炎の剣士でした。
「話を戻しましょう。祖父は意外なほどあっさりとバルバーニーの剣を私に譲ってくれました。剣は古びていて所々錆びつき、そのせいか鞘から抜けないという状態でした」
ふむふむ、つまりボロボロの状態だったということですね。
「私は持ち帰った剣を、試しに自分の部屋で抜いてみました。錆びついて抜けないと聞いていたそれが、するりと抜けたときには驚きました。剣の刀身は鋭い輝きを放っていました。もっと驚いたことに……」
ブレット様はそこで一旦言葉を区切り、手元に視線を落としました。
「剣を握っていると、ぐんぐんと活力が湧いてくるのを感じました。訳が分かりませんでしたが、なみなみと生命力がみなぎって、最高に良い気分なのです。すぐさま野山へ駆け出したいくらいに。そうすれば、きっとカモシカよりも身軽に跳ね回り、虎よりも鋭く獲物を仕留めることができる」
じっと手を見るブレット様の瞳には、当時の光景が映っているのでしょうか。
まるで見えない剣がその手に握られているかのようです。
「ひっそりと部屋で剣を握るごとにその万能感は増し、早々に焦燥感へと変わりました。早くこの剣を解放しなくてはと。戦地へ出てこの剣を思いきり振り回し、敵をなぎ倒したい。その欲求はどんどん強まり限界を超え、とうとう私は父へ申し出ました。騎士団へ入り、戦いたいと」
ブレット様の騎士団入りに、そのような経緯があったとは驚きです。
「父は最初反対しましたが、私の熱意に折れ、訓練参加を許可されました。厳しい訓練ですから、三日もすれば根を上げると踏んだのでしょう。確かに訓練はとても厳しく辛いものでした。しかしどれほど疲労困憊しようと、嫌な出来事があろうと、寮に戻ってあの剣を握れば、たちまち活力がみなぎります。早く戦地へ出て剣をふるいたいという思いが強く、少しもへこたれませんでした」
「それは……素晴らしいことですね」
「ええ。同盟国アークテレドでクーデターが勃発し、我が国の騎士団が派遣されると聞いたときには歓喜しました。これでやっと戦えると、喜び勇んで志願しました。戦地では、水を得た魚のようにイキイキと活躍しました。バルバーニーの剣を持った私は無敵でした。戦うことが本当に楽しかった。戦を愛していたと言っても過言ではありません」
別人の話を聞いているような不思議な気持ちです。私の知っている目の前のブレット様と、お話の中のブレット様が結び付きません。
しかしキャサリンおば様も仰っていました。
氷の貴公子は、かつては炎の剣士だったと。
「それほど戦好きでいらしたのに、剣を置いて騎士団を辞められたのは何故ですか?」
どこに着地点があるのか話の先が見えませんでしたが、核心はそこにある気がしました。
ブレット様はどうして剣を置いたのかーー、
イザベル様のためかと思いましたが、お二人が出会ったのは、ブレット様がお城勤めに変わられてからです。
「良い質問ですね」とブレット様も誉めてくださいました。
「自分が怖くなったからです。アークテレドの内戦が終息に向かったとき、私は焦燥感に駆られました。戦が終われば、もう人を斬れなくなる。人殺しが称賛される戦が終わってしまえば、私は今後どこで人を斬ればいいのか。敵か味方かはもう関係ない。誰でもいいからとにかく人を斬りたいと、渇望している自分に気づき愕然としたのです。あのまま行くと、人が斬りたくて斬りたくて夜も眠れず、こっそり闇夜に紛れて通り魔的殺人を犯しかねませんでした」
ブレット様は私を見ました。
「そんな私に比べたら、あなたがお腹が減ってお腹が減って夜も眠れず、ベッドを抜け出してお菓子を盗み食いするのなんて、大変可愛いものです」
今の凄絶なお話を聞いた後では、確かにそう思えます。




