旦那様にはナイショです【END】
ああこれはもう完全に「好き」と言っているようなものです。
そうです、最初から好きだと言ってるじゃないですか! どんな気持ちも何も。
あれ? もしかして私、ブレット様に言ってなかったですか?
セオのことは好きだと言ったのに。
「好きです、ブレット様が好きです。嫌なところも引っくるめて全部好きなんですから、仕方ないじゃないですか!」
ブレット様ががばっと私を抱きしめました。
暴れ出す前に押さえつけた、という感じです。
ぎゅっと顔に押し付けられた固い胸板が鼓動を刻んでいます。
「……ブレット様……苦しいです」
本当は苦しいより、恥ずかしいです。苦しそうに助けを求めると、頭の上からもっと苦しそうなブレット様の声が降ってきました。
「すみません……もう少しだけ、このままで。すみません……」
少し緩んだ腕の輪をほどいて見上げると、ブレット様はぱっと片手で顔を覆いました。
「大丈夫ですか、ブレット様。どこか打ちましたか!?」
「大丈夫です。ただ、今の顔は見せられません」
「えっ、何でですか」
「どんな顔であなたと向き合えばいいのか、今は合わせる顔がありませんので」
「え、この状況で! もう向かい合っちゃってるんで、顔を見せないとか無理ですよ?」
無言で固まるブレット様。
えっ何でしょうか、この面倒くさくて可愛い生き物は。
「どんな顔でも好きですから見せてください。ブレット様。例え鼻水を垂らされてても引きませんから。あ、酔い潰れてよだれを垂らされていたお姿も尊かったです。可愛らしくて」
覆っていた手がばっと外れ、ブレット様がお顔を見せました。
潤んだ瞳が赤く、鼻先も頬も、耳まで真っ赤です。
「もう勘弁してください……」
ブレット様は泣きそうな顔で弱々しくそう仰って、私の肩を引き寄せて、キスをなさいました。唇から熱い体温が伝わります。
「どうか私の側にいてください。散々情けないところばかり見せてしまいましたが、側にいて、もっとかっこいいところも見てください。頑張りますから。ふつつかな夫ですが、よろしくお願いします」
ブレット様の真っ赤が伝染して、私もきっと真っ赤でしょう。
「はい。私も頑張ります」
少し俯き加減にしおらしく、可愛らしさを意識して答えましたが、机を拳でぶっ叩き、胸倉を掴み上げて旦那様を怒鳴り付けたのは、つい先ほどの事です。
ああ私こそ、もっと可愛いところをお見せしたかった。
俯き加減の私の顎をブレット様が指で上に向かせました。そして二度目の口づけが。
先ほどより情熱的なキスを受けながら、視界の端に映るお夜食が少しだけ気になっていることは旦那様には内緒です。
最後までお付き合いいただきありがとうございました!




