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ジャミットのモフモフは緊迫するシーンには不似合いです。

その願いは意外にもあっさりと叶いました。


昼下がりの午後、久しぶりに預かったジャミットを抱いて中庭でごろごろしていると、コイルがやって来ました。


「リシュー様、セオ様がお越しです。大事なご用件だそうで。応接間にお通ししています」


「セオが!? すぐ行くわ」


ジャミットを抱いたまま、応接間へと向かいます。猫に似ていて猫にあらず、猫より二回りほど大きいジャミットはわりと重く、途中で息切れしました。


ぜえぜえしながら応接間へ着き、抱いていたジャミットを一度下ろして、ドアをノックしました。どーぞ~というセオの軽い声が聞こえました。


「セオっ、ああ会いたかったですっ!」


「あ、その子が例の? わぁ~本物のジャミットだ! すげーフワフワっ、俺も抱いていい?」


「いいですよ! どうぞどうぞ」


膝の上にジャミットを乗せ、セオは嬉しそうにモフモフを楽しんでいます。

ジャミットも嬉しそうにモフモフの尻尾を振っています。

女神と天使のコラボです。見ていて癒されます。


「セオ、初めてなんですか? ジャミットに触るの」

「うん。超希少な貴族用ペットって言ったでしょ。見たことはあるけど、触ったことなかった。あ~この手触り、超気持ちい~」


セオでもこれほどメロメロになるとは、恐るべしジャミットの魅了。


「あ、俺は色々と免疫あるから、魅了なしでメロメロね」


「なるほど、分かります。ほんと可愛いですもんね」


「あっそうだ。用事ってのはねー、これ。手ぇ出して」


セオは懐から取り出したものを、私の手のひらに乗せました。

大きな宝石がついたペンダントでした。


「お世話になったお礼に渡した……」


「うんうん。ごめーん、返しそびれてた。王都を離れる前に思い出せて良かったよ」


「お礼なので、返さなくて結構ですよ?」


「お礼にしては高価すぎるよ。君がうちにいる間は、遠慮せずにご飯食べてほしいから預かってたけど、意外と早くここに帰れたし」


相変わらずセオはさばさばしています。

じゃあ他の御礼をと言いましたが、いーよいーよと取り合ってくれません。


「じゃあ、帰るね。用事はそれだけだし」

「まっ! 待ってください!」


慌てて引き留めました。


「ブレット様のことで相談が」

「相談?」


セオの顔つきが変わりました。

上げかけた腰を再びソファーに下ろしてくれました。


「何かあった?」

「えっと、あの……その、」


何をどこまで話せば良いのでしょう。

ブレット様がお話くださったことを全てべらべら喋るわけにもいきません。


「あの、バルバーニーの剣って……知ってますか?」


「えっ、あ。聞いたの? ブレット卿に」


セオの反応から、やはりセオは全て知っているのだと確信しました。


「今はセオのお母様がお持ちなんですよね?」


「うん。あれは使いこなせない剣だから、人手に渡らないようにウィロウが保管してる。あ、ウィロウは俺の母親ね」


使いこなせない剣ーーやはりとても危険なものだったのですね。


「ブレット様はその剣を手離した今もなお、苦しんでおられます。もしまた感情を大きく揺さぶられるようなことがあれば、人を斬り殺したい衝動に駆られるんじゃないかって」


セオをじっと見つめました。


「セオはそれを知っていたんじゃないですか? 知っていて、私をけしかけて、ブレット様の激情を引き出そうとした……違いますか?」


犯人を追い詰める探偵のごとく、私はびしっとセオに指摘しました。

緊迫感の漂う場面ですが、如何せんセオの膝に乗ったモフモフのせいで、ふんわりしてしまいます。


「あ、バレた? そうそう、それそれ。激情を引き出すって言うとちょっと大袈裟だけど、ブレット卿はもっと素直に、笑ったり怒ったりすればいいのにーって前から思ってるよ。だって我慢しすぎだよね。あそこまで徹底して自制してるとさ。見ててちょっとお気の毒だもん」


軽い。軽いです。セオは飛び抜けて優しいですが軽いのです。こちらも前から思ってました。こちらの深刻さとのこの温度差。


「そっ、そんな無責任な。ブレット様、かっとしたら人を斬り殺したくなるかもしれないって。現に前の奥様、イザベル様の浮気相手をボコボコにして、叩き斬る寸前だったって……」


「叩き斬ってやっても良かったのに。寸でのところで押しとどまったんだから、ブレット卿は立派だよ。その頃ってまだ、バルバーニーの剣の後遺症というか、中毒性が残っていた時期だろうからさ。相当きつかったと思うけど」


「……後遺症、中毒性……やっぱりあったんですね、そういうものが。今は、今はもう大丈夫なんでしょうか」


「大丈夫だよ。剣を置いてからもう……六年だっけ? その間ブレット卿はひたすら感情をセーブして、黙々と仕事だけをこなしてきた。もう十分だと思わない? 早く解放してあげて」



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