テジナショー
ゆったりとステージの幕が上がった。ステージ後方には大きな白いツリーが飾られ、真ん中にはかわいらしい白いドレスをまとった苺が立っていた。
苺ちゃんの傍には黒色を基調とした能のような面を被った男の人が三人立っていて、頭をぐらぐらと左右に揺らしてふらふらとステージの上を歩き回っていた。
三栗は気味が悪いと思ったが、能を言うものも手品も三栗はこれまで見たことが無かったので「こんなものなのか。」とも思った。しかし、どうにも洋風の舞台セットと合っていない。
「あいつら、少し動きがおかしいな。」
山椒は小さく柿八子に耳打ちした。柿八子は頷き、ステージへ近寄った。
「え、お、お母さん危なくないですか?」
「大丈夫だ。確認に行っただけだよ。」
心配する三栗を横目に柿八子はあっという間にステージ裏の扉まで移動してしまった。山椒はスマートにジャケットの内側をまさぐり、小さなインカムを取り出し耳に当てた。
「…母さんからだ。…本来ステージで番茶出花婦人本人が苺くんと二人で手品を披露する予定だったらしい。…あの能面の軍団は、イレギュラーだ。」
周りには聞こえないよう山椒は三栗に耳打ちした。三栗はそれを聞いてステージを見ると少々うつろな目をした苺とステージ上をゆったりと歩き回る能面たちが映った。
「三栗、父さんの傍を離れてはいけないぞ。」
山椒はそういって三栗の手を取り、ステージ裏へ続く扉の傍までやってきた。柿八子はもうステージ裏へ潜入しているようだ。
三栗は苺のことが心配でたまらなかった。ステージ裏に入る扉のあたりからではうまくステージの上がはっきり確認できない。三栗はどんどん不安になっていく。
必死にステージの下方から三栗は顔をのぞかせ、ステージを覗いた。
苺は能面たちにタワーの前に座らされ、やはりうつろな目でぼんやりとステージから客席を見下ろしている。
怪奇な音楽が流れ始め、ステージ上は色んな色合いのライトが当たる。苺は真白な布で包まれ、その布の周りを能面たちがぐるぐると回り始めた。
「お父さん…!」
三栗は音楽に急かされるように山椒を呼んだ。
苺の様子がやはりおかしいと思ったのだ。まるで何か薬品でもかがされて、意識がもうろうとしているかのように三栗は見えた。
山椒はステージ裏に入れる扉に施錠されているのを確認し、「応援を呼ぶ。」と静かにスマートフォンを操作した。
三栗は会場の出入り口にステージにいる能面と同様の被り物をした人間が扉を封鎖しているのが視界に入った。
「外で待機させていた警察がもう数分もしないうちにここに入る、三栗、ここを動くんじゃないぞ。」
山椒がそう話している最中、三栗はもう待っていられずにステージをよじ登っていた。