夜の登校
「あ、きたきた。」
葡萄は学校門傍の、ガードレールの上に座っていた。
真っ暗な学校をバックに、艶のある黒髪が街路灯に妖しく照らされている。三栗はこんな時だが、葡萄はすごい美人だ、と思った。
「お、遅くなりまして…。」
息を切らした三栗が葡萄の傍に駆け寄る。ここまでずっと小走りで来たものだからあまりにも疲れてしまった。葡萄は深い紫色のクラッシックなワンピースを着ていた。首元には黒いレースがあしらわれていて、スレンダーな葡萄によく似合っていた。
「遅くも何も遅い時間に呼び出しちゃったのは私。気にしないで、それよりも来てくれてありがとう。」
そういって葡萄はにっこりと微笑んだ。いつもより葡萄の肌が白く感じた。月の光に照らされてまるで血管が青く浮くような白さだった。
「星さん、体調、大丈夫ですか?」
三栗がいうと「なんで?元気だよ。」と、葡萄は三栗を見ずに答えガードレールからぴょんっと飛び降りた。
大した高さじゃないのに三栗は葡萄が倒れてしまわないかドキドキした。それぐらい今の葡萄は真っ白で、か弱く感じた。
「じゃあ、中いこっか。」
葡萄はそういって校門横のフェンスをよじ登り始めた。
「このところの日本はセキュリティが厳重すぎよね。門、開かなかったのよ。」
そう言いながら登りきるとフェンスの上から「三栗ちゃんはドジだから、気を付けて登ってきてよね。」と、言った。
三栗は運動神経自体はよく、フェンスをするすると登り、滑るように反対側へ降りた。降りてすぐの足元に大きなムカデぐるりと丸まって死んでおり、三栗は手を合わせた。
「いつも亡くなられた方を見つけてしまう…。」
三栗は自分にだけ聞こえるようにそういうと、即興の墓場を作りムカデを埋めてやった。
「…三栗ちゃん、苺の遺品盗んだ人なんだけど、校内にいるみたいなの。」
葡萄は校庭の垣根の中から腰位の長さがあるシャベルを取り出した。
「そ、それは…。」
「武器。…人の物、遺品盗むような人だよ。一応、持っておかないと…。」
三栗は「こんなものを使うような事態にはなりませんように…。」と、心の底から祈った。