呪いだの祓い屋だの、すごい展開になってきました。
何とか切り抜けました。
とても苦しい言い訳でしたが、何とか切り抜けました。
ああ、神様。罪深い私をどうかお許しください。もう二度とあのような摘まみ食いはいたしませんから。
私の祈りは届かなかったようです。
翌日、執事のコイルさん経由でブレット様から呼び出しを受けてしまいました。
指定された時刻に書斎を訪ねると、五日ぶりに対面する旦那様が待ち構えていました。
どうぞと言われてソファーに腰かけましたが、旦那様は書斎机から動かず、微妙な距離感を保ったまま話を切り出しました。
「報告を受けました。あなたが昨夜、寝室を抜け出して奇妙な行動をしていたと」
いきなり本題です。しかもズバッと直球な質問です。
私はひっと息を飲みました。
「ええ、あの……寝ぼけていたようで……本当に申し訳ございません」
しおらしく頭を垂れました。
「夢遊病の癖があるのですか?」
「い、いえっ、こんなことは初めてでーー」
じっと探るように私を見るブレット様の瞳を怖く感じました。涼やかなアイスブルー。背筋がひやりとします。
おおお、怒ってらっしゃる?
表情が淡々としているので感情が読めません。
「そのようなことは今までに無かった、ということですね?」
念押しで訊かれ、こくこくと頷きました。
これからもいたしませんから、どうかお許しください。
ブレット様は小さく息を吐いて、手を組み直し、おもむろにこう言いました。
「それは呪いのせいかもしれませんね」
はい?
「悪魔、精霊、もしくは生霊の仕業かもしれません」
ぽかんとする私に、ブレット様は話を続けました。
「あなたをむやみに怖がらせてはいけないと思い黙っていましたが、二年前の話です。住み込みのメイドが立て続けに同じ悪夢を見るという出来事がありました。悪夢を見るというだけでなく、夢の中で聞こえた声に誘導されて、同僚を殺そうとした。調査した結果、原因はどうやら屋敷内に持ち込まれた道具が呪われていたせいだと分かりました。その道具を特定し、専門家へ引き渡して以降は、変わったことはありませんでしたから、一件落着と安心していたんですが……」
何それ怖いです……。
知らない方が良かった情報ですが、その件と今回のことと因果関係がないことは明白です。
「心配しないでください。その専門家にもう一度見てもらいます。明日ここへ呼んでいます。私はどうしても抜けられない仕事があって不在ですが、コイルが対応します。あなたも立ち会って、専門家に見てもらってください」
何だか大事になってしまいました。
ただ私の食い意地が張っていただけですのに。とはもちろん言い出せず……。
「はい……、お手を煩わせてしまって、申し訳ございません」
「あなたが謝ることではない。その、明日やって来る専門家ーー祓い屋の男ですが、少し癪に障るかもしれませんが、腕は確かです」