萄の後をおずおずと三栗はついて歩いた。暗いところが苦手な三栗は颯爽と歩く葡萄を見失わないように歩くだけでも必死だった。
廊下は奥に進めば進むほどどんどん暗くなっていくような気がした。
図書館は三階奥にあるため、階段を上り、もう少し歩かねばならなかったが、葡萄はだんまりで二人の歩く足音だけが廊下に響いていた。
階段を上り、三階へ着いた。
窓から三栗の好きな、校庭の真ん中にどっしりと構える大木が見えた。三栗は覗き込むように外を見ると、丁度のタイミングでカラスがガラスにぶつかったため三栗は肩をはねさせて驚いた。
「わ、ほんとに三栗ちゃんって運悪いんだね…。」
葡萄がそういってこちらに駆け寄り窓下を覗く。遠い地面でカラスが羽を広げて絶命していた。薄暗い校庭が広がり、校庭の真ん中に生えているいつも三栗を励ましてくれる大きな木ですら不気味に感じた。
「ちょっと怖いね。」
葡萄はそういって、シャベルをがしゃんと改めて肩に担いだ。
三栗は「真っ暗、ですもんね。」と答えたが、葡萄は返事をしなかった。またあとで、カラスのお墓を作ろうと三栗は思った。
「もうちょっとだよ。図書館。」
「あ、あの、電話で犯人の見通しがついてるって…。」
「ああ、そりゃ、…苺に対して否定的だったやつもいるし、三栗ちゃんが学校来なくなってとやかく言ってるやつらもいたし、その辺だろうとは思ってるの。まあ、誰かって指定できてるわけではないよ。」
「そうなんですね。」
三栗は葡萄の発言を聞いて、自分のいない間に多少校内は荒れているのだと思った。
「三栗ちゃん、この前話した『解語の花道』のこと、覚えてる?」
葡萄が突然話し始めるものだから三栗は慌てて返事をしたが少しどもってしまい「うううううん」と言った。
「ふふ、どっち?うん?ううん?」
「あ、お、覚えています!」
「あれの続きなんだけど、あそこの教祖っていうのかな。切り盛りしてるおうちがあるんだけど、そこって代々同じ血筋の人なんだって。」
葡萄は肩に担いだシャベルを重そうに、反対の肩に担ぎなおした。葡萄の肩も細くて、三栗はシャベルを乗せたときに壊れてしまうんじゃないかと不安になった。
「それがね。蛍の家系だって噂なのよ。」
「蛍の家系?」
「そうそう、なんだか、ファンタジーでしょ。」
「それって、なんでそんな噂が?」
「なんかね、宗教行事に火を扱うらしいの。いうなれば《蛍火》?みたいな。」
「火を扱う?聖火のようなものでしょうか…。それにしてもなんだかぼんやりした情報ですね。…なんで今そんな話を…?」
真っ暗な廊下を見渡し、背筋が寒くなった三栗がそういうと、葡萄はにんまりした顔で振り向き「ちょっとした、怪談?みたいな。」と言った。
葡萄は少し、いたずらっ子な部分があるようだと三栗は思った。