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人生初の、食べ残しで退席です。


晩餐時、ブレット様がお尋ねになりました。


「お昼にセオが来ていたそうですね」


「はい、ペンダントを返しに。セオの家にいた間、預かってもらっていた物です」


「そうですか……」


「あの……セオに聞きました。ブレット様を尊敬していると言ったのは皮肉じゃないって。セオは本当にブレット様のことを尊敬していて、見倣いたいって。あ、セオのお母様ってセオに似てますか? セオってお母様のこと大好きなんですね」


「……セオ、セオ……あなたは本当にセオの話ばかりですね」


ブレット様がため息混じりに吐かれた、刺のあるお言葉がチクリと、いえ、グサリと胸に刺さりました。


「いえっ、そんなことは。さっきまでジャミットの話を……」


していたのに、ブレット様が上の空で全然聞いて下さらなかったんじゃないですか!

という言葉は飲み込みました。


「セオのことがそんなに好きですか?」


「好きですが、友人としてです。セオとは何もありません、誓って。まだお疑いなのですか」


「いいえ。あなた方二人を信じるといった言葉に二言はありません。ただ、そんなにセオのことが好きなのでしたら、彼が都を離れ、遠くへ行ってしまうのは寂しいのではないかと。彼の異動、無くしましょうか?」


「えっ、そんなことができるんですか?」


「ええ。元々、彼を遠方へ飛ばすように根回ししたのは私ですから」


「え?」


目が点になりました。今さらっと衝撃的事実を仰いましたか?


「ど、どうしてそんなことをっ」


「どうして? 決まっているでしょう。その時はあなた方二人の不貞を疑っていましたから、物理的に離してしまおうと思ったまでです。距離的に会うのが困難であれば、関係を続けることはできませんから」


ほう、策士ですね。

なんて感心してる場合ではなく。


「そんな理由でセオを動かすなんてひどいです。公私は割り切って、上手く付き合ってるって昨日仰ったじゃないですか。それは完全に公私混同です」


「ええ。だから申し訳ないことをしたと思い、異動は取り消ししようかと言っているのです」


「それはそれでやめてください。セオはもう準備を進めていますし、今度のは大きな仕事だから本腰入れてやらなきゃなって、やる気出してますよ。それを今さら取り消しとか絶対にやめてくださいね!」


テーブルをぶっ叩く勢いで立ち上がり、ブレット様へ抗議しました。

揺れた食器がガチャガチャっと音を立てて鳴り、危うくグラスからワインが飛び出そうになりましたが、ぎりぎり留まりました。


しかし怒って勢い良く立ち上がった手前、そこに留まれなかったのは私です。

ナプキンを椅子へ置き、そのままくるりとブレット様に背を向けました。

食事を食べ残して退席するのは、人生初のことでした。


部屋へ戻ると、異変を察知したメイリーンが飛んで来ました。


「リシュー様? どうされましたか、いつもより大分お早いお戻りですが。どこかお悪いのですか?」


「メイリーン……」


メイリーンには、昨夜ブレット様とお話した内容は話していません。

私の異常な食欲をブレット様が受け入れて下さり、お屋敷で満足な食事が出来るようになったことを大喜びしてくれた矢先です。


「ブレット様と言い合いしてしまったの」


「えっ、お食事の件でですか?」


「いいえ、セオのことで。ブレット様が私情でセオを遠くへやろうとしていたのを、やっぱり取り止めようかって。そんなことでセオを振り回すのはやめてほしくて、怒ってしまったわ」


「私情で、というのは、リシュー様が関わってらっしゃいますか? お二人のことをやはり疑っていらっしゃると」


「疑っていた頃に、セオを飛ばそうと根回しして」


「それをまたどうして取り止めようと?」


「私がセオの話ばかりして、セオのことが好きだから、セオが遠くへ行ったら寂しいだろうからって」


「リシュー様がお寂しくなるから、ですか?」


メイリーンが不可解そうな顔をしました。


「ちょっとよく分からないのですが。ブレット様は、リシュー様がセオ様と仲良くされるのを歓迎する方向へ舵を切られたんですか?」


聞かれても私もよく分かりません。

セオの話ばかりしてと仰ったブレット様は不機嫌そうでしたが、では何故セオを遠ざけるのを止めようかとわざわざ私に提案されたのか。


う~ん、試されてるんでしょうか?

それとも本当に、私が寂しくなるのを不憫に思われてのご発言だったのでしょうか。


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