表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/46

初の大都会、ワクワクします!!

数日かけて移動し、王都へやって来ました。

初めての大都会!

目に映る景色全てが新鮮で、正直ワクワクしています。


「どうかなさいましたか? リシュー様」


侍女のメイリーンが尋ねました。

メイリーンは心配性で、不安がすぐ顔に出ます。

私の機微を敏感に察知し、私以上に思い悩んでくれる優しい女性です。サイラスとの一件でメイリーンは可哀想なくらいげっそりとやつれ、とても不憫でした。

嫁入りに連れて行く侍女には、肝っ玉母さんキャラのクラウディアのほうが良いのではと家族に言われましたが、私はメイリーンを選びました。

私を心配するあまり、メイリーンがまた痩せてしまわないか、私が心配だからです。

近くにいて、私が元気なことを確認して、安心してほしいのです。


それに実家にはまだ小さい弟妹がいます。肝っ玉母さん的なクラウディアには彼らを見てほしいと願いました。


「こんなにたくさんの人がいて、お店がズラリだなんて、すごくワクワクするわね。でも服飾関係のお店ばかりなのね」


「ああ、通りによって違うみたいですよ。この辺りはお洋服や宝石店が軒を連ねていますが、違う通りに入れば、一帯が飲食店のようです」


「それは楽しみだわ。あ~、早く街を散策したぁい」


「ゆっくりお時間が取れるようになるまでのご辛抱ですね」


励ますように言うメイリーンに頷きました。

そう、すぐには無理よね。

夫になるブレット様との顔合わせもまだですし、結婚のお披露目パーティーの準備もあります。

それらのノルマを一通りこなした後は、きっと自由な時間ができるはず。


聞くところによると、ブレット様は筋金入りの仕事人間で、お勤め先であるお城へほぼ泊まり込みで、自宅には滅多に帰らないとのこと。

なので前の奥様は大変ご自由に、趣味と娯楽に生きていたとお聞きしました。


しかしやはりお淋しかったのか、ご出産のため里帰りしたご実家が離れがたくなったのか、そのまま戻らなくなったそうです。

その後正式に離婚に至り、独り身になったブレット様は、いわば私と似た者同士ですわ。


パートナーに逃げられた者同士……少し親近感が湧きます。

傷ついた過去あり同士、フラットに要領よく、やっていける気がいたします。



私の想像を上回るレベルで、ブレット様はとても淡白でした。

お屋敷に到着したときはお仕事でご不在、翌日にお顔合わせの予定でしたが急務でキャンセル。結局お会いできたのは翌々日でした。

それもほんの二三言の挨拶を交わしただけで、またすぐにお仕事へ戻られました。


そして今日、お屋敷へ来て七日目になりますが、初めてブレット様とお食事を共にします。

晩餐を挟んで着席し、まずはシャンパンで乾杯しました。

乾燥した唇をシャンパンで潤わせ、気まずい沈黙を打破するべく口を開きかけたところで、ブレット様の低く重厚な声が響きました。


「もうこちらには慣れましたか」


「あ、はい……お陰さまで。皆さん良くしてくださって」


「それは良かった。困り事があれば言ってくださいね」


「ありがとうございます」


「で、来週の披露宴のことですがーー」


事務的な口調で今後の予定確認を始めたブレット様に相槌を打ちながら、私の心は上の空、いえ、食卓の上にありました。


うわぁこの海老ぷりっぷり!

このピリッと後味のきいたスパイスは一体何でしょうか。ソースの合わせかたが絶妙です。

サンドフォード家のシェフは本当に良い腕ですわ。流石です!

あら、こちらのパイの中身はお肉ですのね。お肉だけじゃなく、旬のお野菜が入っています。かりっとした食感が素晴らしいアクセントです。

彩り良し、味良し。あと五個……いえ五十個は食べたいです。

なぜなぜどうして、どれもこれもちょこんとした分量なのでしょう。


いえいえ分かっています、これが普通の「一人前」の食事量。

私が異常なのです。何しろ十人前はペロリといけますから。

こんなんじゃ全然足りない……!

美味しくて幸せですが、味見程度の量ではまったく満たされません。正直もっと食べたい。


『困り事があれば言ってくださいね』


先程のブレット様の言葉がずっと頭の中をぐるぐるしています。

食べ足りなくて困っていますと、言えたらどんなに良いでしょう。

我慢。我慢よ我慢、リシュー。貴女、よもやサイラスの捨て台詞を忘れた訳じゃないわよね?


『君と食事していると、胸やけしてきて飯がまずくなる。げんなりする』


たくさん食べすぎる私に愛想を尽かした幼なじみの言葉。

いつからそんな風に思われていたのか。

気持ちいいくらいに食べるね、元気でいいねと笑ってくれたのはいつまでだったのか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