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第一回お祓い(と称した食べ放題の会)

これ以上メイリーンに心配をかけるわけにはいきません。

初志貫徹、当初の計画通り、ブレット様の前では猫をかぶり通し、穏やかで波風の立たない「仮面夫婦」人生を送ることを目標に、まい進いたします。


メイリーンの言う通り、セオのことも利用すれば良いのですね。あちらもこちらを利用したい、「持ちつ持たれつの関係」を望んでいますし。


そして一週間後、私は自分の判断が間違っていなかったことを実感しました。

何しろこの一週間、自由にふらりと食べ歩きに出られる機会など無かったからです。


「結婚披露パーティーさえ終われば、時間ができる」それはその通りでした。

が、時間ができたのはブレット様でした。


以前の帰宅頻度は五日に一度、真夜中に帰ってきて書斎で眠るという生活スタイルでしたが、ここ数日は連続して早くに帰宅され、共に晩餐をとっています。

昨日はなぜか一日中お屋敷にいらして、書斎で仕事をされていました。

ちなみに早くに帰宅されるようになってからも夫婦の寝室には寄り付かず、別々に寝ています。


ブレット様がお留守の間も相変わらず来客が多く、そのお相手をしたり、急にペットを預けられたりと、色々しているうちに日が傾いてしまいます。


え?えっ、え!? 聞いていませんよ、こんな生活になるなんて。

もっと放ったらかしで、自由で、暇を持て余して、自分の趣味と娯楽に生きられるはずじゃーーーー前の奥様のように。




「それで前は失敗したから、今度は失敗しないように、ってことなんじゃないの?」


チーズタルトを頬張りながら、セオが言いました。

今日は第一回「お祓い」(と称した食べ放題の会)です。お腹が空いてお腹が空いて、この日をどんなに待ち望んでいたか!

あれだけ契約を渋っていたくせに、私の胃袋は現金なものです。


「そんなぁ……。パーティーさえ終われば自由に食べ歩きできると、それを心の支えにしていましたのに。放ったらかしにしてくださったほうが気楽ですし、私は前の奥様のように出て行ったりしませんし……」


「それはまだ分からないじゃない。結婚したてだし、お互いまだ探り探りの段階ってことで。ブレット卿も不安なんだって。まあ、食べなよ。心の支えは、この食事会にすればいいよ。一週間凌げるように、持ち帰りのお土産もたんまり用意してるよ」


にこっと笑うセオが女神様に見えました。

男性を女神に例えるのも変ですが、少し長めのサラサラの金髪に、猫のようにくるくると表情豊かな瞳、それを縁取る長いまつ毛ーーーー……


「ん? 何、これ食べたい? そっちに同じのあるよ」

「あっ、いえ、はいっ」


慌てました。セオの食べかけのタルトではなく、セオ自身に見とれていたことは今すぐ葬りたい過去です。

セオの容姿がとても綺麗なことに今さら気づき、芸術品を愛でるような気持ちになっただけであって、決してやましい気持ちではありません。

と誰に言うともなく胸のうちで弁明しました。


食事会を一時間で終え、至福の満腹感と大量のお土産と共に馬車へ乗り込みました。

護衛はセオ邸の門前で待機していましたが、メイリーンが呼ぶと荷物持ちに来てくれました。

馬車が走り出し、押し黙っていたメイリーンが口を開きました。


「良いお方ですね、セオ様。もっとこう……陰鬱とした感じの方かと」


「え、どうして?」


「こう言っては何ですが、明るい雰囲気はないですよね、『祓い屋』と聞くと。悪魔や精霊、生霊の類いを祓うんですよね? 想像しただけで恐ろしいです……」


「あー……確かに。想像できないわ、セオがそういう仕事をしてるって。いつもあははーって笑ってるイメージだわ」


「まあ、とにかく良かったです。良いお方で。しかしあれですね、リシュー様。あと数回はこうしてセオ様にお食事を提供いただけるとして、その後です。『お祓い』は数回で完了しますよね。それ以降どのように食料を調達するか、私も色々考えているのですが……」


メイリーン、苦労をかけて本当に申し訳ないわ。

それほど苦もなく自由に食べ歩きに出かけられるはずでしたのに、予定が狂ってしまいましたから。



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