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妻を看取らず

ブクマありがとうございます

更新止めていたのにしてくれる方がいらっしゃるとは思いませんでした

「ワンワンっ!」

「あらあら……ハンターもエーコが見たいのかしら?」


エーコを抱きかかえるとティーがハンターにエーコを見せるようにしゃがむ。


「クゥ~ン」


エーコの頬を舐める。


「妬けてしまうね。何で私には懐かないのかしら?」


ハンターはずっと俺には懐いていた。

狩りに外に出れば着いて来て、一緒に狩りを行った。

まあまだ子犬なので大した獲物は捕まえられないが。

そして家ではティーにあまり近付かない。

エーコがいるお陰でなのか、初めて近寄ったように思える。



「それにしも寒いな。薪を増やすな」

「ありがとう貴方」

「出産したばかりだ。体を休めないとな」


薪を暖炉で燃やすと食事を持って行く。


「今日は俺が用意した。食べたら、寝てた方が良い」

「じゃあ口移しで食べさせて」

「はっ!? 何言ってるんだ?」

「去年貴方が言った事よ?」

「……忘れてくれ」


俺はそっぽ向いてしまう。

追い払おうと適当に言った事をまだ覚えているのか。


「私のファーストキス奪っておいて忘れろと?」

「奪ったのはお前だ」

「その後も、まるではけ口にするように襲って来て。初めてってだけで痛いのに乱暴にされて最悪だったわ」

「なら拒めよ」

「貴方の心と……」

「もうそれは良いよっ!」


まったくと思ったが笑ってしまった。

去年は酷い事をしたというのにこうなってるのが不思議で仕方ない。



「不思議よね。元気になってくれればそれで良いと、身を任したけど、まさかこうなるとはね」


どうやら似たような事を考えていたようだ。


「ティー……んっ!」


触れるだけのキス。


「貴方愛してるわ」

「俺もだ。エーコと3人とついでに1匹で幸せになろうな」

「クゥ~ン」


ハンターがいじけたように鳴く。


「ついでがご不満みたいね。ふふふ……」


ティーが微笑む。

その隣には無垢な顔をしているエーコ。

俺は幸せを感じていた。

しかし、この幸せは1ヶ月しか続かなかった……。




「ただいま」


ある日の朝、狩りに行き夕方帰って来た時に違和感を感じた。

何だろう?

気のせいかな?


「貴方おかえり、ハンターも。寒かったでしょう?さあ早く暖炉で温まって」

「ぅ~~~ワンワンっ!!」


ハンターがいきなり吠える。


「ハンターどうした?」


そして駆けて行く。


「ワンワンっ!!」


暖炉の前で吠える。

うん?

何だろうこの違和感。

匂い?


「……これは?」

「どうしたの? 貴方」

「水魔法。暖炉を早く消せっ!!」

「えっ!? ……『ウォーター』」


ジュ~~~。


ティーの水魔法で消える。


「これは病を呼ぶ薪(ララーク)だ」


暗殺もやっていたから知ってはいた。

まるで風邪を引くように病に侵され、徐々に体が蝕まれて行く。

俺には必要なかったが、暗殺者が暗殺されたのなれば、笑い話にもならないとダームエルに教えられた。

その時に嗅いだ匂いがこんな感じだった筈。

ハンターがいなければ気付かない程のちょっとした違和感程度にしかなかった。


「えっ!?」

「この薪はいつ手に入れた?」

「貴方が出かけた後よ。商人から買い取ったの」

「念の為、エーコとあと自分に回復魔法を。それといつもの薪が余ってるなら、それを燃やしてくれ」

「わかったわ」


そう言うと俺は家を飛び出した。



「なんじゃ? 血相変えて」


外でラゴスのじーさんにでくわす。


「今朝来た商人はまだいるか?」

「もう帰ったのじゃ」

「その商人が持って来た薪は病を呼ぶ薪(ララーク)だ」

「何じゃって?」

「全部処分しろ。それと悪いがじーさん、ティー達の傍にいてくれ」

「貴様はどうするのじゃ?」


俺は応えずに村を飛び出す。

クソったれ。

何が目的だ?

