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第三回「お祓いの日」(あと残り二回だそうです)




「それ、完全に餌付けされてるねー」


第三回「お祓い」の日、セオがあははと笑いました。


「そのお菓子の中に、毒でも入ってんじゃない? 即効性はなくて、後からじわりじわり効いてくるやつ」


「えっ、嫌なこと言うのやめてください」


「君がいま食べてるスイートポテトの中にも入ってるかもよー。俺に餌付けされながら」


ぐっと喉が詰まりそうになり、慌てて紅茶を飲み干しました。


「だから嫌なこと言うのやめてくださいってばー」


「じゃあもっと嫌なことをこれから言うけど」とセオはニヤニヤ笑いを引っ込め、真顔になりました。


「この食事会、あと二回で終わりにしよう。それ以上続けるのはさすがに無理。五回以上かけて祓えないってのがまずウソ臭くて怪しいし、来月出張が入ったからさ。いつまでもだらだら君に付き合えるほど、俺も暇じゃない」


相変わらずセオはハッキリとした物言いです。


「課題を先延ばしして、事態は好転した? そのうち自由に食べ歩きに出られるようになるって言ってたけど、なってないよね? おばさん連中の話し相手をしたり、ジャミットの世話をしたり、コイル爺にスケジュールを詰め込まれたりして、屋敷に縛られてる」


うっ、仰る通りです。

セオ曰く、私が前の奥様の二の舞にならないように、サンドフォード家の人々が変に結託しているのだろうと。

サンドフォード家のみならず、ブレット様の職場の方々まで色々と手を回してくださって。

ついには部署の配置換えが行われ、以前のようにブレット様が度を越して働くことはもうできなくなったそうです。(と執事のコイルから聞きました)


「もう観念して、ブレット卿に正直に話したら? 屋敷での食事が足りてないこと。結婚して二ヶ月近くになるよね? 屋敷に来たての頃に比べたら、少しは信頼関係築けたでしょ?」


私が黙ると、セオは分かりやすく呆れ顔をしてこれ見よがしなため息を吐きました。


「で、でも、悪いのはあちらです。ブレット様に取りつく島がないというか、気軽に話せる雰囲気がないというか。つまらない事で話しかけないでほしいオーラが出ていますもの。閉じてるんです、私に対して。開かれてないんですもの。きっと私が前の奥様みたいに、妖艶な美女じゃないからです」


「君は?」


「え?」


「君はブレット卿に対して、心開いてる? どうせどうせって勝手にいじけて、決めつけて、ブレット卿のこと信用してないよね。たくさん食べすぎるってくらいで、ブレット卿は君を嫌ったりしない。俺はそう思う」


最初に会った日にも、セオは確か同じことを言いました。ブレット様の器はそんなに小さくないと。


「どうして分かるんですか? ブレット様と親しくないって言いましたよね」


「親しくないけど、昔から知ってるから」


「ブレット様の昔……」


つい先日おば様から聞いた話を思い出しました。


「もしかして、騎士団にいらっしゃった頃もですか?」


セオは目をみはりました。

意外そうに、「知ってるの?」と聞き返しました。


「ええ、聞きました」


ブレット様本人にではなく、おば様からですけど。


「アークテレドの内戦で功績を上げて、異例のスピード昇進されたそうですね。分団長だったとか」


少し誇らしい気持ちで答えました。

私の手柄ではありませんが。


「手柄を上げて出世したってことは、それだけ大勢の人間を斬ったってことだ」


セオが言いました。


「何十人か何百人か、何千人か。殺された者の恐怖や無念、絶望や後悔。家族を失った者の哀しみ、恨み……怨念は、禍根となって残るんだ」


まるで呪いの言葉を吐くように、ゆっくりと噛みしめるように、セオは言いました。

琥珀色の瞳の中にゆらりと暗い影が揺れたように見えて、思わず眉をひそめました。


「それは……そうかもしれませんが……お国のために、国民のために、私たちのために剣をふるったんです。それはブレット様だけでなく、戦場では誰もがそうでしょう?」


お父様のことを思いました。

戦いに出ると何ヵ月も会えず、帰ってきたときには傷が増えています。斬って斬られて、お父様こそ何千人、何万人もの怨念を背負っているでしょう。


「でも、もし怨霊に殺されそうになったときには、ちゃんとセオが助けてくれるんですよね? 優秀な祓い屋さんですもんね?」


祈るように問いかけると、セオはふっと表情を和らげました。


「それはもちろん。報酬次第だけどね」



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