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後ろ向き思考よ、前へ向け。

ブレット様を待つ間、セオにくどくど言われました。

思考が後ろ向きすぎるとか、もっと自分に自信を持てだとか、もっとブレット様を信頼しないとダメだ、とかです。


ええ、セオの言うことは正しいです。正しくてぐうの音も出ません。

私のことを思って、耳の痛いことを言ってくれているのも分かります。でもあまりにズケズケ言われるとへこみます。


ブレット様がお戻りになりました。

顔色は悪いですが、先ほどよりは幾分ましに見えます。


「ブレット様、大丈夫ですか? 二日酔いでいらっしゃるのに、気づかなくて申し訳ありません」


食器を全て下げてもらい、テーブルの上には食後の紅茶だけがあります。


「紅茶飲まれますか? お水のほうが良いんでしょうか。二日酔いのときって。食べ物の匂いを嗅ぐだけで気分が悪くなることがあると、セオに聞きました」


紅茶で大丈夫ですと、ブレット様はカップを手に取り、そっと口をつけました。


「それなのに私ったら、ありとあらゆる食べ物の匂いを振りまいて、食べ物テロのような真似を。別に今日でなく、違う日にすれば良かったですよね……」


カップをソーサーに戻し、ブレット様は顔を上げました。


「いえ、今日で良かったです。私はせっかちな性分ですから、今日知りたいと思ったことは、今日中に知りたいんです。あなたのことが知れて良かった」


そう言うとブレット様は口角を微かに持ち上げました。……笑った?

ブレット様が笑いました。自信はありませんが、微笑と受け取っても良いご表情です。


「あの……私のこの食欲を知って、どう思われましたか?」


「大丈夫だと思いましたよ。このくらいの量を我が家の食事で出せば良いんですよね。それで家計が傾くことは無いと思います。安心して、たくさん食べてください」


えっと……そういう問題では……いえ、それも大事な問題でした!


「ありがとうございます、でもお屋敷で食卓に上るお料理って高級品ばかりですから、それを十倍食べたいっていうのではないんです。安くて美味しいものってたくさんありますから、それを十倍食べられたら満足なんです。十分の一のお値段で十倍食べられたらすごくお得かと!」


「質より量」の実家流です。

熱弁をふるってから、はっとしました!

ブレット様が目を丸くして私を見ています。

あわわ……

何て失礼な提案を、サンドフォード公爵家のご令息へ。


くくっと押し殺した笑い声がブレット様の口から漏れました。


「あ、いや失礼……あなたがあまりにも……可愛いもので」


耳を疑いました。くっきりと聞こえた空耳でしょうか。

可愛い……可愛い……。私があまりにも……可愛い?

私が知っている言葉の意味と同意でしょうか?


「あまりにも……」の後に一瞬言葉にためらわれた感じでしたから、他の言葉を言おうとして言い換えたという可能性もあります。


あまりにも、田舎くさくて。あまりにも垢抜けなくて。あまりにも色気がなくて。あまりも食い意地が張っていて。

そういう意味をやんわりと包括しての「可愛い」かもしれません。

ネガティブで自虐的な考えがぐるぐる渦巻きます。


セオが私の名前を呼びました。その声にはっとします。

思考が後ろ向きすぎる、もっと自信を持て、ブレット様を信頼しろと、ついさっきダメ出しされたばかりでした。


「やだなあ、イチャイチャするのは二人きりのときにしてくれない?」


「えっ、そっ、イチャイチャはしてません」


冷やかされて、頬が熱くなりました。

言い合いしている私たちをブレット様が目を細めて見ておられます。

目が合って、また微笑まれました。

笑顔と判断するには微量な笑みですが、瞳の優しさでそれと分かります。


ああ、ブレット様の微笑みのなんと尊いことでしょう。滅多に笑わない人が笑った、それだけで感動し、嬉しくなります。

いつもニコニコしているセオが真顔になったら怖いのと、真逆ですが同じです。


ブレット様が初めて微笑んでくださったこの日を、「可愛い」と言ってくださった今日のことを、私はきっと一生忘れないでしょう。



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