旦那様にはナイショです。
高級そうなレストランへやって来ました。
セオは慣れた様子で受付を済ませ、予約なしの急な来店にも関わらず、すぐに奥まった個室へと案内されました。
護衛は部屋外で待機。メニューも見ずにオーダーを済ませたセオは、私に言いました。
「時間勝負だよ。今からどんどん料理が来るから、とりあえずどんどん食べて。喋らなくていいから」
その宣言通り、間もなくして料理がどんどん運ばれて来ました。次から次に。
「何でもいいから、早くできるものからどんどん出して。一時間で出せるだけ、どんどんね」等とセオが無茶苦茶な頼み方をしたせいでしょう。
シェフが自棄っぱちになっているのではと推測されるペースで、順序を無視した料理が運ばれてきます。
しかし、それの何と美味しいこと!
食べても食べてもまだ食べられるとは、なんと幸せなことでしょうか。
舌鼓を何度も打ち、頬っぺたが蕩け、目尻が下がります。う~天国っ。
食べたくても食べられなかった我慢、この十二日間の鬱積が解き放たれます。
「ふはぁー」
一時間が過ぎて新しい料理が来なくなり、ついに全て完食いたしました。
空になった食器が次々と下げられ、テーブルがすっきりしたのを見て、はっと我に返りました。
そういえば、一人じゃなかった!
途中からすっかり同席者の存在を忘れていたのです。静かすぎて。
一時間ぶりに目を合わせると、セオは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしています。
そして、あははっと笑いました。
「いやあ、ほんと凄いね。びっくりしちゃった。圧巻。お見事。感動すら覚える」
「ほら……引いちゃってるじゃないですか!」
「え? 全然。言葉通り、感動した。いやあ、凄いもの見せてもらった。さすがにもうお腹いっぱい? まだ食べたい?」
あっけらかんとした口調で返され、気が抜けます。
「さすがに、もうお腹いっぱいです」
「それは良かった」
テーブルに頬杖をついてニコニコ笑うセオに、胸がドキリとしました。
初見で「感じが悪い」と思いましたが、とても話しやすくていい人ではないですか。
ご飯も食べさせてくれましたし。そこではっといたしました。お代金!
奢ると言ってくださいましたが、高級そうなお店ですし、何と言っても食べた量が尋常ではありません。
「おおお、お幾らでしょうか。こちらのお食事代。私、いま手持ちのお金が……」
「奢るって言ったよね」
「でも、すごくお高いんじゃ……」
「俺、金あるよ。高給取りだし。今回の依頼もサンドフォード家からたんまり報酬もらう予定だし。ってことで、実質は俺の奢りじゃなくて、君の旦那様の奢りね」
ひらひら~と両手を振って、セオは言いました。
「けどさ、とりあえず今日はこれで良いとして。また明日になったらお腹は空くわけじゃん?」
セオの言いたいことは分かります。
「今後どう凌ぐつもり? またお腹が空いて困るよね? 君から言いにくいなら、俺からブレット卿へ伝えるけど?」
「や……やめてください。それだけはどうか。今後は……明日のパーティーが終われば、出歩ける自由もあるはずですので、こっそり食べ歩きしようと思いますの。このような高級店でなくても良いのです。安くて美味しいものをたくさん買い込んで、凌ごうと思っています。サンドフォード家に迷惑をかけるようなことはいたしませんので、秘密にしていただけませんか」
私の懇願にセオはう~んと唸り、しばらく思案顔をしました。
それから何か思い付いたようで、ぱっと顔を明るくしました。
「じゃあさ、こうしない? 週一で俺のところに通って、お祓いを受ける。っていう体で、ご飯食べにおいでよ。食事でも、お菓子でもいい。とにかく満腹食べさせてあげるよ。安くて美味しいものも、たくさん持ち帰ればいい」