17 約束
えーーーー。
どうしよう。
どうしよう。
どうしよう。
どげんしよ?
エーコちゃんが泣いてしまった。
えっと、とりあえず目線を合わせる為に片膝を付くか。
「エーコちゃん、えっと……俺は中身が違う父だけど、えっと、抱っこして良いかな?」
たどたどしくなったけど、そう言い俺は両手を広げる。
エーコちゃんは泣いたままコクリと首を縦に振り、俺の胸に飛び込んできた。
「うわーーん」
そして、更に大泣き。
これはあれだぞ。
慰めてるのではなく、俺がずっとマジ天使エーコちゃんを抱っこしたかったんだ。
うん、今の俺ちょっと幸せ。
泣いてるし頭でも撫でるか。
ナターシャちゃんに言われた通り優しく。
「ダークがエーコちゃんのお父さんだったとはね」
「不思議な巡り合わせでござる」
「中身が違うってのは、まだよくわからないユキー」
「アークスが本名だったのか」
皆、口々にいろいろ言ってる。
「俺はとある事情があってダークを……いや、アークスをずっと見ていた」
俺はエーコちゃんを撫でつつ、周りを見ながら語り始めた。
「歴史を無かった事にするってどういう事だ?」
空気が読めない二股クソ野郎。
「少し黙っていなさい」
こづくエリス。
「事情ってのが長くなるし面倒だから、言うつもりはないけどな。で、アークスの半生を俺はずっと見てきた傍観者だった。なのにアークスが死んだと思ったら、何故か俺がアークスになっていて、1年も療養するような大怪我してて最初が何が何だか、わからなかった」
ちょっと長文を言い過ぎた。
一呼吸置こう。
というより言いたい事ちゃんとまとめないとな。
「エーコちゃん、アークスはずっと君を気にかけていたよ。でも自分には父親の資格は無いって言ってダークの仮面を被っていた。なあエーコちゃんは自分の名前の由来はわかる?」
エーコちゃんが顔を上げる。
泣きやんだようだけど目元がかなり赤いな。
「ううん……お爺ちゃんに、それは教えて貰っていなーい。でもねー、この名前を聞くと温かみを感じるんだー。お父さんとお母さんに抱かれているような温かみがしてたー」
「そうか。ならアークスも良い名前を付けたのかもな。アークスは自分の手は血で汚れている。娘にはそうならず真っ直ぐ良い子に育って欲しいからエーコって名前にしたんだ」
「そっかー。安直だけど真剣に考えてくれてんだねー」
「ああそうだな」
そして、俺は立ち上がる。
「エーコちゃんがもし中身の違う俺を少しでも父親と思ってくれているなら1つ約束をしてくれないか?」
「約束?」
「俺がダームエルと決着を付ければエーコちゃんもわかってる通り歴史が変わる。会えなくなる。だけど、もしまた会うという、そんな奇跡が起きたら一緒に暮らさないか?」
そんな奇跡あるわけないだろ。
自分で言っててわかってる。
でも、無くなってしまうけど今のエーコちゃんに何か残して起きたい。
「うーん……じじぃがいるから、それは無理かなー」
「エーコや」
ラゴスの目が潤んでるぞ。
「だから、くたばった後でも良いかな?」
だけどじじぃとかくたばったとか口悪いのにラゴスは何でそんな嬉しそうなんだよ。
余程孫を溺可愛がりしてるな。
「それでも良い。約束しよう」
「わかったー。じゃあその印にそれ頂戴」
エーコちゃんが俺の左手の薬指を指差す。
俺は指輪外しエーコちゃんに渡す。
あー俺の初期装備がーーーーーー。
あれ唯一の初期装備だったんだよなーーー。
「代わりこれ貰ってー」
エーコちゃんが首のチェーンを外す。
これはティーの指輪か。
それを受け取り首からかける。
サイズが違うので指にはハマらない。
「……アーク…は、こうなるとわかってたの?」
エーコちゃんと話が終わった後、おずおずとナターシャちゃんが声をかけてくる。
げ! 今度はこっちが泣いてるよ。
頼むから黙って行かせて欲しかった。
エーコちゃんに泣かれた時点で結構揺らいでしまったってのに。
「何がだ?」
「歴史が変わる事」
「予想はしていた。杞憂に終わって欲しいとは思ってたけど」
「そっか……だからあたいと約束してくれなかったんだね」
「ごめんね。もし過去に行くなんて話にならなかったら、ナターシャちゃんの家に転がり込んで引き籠りニート生活バンサーイしていたんだけど。予想通り過去に行く事になった」
「にいと? ……それよりなら、今ならあたいとも約束できる? もしまた巡り会える奇跡があれば一緒に暮らさないかい?」
「え? でも……」
エーコちゃんに視線を移した。
エーコちゃんと先に約束したからな。
「どうだいエーコ?」
ナターシャちゃんがエーコちゃんに問いかける。
「うん良いよー。ナターシャお姉ちゃん」
「ありがとう……だってさ」
そして俺を見てくる。
「じゃあそんな奇跡が起こったら3人で暮らそう」
起きねぇよ。
自分で言っていて呆れる。
でも、これで2人は大人しくなるだろう。
何も気兼ねなく俺はこのネコ型ロボットのフラフープ……もとい時空の扉に飛び込める。
「またれよ」
今度は誰?
