ストレスが溜まったときにはモフモフしたいです。
「あの、どうして最近早く帰られるようになったんですか?」
晩餐時に思いきってブレット様に尋ねました。
お姉さまにけしかけられたのがきっかけですが、理由をちゃんと知っておきたいと思ったからです。
理由が分かれば、今後の私の身の振り方も分かるかもしれません。
「ああ、仕事が奪われたからです」
「奪われ……」
思ったより物騒な話なのでしょうか。
「上司と同僚に。新婚のときくらい早く帰れと仕事を取られ、職場を追い出されます」
思ったよりいい話でした。
「そんなお気遣いを……職場の皆さんが」
「はい」
はい、会話終了。
やはり耐えられません、この空気。
早く帰宅して妻と一緒に食事をしようという心がけは殊勝ですが、会話が続きません。
好きなだけたくさん食べることができないというストレス以上に、この超無愛想で無口な旦那様と過ごす苦痛。
話しかければ返事はしてくれますが、そこから話題が広がったり、盛り上がったりすることは皆無です。
ブレット様から話しかけてくることと言えば、業務連絡のようなものばかり。
こんなに対人スキルが低いのに、お仕事が優秀というのも謎です。
書類仕事に喋りは必要ないのでしょうか。
いえ、そもそも職場に泊まり込んで長時間働き詰め=優秀さの証しとは限らないのでは?
ひょっとして、他の人が一時間でできることをブレット様は五時間かかるとかーーーー
な訳ないですよね。結婚披露パーティーで出会った皆が口を揃えて、ブレット様の仕事ぶりを誉めていましたし。
それにしても、上司や同僚の方に言われたから早く帰宅するようになったとは、とても受け身です。
ご自身の意思ではないと。
むしろ、本当はまだ仕事をしていたいのに、無理やり帰らされて、だからこんな態度なのでしょうか。
嫌なら嫌と言えば良いじゃないですか。
私だって一人で食事したほうがどれだけ気楽かーーーー。
黙々とフォークを運び続け、気まずい食事を終えました。
ご馳走さまをして、それぞれ違う部屋へ引っ込みます。
一人になるとほっとしますが、夜更けに突然、ブレット様が部屋へ来られる可能性もゼロとは言えません。
一応夫婦ですから。
と身構えて広すぎるベッドに入るも、そのまま朝まで熟睡コース。
お腹が減って眠れないということがなかったのは、昼間セオにたらふく食べさせてもらったのと、持ち帰ったお菓子と、お姉さまの手土産のお陰です。
翌日は朝から親戚関係のおば様がお見えでした。
私の顔を見るなり、寝不足そうねぇと仰いました。
「もしかしてアレかしら? ブレットが激しすぎて? 新婚だものねぇ」
いきなり下世話なお話です。しかも全く見当違いです。私はぐっすり熟睡できましたし、貴女の甥っこさんは打てど響かず、触れど届かずです。苦笑いを浮かべていると、
「イザベルもよく、憔悴しきったような顔をした朝があったものねぇ。聞けば、ブレットが一晩中寝かせてくれたなかったとか惚気てくれちゃって……あ、ごめんなさいねぇ、もう随分昔の話だから、忘れてちょうだいね」
あー、そうなんですかぁ。はいー、そっこー忘れますー。
貼り付けた作り笑いがばりっと乾いてひび割れ、ぼろっと取れそうな感覚を覚えました。
悪意。このおば様からは悪意しか感じません。毎日のようにやって来ては、必ず嫌なことを言って帰ります。
午後からはまた別のおば様がやって来て、少し用事があるから預かってほしいと言って、白いモフモフを置いて行きました。
これで三度目です。私をペットシッターか何かだと思われているのでしょうか。
今度こそ断ろうと思いましたが、白いモフモフはとても可愛らしくて癒されるので、預かることにしました。
あ~モフモフよ、お前だけが癒しですわ。




