WIN画面
それからまた次の休み、葡萄に誘われ、三栗はゲームセンターに訪れていた。
「三栗ちゃんはゲーム得意?」
「説明さえ読めばなんでも。」
「お、すごい自信。」
葡萄はそういって、対戦ゲームの席に着いた。
「はい、向かいの席に座った座った!」
そういわれ、三栗も言われるがまま席に着いた。対戦型の格闘ゲームで、古い機種のようだった。
「私はかわいい女の子にする。」
そういった葡萄は足の長いアメリカンな女性キャラを選んだ。三栗は一番オーソドックスそうな和風の男性キャラを選んだ。
…勝負は一瞬だった。三栗が次々とコンボを決め、葡萄のキャラをぎったぎたにやっつけたのだ。
「えー!強すぎない?」
葡萄は楽しそうに笑っている。ゲームの勝負ごとにそこまで執着はしないタイプのようだ。
「はじめてやったんですけどね…。」
「え?嫌味?私は何回か苺とやったのよ、これ。」
葡萄は怪訝そうな表情で台から顔をのぞかせた。三栗は嫌味を言ったつもりはなかったのだが、嫌みっぽくなってしまったと少し落ち込んだ。そういえば、苺は格闘ゲームが好きだった、と三栗は思い出し、懐かしく感じた。
「けどさ、こうやってボカスカポーンって相手に攻撃出来たら、気持ちいんだろうなあ。」
「…星さん、暴力はダメですよ。」
「あはは、暴力なんてするわけないじゃない。」
葡萄はそういって、立ち上がると、「もっと平和なゲームにしようよ。」といってクレーンゲームコーナーへ行ってしまった。三栗は格闘ゲームの画面を見ると、葡萄のキャラクターが地面に転がり、画面に"WIN"と表示されている。
「なんだかなあ。」
三栗はつぶやいて、葡萄の後を追いかけた。
「三栗ちゃんって、『解語の花道』って知ってる?」
葡萄のその言葉を聞いて、三栗の肩が跳ねた。学校の友人とそういった宗教の話はしたことが無かった。どこにそれを信じている人がいるか、それを目の上のたん瘤のように思っている人がいるかわからないからだ。
「ああ、えーと、ニュースで見かけたくらい…。」
「ふーん。なんか、苺のお父さんがそこの信者さんなんだって。」
「え!?」
三栗は驚いて振り向くと、葡萄は三栗の大きな声に驚いたようだった。
「なになに、大きな声。」
「ご、ごめんなさい。少しびっくりしちゃって。」
「そっか、けど最近流行ってるらしいんだよね。そこ。」
葡萄はそういって、先ほどかったタピオカミルクティー氷少な目を啜る。ストローをすぽんすぽんと景気よく通過していくタピオカが見える。
「そこに入ってお祈りを続けると、自分の罪が許されたり、願いが叶ったり。…とにかくすごい人数の人が信じて、救われてるんだってさ。」
淡白な口調で葡萄は言ったが、なんだか三栗は少し不安になった。葡萄は我が道を行くタイプだと三栗は思っていたが、今回のような友人が亡くなって不安定になっていると感じた。
「星さん…!私、ずっと星さんと友達ですからね…!」
三栗は胸の前で両手をガッツポーズさせ、葡萄に見せた。
「ぷっ…。ありがとう。突然だね。」
葡萄はくすくす笑って三栗の肩をぽんぽんと叩いた。
「なんかさ、勝手に苺の家ってそーいう、宗教とかとさ、無縁だと思ってたからびっくりしたんだよね。けどおばさんも亡くなって、おじさんも苦しかったんだろうね。」
「お母さま、亡くなられているんですね。」
三栗は苺の家庭のことは全く知らなかったので驚いた。今思えば、苺から父親の話を聞くことが合っても母親の話しを聞くことはなかった。
「これまた、おじさんの事故で亡くなっててさ、何か月もおじさん家から出てこれなかった時期があったんだよね。」
葡萄はもう氷と、残されたタピオカだけになったミルクティーをズーっと音を立てて啜った。
「ある日突然元気になっちゃって、苺も嬉しそうにしてたんだけど、今思えばあれくらいから、だったのかなあ。」
葡萄はまだタピオカが残っているというのにカップの蓋を外し、流し台に氷とタピオカを流した。