五名様、ご案内。
セオが呼んだ助手さんは、夕方前にやって来ました。
長い黒髪を後ろで一つに結び、無精髭を生やした彼は、アランと名乗りました。
背が高く骨格はがっちりしていますが、痩せていて、鋭い目つきの男性です。
「やあ、アラン。久しぶりー、いいの彫れてる?」
アランの本業は彫刻家だそうです。ただし作品は数年に一度しか売れず、食い繋いでいくのがやっとだそうです。
「やあ、クレア。君も気苦労が耐えないねえ。え? あはは、やだな~。違うって」
ぎょっとしました。
アランさんの他には誰もいません。クレア?
セオは誰と話しているのでしょうか。
「あ、見えないだろうけど紹介するよ。こちら、アランに憑いてるクレア。アランの奥さんでもう亡くなってるけど、アランが心配で成仏してない」
えっ、亡くなった奥様が憑いてる!?
「幽霊でいらっしゃるということですか?」
おそるおそる、改めてアランさんの肩の辺りを凝視しました。
全く見えませんが、そう言われると人の気配を感じるような、気のせいのような……。
「うん、そう。二人の意志を尊重して、祓ってないんだ」
私とセオと、メイリーンと、アラン(奥さん憑き)。五人で外へ食べに行くことになりました。
早めの夕食をとって、そのあと二手に分かれ、メイリーンとアランにブレット様のもとへ行ってもらおうということに決まりました。
「と、その前に。悪いけどその無精髭、剃って」
アランの乗ってきた馬車に五人で乗り込み、街へ出ました。セオ邸は王都の外れにあり、近くの街へ出るのに馬車で四十分かかります。
街は小規模で、都の中心部に比べて庶民的なお店が多いです。
つまり、安くて美味しい大衆料理店があります。
う~このチキン、甘辛い味付けが癖になります!
夢中で食べていると、はっと視線を感じました。アランが動きを止め、こちらをじっと見ていました。
食べ終わったチキンの骨が積み上がって、巨大な骨のお城が出来上がっているのでした。
「いやー、ほんとよく食べるよね」
セオにあははと笑われ、いたたまれない気持ちになりました。
こんなときによく食べるね、と脳内で変換されました。
そうです、私はどんなときでも食欲は衰えません。むしろ落ち込んでストレスを感じるほど、がむしゃらに食べたくなるのです。
サイラスに振られたときも、ひたすらに食べまくりました。
ぽっかりと空いたすき間を埋めるごとく、詰め込んで詰め込んで、胃がはち切れんばかりに食べて。限界を突破して、さらに胃が大きくなりました。進化し続ける私の胃。
「あら嫌ですわ、つい夢中になって……」
オホホホと笑って取り繕いました。
アランに私の素性は話していませんし、会う前に着替えも済ませ、特に貴族ぶる必要はありませんが、さすがに恥ずかしいです。
「……いや……素晴らしい」
アランは持ち歩いていた鞄からばっとスケッチブックを取り出し、チキンの骨の城を書き写し出しました。
どうやら何かインスピレーションを得たようです。
大衆料理店での食事代はセオが全員分、気前よくぽんと払ってくれました。
ここへ来る前にセオにペンダントを渡しました。大きな宝石がついた物で、換金すればきっとそれなりの金額になるはずです。
セオは最初遠慮しましたが、お世話になる側としての気持ちの問題ですと押し切り、懐に納めてもらいました。
お陰で遠慮せずに食べることができました。




