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魅了の術の使い手と、王族コンプレックス。




「あれ?  君、最近立て続けにジャミットに会った?」


第二回「お祓い会」で、顔を会わせるなりセオが言いました。


「ジャミットって誰ですか?」


「猫に似ていて、猫にあらず。真ん丸の耳をした、真っ白いモフモフ」


「ああ!」


すぐにピンと来ました。例のおば様がよく我が家に預けに来るペットです。

事情を話すと、セオはうんうんと頷きました。


「それで魅了の術にかかってるんだねー」


「魅了の術?」


「うん。ジャミットはオラク共和国原産で、野生だった大昔には魔獣だったんだよ。出会った人間を魅了し、山奥へと迷いこませ、仲間の野獣に襲わせて、そのおこぼれにあずかってたっていう」


ええええ、嘘でしょう。

あんなに愛くるしくて、人間の庇護なしではとても生きていけないような、あのか弱いモフモフが!?


「まあ何百年もかけて品種改良されて、小さくなったし、魔性もかなり薄まってるし、今じゃお金持ちの愛玩用ペットだけどね。何年か前に輸出入禁止になったし、滅多に流通しない希少ペット。免疫がない人間は、ジャミットの魅了の術にかかっちゃうんだよね。何度も会ううちに徐々に免疫ができて、効かなくなるけど。君は今ピークでかかってる状態だね」


思い当たる節はあります。

世話を任された最初は面倒臭さも感じていたのですが、会えば会うほど可愛くて、あ~このモフモフをずっと撫で回していたい、多少の無理は聞いてあげたいと、メロメロになっていきました。

あのおば様が来るのが心待ちになってしまった今日この頃。


「ピークでかかっているとヤバいんでしょうか」


「んー。といっても危険な魅了じゃないし、日常生活に弊害はないと思うけどね。普段より少し高揚感があるとか、ほんのりしあわせ気分が続くとか、その程度。ピーク過ぎれば免疫が出来てくるし。嫌なら、今すぐ解いてあげてもいいよ。そんで防御の術でガードしとけば、もうかからないし」


「そ、そんなことが出来るんですか!」


ほへぇーと感心しました。少し考えて、答えました。


「このままでいいです。魅了の術が今ピークにかかっていて、この状態ってことですよね。相殺されてコレなら、術を解けば鬱確定です」


「やだ、 怖いこと言うなあ。何かあった?」


「何かあったも何も……。そのジャミットを預けに来るおば様の他に、もう一人別のおば様が毎日のように来るんですけど、毎回嫌なことを言って帰るんですよねー。あれは完全に嫌がらせですよ」


ついセオに愚痴ってしまいます。


「あー、それは完全に嫌がらせだね。ブレット卿と君が子供をもうけるのを邪魔したいんじゃない? そのおば様の旦那ってさ、サンドフォード公爵の弟だよね。次男。ブレット卿に子供ができなかった場合、自分ちの息子が爵位を継げる可能性出てくるから」


「えっ、じゃあ、ジャミットのおば様も、爵位の継承権を狙って、私をジャミットで骨抜きにしようとなさってる、とか……?」


「いや、そっちの旦那は三男坊だね。爵位継承権の順位は元から低いから、狙ってないと思う。それよりもブレット卿に権力がある方がありがたいだろうね。そのおば様の息子たちは城勤めしてるけど随分ポンコツで、ブレット卿の顔があるから何とかクビにならずにやっていけてるって噂だし。ジャミットおばさんはきっと、君とブレット卿に上手くいって欲しい派だよ。彼女なりに応援してるんじゃない?」


「え、そうなんですか……ていうか、詳しくてビックリです。あ、セオも親戚ですもんね」


「詳しいのは、王族御用達の祓い屋だからだよ。俺を親戚と認めてる王族はいない」


「え? ブレット様、普通に私に言いましたけど。血は遠いけど親戚だって」


先代国王と愛人との間に生まれた子供ーー「側室」ではなく「愛人」というのが、いかに非公式な関係であったのかが窺えます。

国王陛下の異母兄弟でありながら、全くの別世界で生きているセオ。

色々思うところがあるのでしょう。

時々セオから感じるのは、王族コンプレックスです。


「へえ、ブレット卿がねぇ」


ほの暗い表情で呟いたセオは、いつもと雰囲気が違いました。

しかしすぐさま明るい調子に戻って、言いました。


「わっ、話してたら時間が。食べる時間がなくなる! 今日は、多国籍レストラン『アンジャモンニュ』で自慢の異国料理コースってのをデリバリーしてもらったんだ。見て見て、すごいでしょ。この量!」


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