ショッピング
「三栗、アナタはもっと自分の役目を理解すべきだわ。」
柿八子と三栗はショッピングモールへ繰り出していた。
三栗の身体に柔らかいパステルグリーンのワンピースを柿八子は当てた。
「うーん、さすが私の娘、何でも似合うのね。」
「三栗はかわいいので…。」
三栗は落ち込んだ様子だったが、ポジティブナルシストは健在だった。
「あの時に、アナタがあそこにいなければ、あの会場にいた全員が亡くなっていたかもしれないの。」
柿八子はそういって別の色のワンピースを自分に当てた。
「ねえ、お母さんもとびきり可愛いわ…。」
「確かに、まるで少女のような可憐さです。さすが私のお母さん…。」
そういわれ、ゴキゲンになった柿八子は先ほど三栗に当てたパステルグリーンのワンピースとおそろいのベージュのワンピースを購入した。
「三栗は、自分がどうしてその能力をもって生まれてきたと思う?」
柿八子は別の店の帽子を被り、鏡に映った自分を見てにっこりと笑みを作って聞いた。
「…わかりません。本当に。」
ショーウィンドウに飾られたアクセサリーを見ながら三栗はぼそぼそと話した。
「じゃあ何に使ったらいいと思う?」
柿八子は別の帽子を被り、色々な角度で自分の顔映えを確認した。「もっと明るい色のほうがいいかな…。」と、別の帽子を手に取る。
「どういうことですか?」
「アナタのその《不運体質》よ。これからの人生、どう使っていく?」
「使うも何も、消えてなくなってほしいです…。」
「そうねえ。」
と、柿八子は言って、三栗に向きなおした。スカイブルーの帽子を被っていて「どう?似合う?」と、聞いた。
柿八子は淡い茶色の髪をしていて、スカイブルーの帽子はその髪と合い、顔をより明るく見せた。
「うん、似合います。」
と、三栗が答えると満足そうに帽子を脱ぎ「三栗のも選んであげる。」と、他の帽子も物色し始めた。
「願望じゃなくて、どう使うか。と聞いたのよ。」
三栗はずっとうつむいていたが、その言葉を聞いて顔を上げた。
いつも優しくにこにこで、菩薩のような表情しかしない柿八子の眉間にしわが寄っていたのが一瞬見えたが、すぐにつばのひろい帽子を被せられてしまった。
帽子の位置を整えて、柿八子を見ると、いつもの優しい笑顔を三栗に向けていた。
「三栗は白も似合うのね。」
柿八子の被せてきた、白いつばが広い帽子はとてもさわやかだった。
三栗は鏡を覗き込んだが、表情が浮かなく、素敵な帽子が浮いて見えた。
「…こんな体質、何に使えるんでしょう。」
三栗は鏡に映った自分の桃色の髪を見た。店頭の電気に照らされいつもより色が濃く見えた。
「一度考えてみなさい。」
柿八子はそういって、心ここにあらずな三栗の頭から帽子を脱がせた。
「帽子はやめておきましょうか。」