アルフォードvsガッシュ 後編
その後、ドロ沼の殴り合いが始まる。
躱し、往なし、殴り、突き刺しとしばらく続いた。
しかし、アルの攻撃の方が多く入ってる。
闘気を自由に扱え、あの筋肉質の体。
かなり破壊力があるだろう。
対する野生人は小さい。
だというのに耐えている。
かなりタフだ。
「うーっ!」
やがて野生人が唸り、アルに蹴りを入れ、その反動で距離を取る。
シュッ!
次の瞬間、野生人が爪を振るう。
斬撃が飛ぶ。
野生人も多少は闘気を扱えるようだが、それより速さだ。
空を切る速さにほんのちょっとの闘気で斬撃が飛んだというべきか。
ズサーっ!
アルはそれを両腕をクロスさせ耐え凌ぐ。
腕が擦りむけ血が吹き出て、少し後ろに下がった。
かなりの威力があったな。
「ふんっ!」
おい今、筋肉で出血を止めたぞ。
デタラメだな。
「オォォォラバスタァァァっ!!」
アルが叫び、お返しと言わんばかりに両掌を突き出した。
ズゴォォォォっ!
今まで闘気弾の比じゃない。
今までのは拳サイズくらいだが、今のはその5倍はあるぞ。
さながら、あれがアルのとっておきなのだろう。
ゴッフーンっ!
「ぎゃっ!」
直撃し空高く吹き飛ぶ。
今度こそ死んだのではないか?
そう思っていたら、野生人は空中で体勢を立て直す。
マジか。
タフってレベルじゃないぞ。
ガツっ!
それどころじゃない。
あいつ今、宙を蹴ったぞ。
「な、何ぃぃぃっ!」
アルが驚くのもわかる。
俺も驚いてる。
宙を蹴る奴は、初めて見た。
たぶん闘気で固めたのを足場にしたのだろう。
そして、野生人はアルにそのまま突っ込む。
スッ!
アルは右に避ける。
野生人は、アルの後ろに着地し、即座に反転し爪を突き出す。
「おっと」
それをアルは右腕で、内側から外側に動かす事で往なす。
そこからが目を疑いたくなる光景が広がった。
野生人が飛び、宙を蹴り、跳ねるとアルの左側に周り、また蹴り、戻って来たと思ったら、また宙を蹴りアルの右側に周り、また蹴るを繰り返した。
立体起動を行なってる。
「はっ!はっ!はっ!はっ!」
右左右左と拳を突き出し気弾を飛ばすが、全て空中を縦横無尽に駆け、躱す。
そして、野生人はアルの背後に周って攻撃に転じる。
爪ではなく拳を突き出した。
キメに入ったのだろう。
アルが振り返った瞬間、それが炸裂。
それでもアルはビクともしない。
野生人は空中にいて、体勢が悪い。
反撃したらアルが勝つかも知れない。
しかし……。
「やるな」
アルがニヤリと笑う。
これは顔面に攻撃を受けた時点でアルの負けなのだ。
故に反撃など無粋な事はせずに相手を称賛していた。
「おれかったかった」
野生人が重力のまま足が付くとはしゃぎ出す。
「ほれ!約束のチキンだ」
アルがチキンを差し出すと野生人は、それを受け取り食べ始めた。
「ムシャムシャ……うまいぞうまいぞ」
「ガハハハハハハ……修行の成果を試すのに絶好の相手だったぞ」
それが理由で1本取れとか言ったのかよ。
「もっとくれもっとくれ」
食い終わると図々しい事言い出したぞ。
「残念ながらそれしかない」
「そうかざんねんだざんねんだ」
「だが、俺達はチェンルに向かってるんだが、着いて来るならもっとやるぞ」
マジかよ。
「おれ、ついていくついていく」
「で、お前名前は?」
「わすれたわすれた」
「何だそれ?」
俺も同じ事思った。
「むかしおれ、すてられたすてられた」
俺と同じか。
「帰ろうと思わないのか?」
俺も口を挟んだ。
「ここきにいってるきにいってる」
「……そうか」
なら良いか。
「じゃあ名前、俺が付けてやろうか?」
アルがそんな事を言い出す。
「たのむたのむ」
「じゃあガッツがあるからガッツってそのまま過ぎるから……ガッシュでどうだ?」
「それいいそれいい。おれガッシュ」
「俺はアルフォード。アルで良い。こっちがダークだ。宜しくな」
「アル、ダーク、よろしくよろしく」
「……ああ」
こうして珍妙な野生人ガッシュが加わった。
というか加えなくて良いよ。
とか考えていたら俺の脳裏に言い寄らぬ不安がよぎる。
「二人で、チェンルに行ってくれ。俺は少し寄り道する」
「寄り道ってどこだ?」
アルが訊き返して来る。
「南だ」
「少し遠回りになるだけだろ?付き合うぞ」
「おれもおれも」
「ラフラカ帝国兵と戦闘になるかも知れないぞ?」
「それって兄貴の敵か?」
「……ああ。そうなるな」
「ガハハハハハハ……なら尚更付き合うぜ」
豪快に笑い飛ばされた。
「おれもおれも」
ガッシュも来る気だ。
「そうだアル。気になっていたのけど、その武術の神とやらは気配感知もお手の物だったのか?」
「ん?気配感知?何だそれ?」
「周囲の気配を感じる事……ってアルだってやってただろ?ガッシュとの戦いの時も後ろに周られても、どんな動きをしてるか把握してただろ?」
「あ~アレは闘気による感知だよ」
「何?そんな事出来るのか?」
「闘気って自然に漏れ出るだろ?それを意識的に出して周囲に膜を張るイメージをするんだよ。それにより、膜を張ってる範囲の全ての動きがわかる」
「それって気配を隠してる奴もわかるのか。凄いな。だけどそれを維持するのは疲れないか?」
「ガハハハハハハ……修行のお陰で自然とできるぜ」
こいつどこまでデタラメなんだ?
筋肉で出血を止めるし。
無雑作に振るっただけで気弾を飛ばしたり。
しまいには気配感知の上位互換までありやがる。
絶対敵に回したくないな。
「あ、話は戻るがエドは表だってはラフラカ帝国と同盟してる。フィックス関係者だとバレないようにしろよ」
「わかったぜ」
まあただの杞憂に終われば良いがな。
俺達は反帝国組織アジトの方を目指す。
別に依頼されたわけではないが、ダームエルの事を考えると行くべきだな。
あそこには子供達がいる。
長くなったので前後編に分けました




