26 異世界転移した意味
「旅の途中で港町ニーベにも立ち寄ってー」
エーコちゃんが唐突にそう言い出す。
「何でまた?」
「弟子入りの最終試験で、ある物を届けないといけないのー」
「何を届けるんだ?」
「それもまだ内緒ー」
「そうか……でもそれって、もう持ってるのか?」
「あるよー」
「わかった。じゃあこの捕まえた鹿をウエストックスに届けて、イーストックスに向かって、そこで何か適当に稼いだら、船に乗って行くか」
「わかったー」
それからのマジ天使エーコちゃんとの旅は最高でした。
そうして俺達は港町ニーベに到着した。
「それでエーコちゃんどこに届けるの?」
「ぶー」
何か頬膨らましてる。
怒ってるの?
可愛いな。
とりあえず頬つついてみる。
「アーク怒ってるのわからないのー?何でつつくのー?」
「可愛いから?」
「もー」
「それで何を怒ってるの?」
と聞きつつ頬つつく。
「だーかーらー」
「ごめんごめん。可愛いからつい」
「何で私にはアークって呼ばせて私はちゃんなの?」
あーそれで怒ってるのか。
「可愛いから?」
「もーそればっかし!そう言ってくれて嬉しいけどー他人行儀なんでしょー?」
「わかったよエーコ、それでどこに届けるの?」
「明日にしよー?朝出発するよー」
朝出発?
ニーベじゃないの?
まぁ良いや。
「それと出来れば可愛いじゃなくてー美人とか奇麗とか言われたいなーアークお兄様」
ここで来たーーーーーーー。
本当におねだりで使って来たな。
しかもとても素晴らしいスマイルで。
「お兄様と呼ばれたら応えて上げるのはやぶさかじゃないけど、嘘でそう言われたいの?」
「それは嫌だかなー」
「じゃあ今は可愛いで満足してなよ。5年くらい経ったらきっとそう言う。エーコはきっと美人になるよ」
「ほんとー?その時はちゃんと言ってよねー」
「喜んで」
「じゃ宿行こうっかー」
「一緒に寝る?」
「バカなのー?」
うわっ!
エーコに蔑みの目で見られた。
これは今までで一番キツイなー。
というわけで宿に泊まる事にした。
勿論1人で寝た。
「じゃあ着いて来てー」
翌朝そう言われたので着いて行く。
町を出て南に向かってるな。
というか……この方向って……。
そして数時間歩き続ける。
「着いたよー」
やっぱし。
何でここ?
「ごめん無理」
俺は振り返りニーベに戻ろうとした。
「待ってっ!!」
服を掴まれる。
「ごめんねー。アークに嘘ついていた」
だろうね。
「まず弟子入りは半分嘘。もうナターシャお姉ちゃんの弟子になってるんだー」
薬師になるのね。
「最終試験は嘘…ごめんなさい」
だろうね。
「で、届け物なんだけど……アークなんだよー」
「はっ!?」
俺は振り返る。
「だからアークが届け物なのー」
どういう事?
そこでナターシャちゃんが家から出て来た。
気まずい。
どうしよう?
「……アーク?」
そう言ってナターシャちゃんが走って来たよ。
しかも泣いてるよ。
マジどうしよう?
ドンっ!
抱き着かれた。
「アークやっと会えた」
「……違う」
君の求めるアークは俺じゃないでしょう?
この歴史では。
「アークだよ」
これ何て言えば良いんだろ?
この歴史ではとか言ってもわからんだろうな。
「言ったよね?二度と離さないから。もう間違わないって……でも、歴史改変でまた離してしまったんだけどねぇ」
えっ!?
まさか……。
「覚えているのか?」
「覚えているよ……アークとエーコの事だけだけど」
マジで?
「うん、ごめんねー。そこも嘘なんだー。私も覚えてるのはアークとの事だけではなくてー、アークとナターシャお姉ちゃんの事だけなんだよー」
エーコちゃんが、そう言ってくる。
どういう事?
お互いがお互いの事と俺の事しか覚えていないと?
