桃井三栗
桃井三栗は高校2年になった。
髪全体を桃色にそめて、内側に栗色のインナーカラーをいれた奇抜な頭に、緑の瞳。桃の形をしたのリュックを背負い、制服を改造してピンクと茶色で統一。名前に恥じぬ《《桃栗具合》》なのだ。
そんな桃井三栗はそんな見た目も相まってやっぱりとにかく目立っていた。
三栗の父は警視庁に勤め、母は検察官。そんな優秀でエリートな両親も三栗には頭を抱えていた。…奇抜な頭や格好なんかの素行に頭を抱えているわけではなく、三栗はとんでもない超がつくほどの《《不運体質》》なのだ。
三栗の行く先々で殺人が、自殺が、強盗が、殺戮が、テロが起こるし三栗は否応なく出会ってしまう。混沌とし殺伐として現代社会、今現在進行形でテロや暴動の横行が増えており、それに伴って新興宗教やらがどんどんどんどんと増えている傾向にあるのも一要因だと両親は考えてはいたものの、それにしても【超☆不運体質】なのだ。
三栗の不運は大なり小なり規模を問わず、三栗が外を歩けば目の前で事故が起き、死体と出会う。一歩進めば頭上から《《生き物》》の死体が降ってくる。移動をすれば痴漢やストーカーにも真っ先に目を付けられ、心霊スポットの近くを通ればやっぱり霊にとりつかれる。
三栗があまりにも不運であることに心配した両親は三栗をお祓いにも連れて行った。…日本一と謳われた霊能者は三栗と対峙し、祈祷をしてもなにをしてもダメ。三栗の不運に手も足も出ず、泡を吹いて倒れてしまった。
そんな三栗はありとあらゆる武芸を教わり、自分を守る能力をしっかりと身に着け、両親の育て方もあり賢く、ポジティブな少女に育った。
しかし狙われてばかりでは危険だと、両親は『《《桃井三栗奇抜計画》》』をたてた。少しでも不幸が、そして危険が三栗から一ミリでも立ち退くようにと現在の奇々怪々な格好の桃井三栗が生まれた。
「三栗、高校生活はどうだい。」
三栗の父、桃井山椒は優雅に朝のお抹茶を啜りながらドでかい電子書籍で新聞を読んでいる。細いフレームのメガネは抹茶の湯気で曇り切り、目ものが見えない。
「三栗ちゃん、朝ごはんキッシュだけど、いくつ食べられそう?
三栗の母、桃井柿八子は、てきぱきと朝の食卓を作っていく。艶のあるサラサラのボブヘアが朝日に照らされている。
「お父さんお母さんおはようございます!」
ハキハキと元気よくあいさつし、三栗は自分の席へ着いた。
「学校は楽しいです!校庭の真ん中に大きな木があってそれを教室で眺めたり休み時間には触りに行きます!キッシュは2つ食べたいです!いただきます!」
一息に三栗は言うと、すでに用意されていたキンキンの牛乳をぐびぐびと飲みほした。
「そうかそうか」
と、両親二人はにこにこと笑った。二人は三栗が楽しそうであればそれでいいのだ。
「お友達はできたの?」
柿八子は焼きたてのキッシュを用意しながら聞いた。
「学校では5人程います。」
と、三栗はサラダを食べながら答えた。
今年から高校二年生となり、クラスが代わった。一年生の頃は三栗の超☆運体質に怯えたクラスメイトが誰も三栗に近寄らず、友人が全くできず三栗は息のし辛い教室に毎日通う羽目になり四苦八苦した。
暖められたキッシュが目の前に置かれ、三栗は「わあ!」と声を上げた。ふくふくの卵につやつやのパイ生地が、さわやかな朝日に照らされてとてもおいしそうだ。三栗はキッシュを口に投げ込み、ほくほくと熱さを逃がしながら食べた。しっかりとした味付けなのに上品でおいしい。
「三栗はおいしそうに食べるなア。」
と、山椒は笑った。それにつられるように三栗も笑い、柿八子も笑った。そんなこんなで三栗はあっという間に朝食を平らげてしまった。
「では!行ってまいります!」
三栗はそそくさと朝食の後片付けをしたかと思うと、父と母に敬礼し、学生鞄を肩にかけると玄関へ向かった。
「三栗、ちょっと待ちなさい。」
もう背を向けている三栗に、山椒は落ち着いた声で言った。
「今夜、三栗に言いたいことがある。」
三栗はそういった父、山椒の顔をちらと振り向いて伺った。声に反して山椒はにっこりと微笑んでいた。その表情に安心し、「わかりました!寄り道せず帰ってきます!」と、三栗は答えた。
そのまま家を出て、三栗は学校へと向かった。