俺はウエストックスからの船が止まる浜辺に急いだ。

しかし船はなかった。

クソっ!

もう逃げられたか。

当たり前か。

あんなものを置いて行くのだ。

直ぐ逃げるわな。



俺は家に帰った


「じーさん悪かったな」

「ふん!貴様の為じゃないわい。グランティーヌの為じゃ」


1年立ってもこのじーさんは俺に悪態を付いてくる。


「ティー、回復魔法が使えるから心配無いと思うが念の為、2,3日安静にしていろ」

「わかったわ」

「貴様何をそんな難しい顔しているのじゃ?」

「目的がわからない。ここは他の町とは隔絶している。なのにここの住人を殺して何になる?」

「大方魔法を恐れてじゃろう。じゃからわしらは隠れるようにひっそり暮らしているのじゃ」

「……そうか」




3日後異変が起きた。

ティーが体調を崩した。


「貴方、大丈夫よ。ただの風邪よ」

病を呼ぶ薪(ララーク)は、最初はただの風邪から始まり体を蝕むだ」

「でも大丈夫よ。回復魔法だってあるんだから」

「そうだな。でも念の為にエーコはラゴスじーさんに預かって貰おう」

「そうね。移したら大変だわ」



ラゴスじーさんのとこにエーコを連れて行った。


「面倒見るのは構わないのじゃが、グランティーヌは大丈夫か?」

「わからない。魔法には詳しくないから回復魔法がどこまで効くのかわからないし、病を呼ぶ薪(ララーク)に効くものなのかもわからない」

「そうじゃな。リカバリーは体内の回復能力が高めるだけじゃ。昔に失われた魔力だけで対象を癒す魔法があれば心配はせんのじゃが」


失われた魔法か。

ないものねだりだな。


「ところで他の村人は平気なのか?」

「貴様も役に立つ時があるのじゃな。直ぐに処分したのが幸いじゃった。少し体調を崩したが回復魔法で直ぐに良くなったのじゃ」

「じゃあ何でティーだけ?」

「グランティーヌは出産後故に弱っていたのじゃ。元々体内の回復能力が低下してるのじゃ、リカバリーの効きが悪いのじゃな」

「クソっ!」

「貴様のせいじゃっ!」


じーさんが怒りを露にするが、直ぐに収める。


「いや、それを言ったらこんなにも可愛いエーコが可哀想じゃな」

「エーコは大丈夫なのか? 生後一ヶ月だぞ。体内の回復能力とやらは低いのでは?」

「たぶん大丈夫じゃ。貴様の子というのが解せんのじゃが、何故かこの子の魔力は高いのじゃ。育てば、村一番の魔力保持者になっておるじゃろう」

「そうか……」


体の力が抜ける。

エーコは大丈夫なのか。


「馬鹿者っ!楽観視するのじゃない。今の所平気ってだけじゃ。まだ予断は許されないのじゃ」

「そうだな。すまないじーさん。じゃ俺はティーを看病するからエーコの事はしばらく頼む。ハンター何かあっては困るからエーコを守ってくれ」

「ワンワンっ!」


そう言って俺はハンターを残し自分の家に戻った。


「あ、貴方おかえり」


こともあろうにティーは食事の準備をしていた


「何やってるだっ!!」


つい怒鳴ってしまいティーがビクっとしてしまう。


「あ、すまない。頼むから休んでいてくれ。俺はお前に何かあれば今度こそ生きていけない」

「……ごめんなさい」


ベッドまで連れて行き寝かす。


「さっきは少し脅えていたけど、ティーにも恐怖心があるのだな」

「私を何だと思ってるの?」

「去年押し倒した時、身じろぎ一つせず俺を真っ直ぐ見据えて来たからな」

「あれは覚悟があったからね。悲観した男の傍にいればそうして来るかもって」

「なん……だって?馬鹿か」

「貴方の心と……」

「それはもう良い。あの時のお前の、あの態度にイラっと来て、ああなったのだぞ!」


こいつは何かとこれを言いたがるな。

心と体が元気になれば、か。

ああ、お前のお陰で良くなったよ。

だけど、そのお前を亡くせばまた逆戻りだな。


「あらそうなの? なら怖がれば良かったかな? そうすればもっと素敵な初めてになったかも」

「ああそうだな。あのまま俺は死に、もっとまともな男とくっつき良い初めてに……」


パッシーンっ!!


