祓い屋、セオフィラス・ジョナス
少し癪に障るかもしれないが、腕はいい。
そうブレット様が評した「祓い屋」と実際にお会いしたとき、なるほどなぁと納得いたしました。
「腕がいい」の部分はまだよく分かりませんが、「癪に障る」の部分です。
執事のコイルより紹介を受け、挨拶をした私をニヤニヤ笑いで眺め「ふ~ん」と一言。感じが悪いです。
祓い屋、セオフィラス・ジョナスーー愛称セオーーは先代国王が愛人との間にもうけた子供で、地位はないが寵愛を受けて育った。コイルがそう説明してくれたことを思い出しました。
先代の国王陛下は十年程前にお亡くなりになりましたが、ご存命であれば七十うん歳のはず。
目の前にいるご子息は二十歳そこそこです。
なるほど、晩年にできた孫のような息子さんですね。それは猫かわいがりしますよね。
コイルの話によると、セオの尊大な態度が容認されているのはそのバックボーンもさることながら、彼自身の功績が大きいからだそうで。
「祓い屋」として王族を助け、王都の平和を陰ながら守っている立役者とのこと。
にわかには信じられないお話です。
コイル曰く、「根は悪い方ではありませんし、多少のことには目をつぶっていただけると……」
了解です。
私はにっこりとセオに微笑みかけました。
セオはニヤニヤ笑いを引っ込め、眉をひそめました。そしてコイルに向かって言いました。
「屋敷内を一通り見たけど、屋敷に問題はない。問題はこの奥さんだよ」
グサリと刺さる指摘。
そそそ、それはそうですけど、言い方。他に良い言い方は無かったのでしょうか。
コイルはえっと声を漏らし、顔面蒼白です。
「まあ任せて。ちょっと二人きりで話がしたいから、コイル爺は部屋の外で待っててくれない?」
コイルは頷き、何かありましたらお呼びくださいませと私に言い置いて、応接間を出て行きました。
ソファーテーブルを挟んでセオと向かい合って座りました。借りてきた猫のようにちょこんと。何を言われるのかと身構えました。
この優秀な祓い屋さんは、一目見ただけで私の罪深さを見抜いたのでしょうか。
「君さあ、嘘ついてるね?」
どくり、と心臓が高鳴りました。
「屋敷の人らは、二年前の魔道具事件を彷彿として不安になってるようだけど、ぜーんぜん魔の気配ないし。君はやけにオドオドしてるし? 記憶にございませんなんて、嘘なんでしょ。本当は覚えてるよね、一昨日の晩の自分の行動」
ぐうの音も出ません。言葉を失う私に、畳み掛けるようにセオが言います。
「何で黙ってるの。別に大したことないじゃない。夜中に腹減ってお菓子摘まみ食いするって、俺もそんなことしょっちゅうだし。可愛いもんだよ」
「わ、私のはそんなレベルじゃないんです。可愛いってレベルじゃ……」
つい口をついて出ました。一言が出ると、堰を切ったように言葉が溢れてきました。
「異常な食欲なんです。皆が引くくらい。食欲ばかりで色気がなくて、それで幼なじみにも嫌われてしまいましたし。ブレット様に知られたら……」
知られたら、嫌われてしまいます。
セオはぎょっとした顔をしたあと、「そうかなぁ」と不思議そうに言いました。
「ブレット卿はそんなことで女性を嫌う、器の小さい男じゃないと思うけど」
「……そうなんですか?」
「いや、よく知らないけど。親しくないし。でもさあ、女性の『よく食べるんです』なんて可愛いもんだって」
「いいえ、知らないからそんなこと仰られるんです」
つい、むきになって大きな声が出ました。
セオは笑いました。
「じゃあ知りたい。行こうか」
「え?」
「食べに行こう。奢るよ。その様子じゃ、今もお腹空かせてんじゃない? いっぱい食べて元気出そうぜ」
ぽかんとしてしまいました。
私の返事を待たず、セオはさっさと部屋を出て、コイルに話し始めました。
私に憑いている生霊を祓うには、この屋敷内では無理で、特別なパワーを有した場所で行う必要があるため云々、適当なことを言っています。
うまく言いくるめられたコイルに見送られ、セオと出かけることになりました。屈強そうな護衛を伴って、馬車は軽快に走り出しました。
前回投稿分に誤字脱字報告(文章の校正)をくださった方、ありがとうございました。
文章下手くそですので、違和感がある点はご指摘いただけたら幸いです。
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