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旦那様の秘密。

「今の話を聞いて、私のことが怖くありませんか?」


ブレット様が尋ねました。

ああ、これが確認したくてこのお話をされたのですね。

私が異常な食欲を隠し持っていたように、ブレット様にも秘密がおありだったのです。


「怖くありません。今のブレット様は違います。剣を置かれ、とても穏やかに暮らされています。大勢の人を斬ったのは戦場でのこと。それは私の父も同じです。言っていました。殺らなければ殺られる、条件反射で殺らなければ生き残れない世界だと。そんな世界に長く身を置けば、精神状態が危うくなるのは当然です。ブレット様は異国で二年も戦っておられたのですから。尊敬いたします。人を斬りたくて人を斬りたくて夜も眠れず、通り魔的殺人を犯す前に、ブレット様はちゃんと踏みとどまりました。悪魔の囁きに負け、実行に移した私のほうが罪深くないですか?」


それに、と私は捲し立てました。


「その『バルバーニーの剣』が全ての元凶ですよね? 呪われている武具が存在するという話は聞いたことがありますが、まさか本当にあるなんて。全ては呪われた剣のせいであって、ブレット様のせいじゃないです。犯罪は何も犯していませんし、もう剣は置いたわけですし」


「ありがとう……あなたは本当に優しい人ですね」


しかし、とブレット様は続けました。


「剣を置いたからといって、終わりではなかったのです」


その後のお話はこう続きました。

アークテレドから戻ったブレット様は、その素晴らしい功績を称えられ、異例の昇進をなさいました。

しかし先に述べたように、人斬り願望の強さに耐えられず、このままでは殺人鬼になってしまうと、騎士団を辞めて剣を置く道を選ばれました。

そしてお城に仕える役人となられました。


「バルバーニーの剣を置いた私は、ぽっかりと自身に空洞ができたようでした。生き甲斐の全てだった戦を失った喪失感、虚無感に苛まれ。もう人を斬ることができないと思うと、焦燥感が押し寄せます。自身の存在価値が見出せず、死にたいとさえ思いました。気持ちを紛らわせるため、とにかく目の前の仕事に没頭しました。空洞を埋めるべく、とにかく仕事を」


それがブレット様が「仕事人間」と揶揄されるようになった所以ゆえんでした。


「しかし、仕事をすれば気は紛れましたが、やはり私にはぽっかりと大きな穴が空いたままでした。いつも虚無感や焦燥感を抱えていました。そんなときに出会ったのが、前の妻ーーイザベルでした」


イザベル様の登場にどきりとしました。

ここで出て来られるのですね。


「彼女はとても魅力的な女性で、男の扱いを心得ていました。私はすぐに彼女にのめり込み、ーーと、こんな話を本当はあなたに聞かせたくないのですが、話の道筋上、必要ですのでご容赦願います」


とわざわざ断りを入れるブレット様の律儀さ免じて、我慢してお聞きすることにします。


「はい」


「空洞を埋めるごとく彼女を愛し、焦燥感の赴くまま彼女を求めました。始めは良かったのですが、私の愛情は行き過ぎて執着へと変わり、彼女の行動や服装に事細かく口を出したり、彼女が他の男と親しく話すことに強く嫉妬を覚えるようになりました。イザベルはそんな私に呆れ、とても嫌がりました」


ええぇ。それこそ今のブレット様からはとても想像がつきません。

クールで冷静沈着。氷の貴公子。

男女関係においても常に優位に立ち、情熱的に追いかけたり嫉妬したりは、される側だと思っていました。

ふーん、ブレット様でもそのようにみみっちく女性に干渉したり、嫉妬することがおありなんですねー。


「幻滅しました?」

「いえ。意外でびっくりしましたけど」


そしてなんだか少しむかつきます。


「で、イザベル様は出て行かれたと」


声も自然と少し刺々しくなってしまいます。



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