「………」


えっ!?

ひっぱ叩かれた。


「馬鹿言ってるのはどっち!? 冗談でもそんな事言わないでっ!」


初めてこいつが怒ったな。


「……だが、今も俺のせいでこうなってる。ラゴスじーさんに聞いた。お前だけなんだよ。病に侵さたのは。たぶん出産後で体力が落ちてたせいだろうと」

「もう治らないみたいに言わないで。それに私はこの1年幸せだったよ……」


あ、泣かせてしまった。

俺はティーを抱きしめた。


「すまない」

「バカ! エーコが生まれて今も本当に幸せなのよ……なのに、そんな酷い事言わないで」


俺の胸を叩いてくる。


「すまない」

「バカバカ! ねぇ約束して。もし私がどうにかなってもエーコと幸せになって」

「お前こそ馬鹿な事言うな。まだお前がどうにかなったわけではないだろ?」

「貴方のここ……」

「だから、それはもう良い」


こいつはほんとこの言葉が好きだな。

こんな時まで馬鹿らしい。


「今回は違うわよ……貴方の心の平穏が保てるなら馬鹿でも良いよ」

「ほとんど同じだ。それに、お前がどうにかなったら、平穏でいられるか」

「それでも立ち直って、エーコと幸せになって。私以外の女を見つけても良い」

「……今度は俺が殴って良いか?」

「ごめん。後半は無しで……本当は、そんな事になったら嫌だな」

「まったく」

「ねぇ今日はこのまま私を抱っこして寝てくれる?」

「ああ喜んで……愛してる」

「ありがとう……私もよ」


強く強くティーを抱きしめて寝むりについた。

願わくば良くなりますようにという想いを籠めて……。



だが虚しくても、その願いは届かず、一向に良くならない。

1ヶ月が過ぎ、2ヶ月過ぎ、3ヶ月過ぎ……。

10ヶ月が過ぎても良くならないどころか、悪くなる一方。

本来この病を呼ぶ薪(ララーク)は3ヶ月で死に至らしめるが、回復魔法お陰なのか保ってはいるが、もう限界だろう。


「あ、なた……ごめんね」


衰弱していくティーを見るのは辛い。


「どうした?」

「私はたぶんダメみたい」

「諦めるな。本来病を呼ぶ薪(ララーク)3ヶ月で死に至らしめる。それが10ヶ月保ってるんだ。良くなる。絶対良くなる」

「ねぇ……あな、た、私以外の人を、見付けて……エーコと幸せに……」

「またそれか。お前もそれは嫌なんだろ?」

「嫌だよ……でも、それ以上に貴方が、くるし…むのは……もっといや」


クソっ!

もう限界だ。


俺は家を飛び出した。


「どこへ行くのじゃ」


ラゴスじーさんに引き止められる。


「何の話だ?」

「貴様の最近の顔を見ていればわかる。グランティーヌを捨てるのか?」

「違うっ!! 薬だ……魔法がダメなら薬を手に入れてくる」

「エーコはどうするのじゃ?」

「今まで通り見ててくれ。いつもすまない」

「貴様に為じゃない」

「ああ……俺の為じゃなくても良い。ティーも、グランティーヌも見ててくれ」

「わかったのじゃ」



俺は薬を手に入れる為に魔導士の村を出た。

1年ぶりに本大陸に戻るな。

しかし、その数日後にティーが他界した。

俺は最愛の妻を看取らずに村を出てしまったのだ……。

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