サラか。
「何だ?」
「これを持っていけ」
「これはディーネ王妃と連絡する為の魔晶石」
「もし、どうしても立ち行かぬ事になったら使ってくれ。今から1年前、お主らがラフラカとやらを倒した辺りだな。その時から、それは存在している。つまり使うならそれ以降だな」
「いや、これがないと帰れないだろ?」
「ん? 必要ないだろ? 歴史を変えるのだろ?」
ド正論来たーーーー。
まぁ自分が仕えてる人が時空魔法を使えるんだ。
それくらい理解できたか。
「もし失敗したら?」
「案ずるな。帰る手段は他にもある。それが一番確実ってだけだ」
「そうか……では有難く頂く」
「代わりに1つ頼みがある」
「何だ?」
「もし変わった歴史で私と出会う事あったら、私をガッシュと引き合わせて欲しい」
「なんでだ? なんでだ?」
本当になんでだ? だよ。
ガッシュも首傾げまくってる。
「一度模擬戦をしてみたいのだ。良いか?」
「いいぞいいぞ」
「……というわけだ。頼む」
「わかった。もし次の歴史でサラと出会う事があるならガッシュと引き合わせよう」
こっちの約束のが現実的だ。
何が奇跡だ。
自分で言っておいて笑ってしまう。
歴史改変でそんな事あり得ないっての。
「じゃあ皆、ナターシャちゃん以外はたった数日だけの付き合いだったけど楽しかったぜ。行ってくる」
今度こそフラフープに飛び込もうとした。
「今思ったのだけどアーク」
何だよ。
今度はエドか。
「過去に行かなくても現在のダームエルを阻止すれば良いのではないか? そうすれば行かなくて良いのでは?」
どこにいるんだよ?
こっちのが確実だろうが。
《それは無理かな》
そう思っていたら、時の精霊の声が頭に響く。
《ダームエルってニンゲンはどこにいるの? この大陸にいるの? それにラフラカを取り込んで直ぐなら力を制御できないから勝機はある。けど今のダームエルに勝機はあると思う?》
「精霊様が探して頂く事はできないのでしょうか?」
《残念だけど、そこまでの指示は星々に貰っていない》
「そうですか」
エドが少しヘコんでる。
珍しいものを見れたな。
《それともう1つ。その時空の穴は1人通らないと塞がらない。だから1人通ってくれないとボクとしても困るんだよね》
「何故でござる?」
ムサシが聞いている。
というか俺が通るからどーでも良いだろ。
《ボクは時の管理が役目。知らぬ間に誰かが過去に行けば、歴史が変わり、ボクの管理が大変になるかだよ》
「なるほどでござる」
「じゃあ今度こそ行くな。皆じゃーなー」
なるべく気軽に行こう。
俺自身この後どうなるかわからない。
本当に決着付けられるかわからない。
不安だらけだ。
そう思いながら俺は時空の扉をくぐった。




