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大食を証明します。



やって来ました、レストラン。

セオと初めて会った日に連れて来られ、一時間で食べられるだけ食べる、というチャレンジをしたお店です。


奥まった個室に案内され、とにかく何でもいいからじゃんじゃん持ってきてとセオが注文し、どんどん料理が運ばれて来ます。

前回と違うのは、ブレット様がご一緒ということです。


セオと浮気しているという誤解は解けましたが、私の異常な食べっぷりを見て幻滅されないか心配です。


『君とご飯を食べていると胸やけがしてきて、料理が不味くなる。げんなりするんだ』


そう言って、ボンキュッボンの踊り子と駆け落ちしたサイラスを思い出しました。

でも違います。サイラスはサイラス、ブレット様はブレット様です。

同列に並べては失礼です。


「お腹空いてるよね? 遠慮しないで全力出してね」


セオがにっこり笑って言いました。

この後に及んで可愛い子ぶるなよという意味の笑顔です。

はい、分かっています。


一度かぶった猫をひっ剥がすのは勇気のいる行為ですが、一生かぶり続けるのは至難の業。

ブレット様と夫婦として添い遂げたいからこそ、本当の私を見ていただくのです。


覚悟を決め、とにかく食べました。ひたすら食べました。

苦行でも何でもありません。ひたすら幸福な時間です。

どんなときでも美味しいものは美味しい、美味しいものは偉大です。元気の源です。


間もなくタイムアップというとき、突然ブレット様が席を立たれました。

青ざめた顔をされています。


「ちょっと……失礼」


口元に手を当てて、さっと部屋を出て行かれました。


「ど……セオ、どうしましょう」


さあっと血の気が引きました。

覚悟はしていましたが、実際にこうなるとやはりズシリときます。まだ余力を感じていた胃が急にずんと重くなりました。


「少し待ってみて、なかなか戻らないようなら見てくるよ。戻ってきたら様子を見て、よほど悪そうなら俺が送って帰るから、君は別便で帰って。そのほうがいいでしょ」


セオはどんなときもテキパキとしています。

頼もしいです。千切れて無くなりそうな私をばしっと掴んで、この場に留めてくれます。


「別便で帰るって……とりあえずセオの家へ?」


「え? ああ、確かに荷物はまだうちにあるっけ。でも今日じゃなくていいよ。また違う日に取りに来なよ。ブレット卿にもう心配かけないようにね」


「え? どういう意味ですか」


「ん? 言葉通りの意味だけど。せっかく仲直りしたんだから、荷物の心配なんか二の次にして、二人の時間を温めなよってこと」


会話が全く噛み合っていないことに気づきました。


「セオ、今の見てましたよね? ブレット様は私が食べているところを見て胸やけがして、げんなりして、吐き気が」


「うん、完璧に二日酔いだねー。二日酔いに食べ放題の現場は確かにキツい。そこまでひどいと思ってなかったからさ、悪いことしちゃったなあ」


「え!」


それは早く教えてほしかったです。

そういえば応接間で話していたときも、やたらこめかみを押さえられて、しかめ面をされていました。

あれは二日酔いゆえの仕草だったんですね。


「じゃあ私に幻滅したかどうかは、まだ分からないと……」


「ああ、もしかして君、ブレット卿がそれで出て行ったかと思ったの? そんなわけないじゃない。さすがにそれは一言いってから帰るでしょ」



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