「でもナターシャちゃんさ、ダークと会ったでしょう?遠目に見てたけど、ダークが出て行くとこで、後ろから抱き着いていたよね?俺あの時のナターシャちゃんの言葉覚えているよ」
「えっ!?そんなとこ見られていたの」
めっちゃ気まずそうにしてる。
「……アーク以外に抱き着くなんて最低だよね?」
恐る恐るそう言う。
そこじゃないよね?
「じゃなくて、俺と勘違いして、好きとか言ったんじゃないの?」
「言ってないよ。というか会話は聞いてなかったのかい?」
「聞こえるとこにいなかったから」
「あの時……」
―――――
「アークス!アークス行かないでー!!」
ドンっ!
あたいはアークスに抱きついた。
「……どうした?」
「アークス、もう帰らないつもりでしょう?」
「……俺はアークスではない」
「えっ!?」
「……俺はダークだ」
あ、やっぱり。
あたいはその場で崩れ落ちる。
やっぱりあたいは間違っていなかった。
彼はアークじゃなかった……。
―――――
「……って感じだったよ」
マジか。
「最初は直感だったけどアークじゃないと思ってアークスと名付けて、1年一緒に過ごした時に確信に変わっていった。それで最後に確かめる為に後ろからだ抱き着いたんだよ」
そうだったのか……。
「あ、でもごめんなさい……あたいはアーク以外の男と一緒に住んでた。最低だよね?だからやっぱりあたいとは一緒には暮らせない?」
いや、そうではなくて、良く気付いたな。
でも何でエーコちゃんとナターシャちゃんだけ覚えているんだ?
あ、そう言えば……。
【じゃあせめてのお礼を君に贈るよ。ただし、それに気付けるかどうかは君次第だけどね】
って時の精霊が言ってたな。
これだったのか?
《ようやく気付いたね。そうさ…君と約束した2人は記憶を残しておいたのさ》
時の精霊の声が脳に響いた気がした。
「ははは……認めざるを得ないなこれは」
「何がだい?」
「これは惚れるしかないだろ」
俺は右手をナターシャちゃんの背中に回して抱く。
ナターシャちゃん君は最高だよ。
俺には勿体無いくらい。
だってずっと俺を想ってくれていたんだからさ。
そして、なんかエーコちゃんが生暖かい目で見ながら離れて行くのが横目で見える。
「ほんとかい?なら言う事があるよね?」
ナターシャちゃんの声が弾む。
「エーコちゃん大好きだよー」
「は~」
エーコちゃんが溜息をついてる。
「きょうせ……」
ビンタしようとしてきたナターシャちゃんの手を掴み止める。
「男の照れ隠しくらい目を瞑りなよ」
「そうね……でも、いつかちゃんと言ってね」
「いつか……な」
エーコちゃんがどんどん離れて行ってる。
気を使ってくれてるんだろう。
だがそんなものはいらん。
そして左腕を開ける。
「エーコもおいで」
「私、もうそんな歳じゃないよー」
14歳だもんな。
「俺が抱きたいんだ。ダメ、かな?」
「しょうがないなー」
って言ってる割には嬉しそうだぞ。
そして、左腕の中に入って来た。
俺は2人を強く抱きしめる。
「エーコ、今日は君とベッドイン」
「ちょっとーっ!!」
エーコちゃんが驚きの声をあげる。
「流石にあたいもそれは怒るよっ!?」
ナターシャちゃんの声がかなり怒気を孕んでる。
「え?今日は3人で一緒に寝たいなって思ったんだけどダメかな?」
「紛らわしいっ!!」
ナターシャちゃんがすかさず突っ込む。
「今日だけだよ。私そんな歳じゃないんだからー!」
エーコちゃんがしぶしぶ了承してくれた。
でも、顔が赤い。
こんなエーコちゃんが見れる日が来るとはな。
そして、3人でひとしきり笑った。
それで俺は思った……。
「あーそうか……」
「何がだい?」
「なーに?」
2人が俺を見つめる。
今やっとわかった。
「2人とも俺を幸せにしてくれ」
「は~」
「そこは幸せにしてやるじゃないのかい?」
エーコちゃんが溜息をつき、ナターシャちゃんが呆れたように言う。
俺は、ダークが得られなかった幸せを得る為にいるんだな。
それが……。
異世界転移した意味だったんだな―――――。
今までありがとうございました




