夢の中で。
私の手を握ったまま寝てしまったブレット様を、じっと手を握られたまま眺めていると、泣きたくなりました。
前の奥様と間違えられたからではありません。
ブレット様がまだ夢に見るほどにイザベル様を想われていること、悪かったと謝罪を口にされたこと、幸せなら良いと仰られたこと。
それら全てに打ちのめされました。
私もサイラスのことは決して忘れられません。楽しかった記憶は全て悔しい記憶に上書きされ、思い出しては嫌な気分になります。
駆け落ち相手とお幸せに、などと思ったことは一秒たりともありません。
私の青春を返せと言いたいです。
ブレット様はイザベル様を心から愛し、イザベル様の不貞が原因で別れてもなお、イザベル様を責めるどころか、幸せを祈っておいでです。
酔っ払って寝言で口に出るというのは、上っ面ではなく、心の底からの本心ということです。
なんとお優しく、寛大なお心なのでしょう。
でも、そんなの寂しいです。悔しいです。
ブレット様がお許しでも、私はイザベル様を許せません。
こんなにイザベル様を想っているブレット様を裏切って、他の男性の所へ行ってしまうなんて。ひどいです。悔しいです。
どうか夢の中のイザベル様が、ブレット様にお優しくありますように。
私の手を握るブレット様の手に、もう片方の手をそっと重ねました。
しばらくそうしていて、気づきました。
この感じでは、ブレット様はもう起きられないか、起きても話し合いができる状態ではないでしょう。
それにいつまでもテーブルに突っ伏して寝ていては、きっと体が痛くなりますし、風邪を引かれるかもしれません。
そっと離れて、部屋を後にしました。
急いでバーカウンターまで戻りました。カウンター越しに談笑していた二人が、ぱっとこちらを見ました。
「リシュー様! どうでした!?」
ばっと立ち上がったメイリーンが言いました。
「ブレット様は眠ってらして、お声がけしても起きる気配がないの。そのまま朝までお眠りになりそう」
メイリーンに答えながら、銀髪の店員さんへ尋ねました。
「ブレット様はお一人でいらしてて、お迎えの人はいないんでしょうか?」
店員は心苦しそうに眉を下げ、
「ええ。お帰りはご自身で馬車を拾われるご予定かと。当店に宿泊用の部屋はございませんが、ソファーで一晩お休みいただくことは可能です。貸し切りでいらっしゃいますし。ブランケットもご用意できます」
店員さんが手のひらで指し示した、壁際のソファーに目をやりました。
多分足がはみ出ますが、テーブルに突っ伏して寝るよりは楽でしょう。
「では、とりあえずそうさせて貰えるとありがたいです。ブレット様をここへお連れするのを手伝っていただけますか?」
「それは申し訳ございませんが、致しかねます。あの通路より先は、リュシュー様とセオフィラス様しかお通ししない、というお約束ですので」
銀髪の麗人はきっぱりと言いました。
「えっ、お店の方もですか? ブレット様、寝ていらっしゃいますし、そこはノーカウントで良いんじゃないでしょうか。あのまま放置というのも……」
「お約束はお約束ですから」
頑とした拒否です。なんと融通が利かないのでしょう。
「ではブランケットをお貸し願えますか? セオが来るまで待ちます」
そうです、セオです、セオ。
アンダーソン男爵への説明が済み次第、こちらへ来ると言っていたのに、まだ来ません。
説明に手間取っているのでしょうか。揉めていなければいいのですが。




