08 アークなんて幻想だ
ナターシャちゃん何で来ちゃったんだよ?
わーわーどうしようどうしよう。
コミュ症の俺はいつか素が出て嫌われるのを恐れて引き離したのに……。
ジタバタ……。
客間のベッドでついバタバタしてしまう。
しかもナターシャちゃんの前で怒鳴っちゃったよ。
それにここからたぶん俺の戦いだ。
ナターシャちゃんだけは巻き込んだらダメだ。
ジタバタ……。
ってこれ言い訳か。
俺はあんな可愛い娘に拒否られるのが怖いだけの臆病者なだけなんだ。
俺を追い掛けて来てくれたのは嬉しいけどさっきので完全に嫌われたな。
ジタバタ……。
どうしようどうしよう。
マジでどうしよう。
コンコンっ!
ノックが聞こえた。
「……誰だ」
ベッドでジタバタしてるけど暗殺者ロールプレイは確りしないとな。
「……あたい」
げっ!
ナターシャちゃん
つい確り座り直した。
「……帰れ」
うわー。
俺も何言ってるんだろ?
最悪だ。
自分が嫌になる。
「嫌だね。入る」
えっ!?
今日のナターシャちゃん何なの?
あれだけ酷い事言ってるのに?
これは印藤を渡す気が。
面と向かってお前ウザいとか言うのか?
泣けてくるな。
ガチャ!
入って来たよ。
とりあえず顔合わせたくない。
そっぽ向いておこう。
「隣座るよ」
「………」
座らないでーーーーーっ!!
そう思ってるのにナターシャちゃんが隣に座る。
しかもピッタリくっついて。
体温が伝わる。
こんなくっつかれたら童貞の俺は興奮しちゃうよ。
「……アーク」
「何で来た?」
「あたいはやっぱりあんたが好きだからさぁ」
後ろから抱き着かれた。
うほ~~。
再びあのお山の感覚が背中に……。
しかも前も思ったけどナターシャちゃんの胸って大きいんだよな。
Dカップくらいかな?
「それは幻想だ」
うわまた中二発言しちゃったよ。
「あんたが殺し屋って事かい?」
「……そうだ」
うんそういう事にしておこう。
俺は君と向き合う勇気はない。
所詮引き籠りのコミュ症なゲーマーなんだから。
「でも殺しが好きなわけではないでしょう?」
「気に入ってるぞ」
魔物を倒し無双するの最高ですが何か?
「それはウソ」
「……何故そう思う?」
「だってあんた優しいじゃん」
はい?
何の話?
「……俺が?おかしな事を言う」
「あたいが薬作りしてて、つい寝ちゃったりした時に毛布掛けてくれたり、私が疲れ切ってる時は家の事してくれたじゃない」
いやそれと暗殺者は関係無くない?
「殺し屋だってそのくらいしてもおかしくないだろ?」
「それにあたいに手を一切出さなかった……ってこれは己惚れか。あたいに魅力が無かっただけなのかもね」
いや、そんな根性なかっただけですが?
毎日欲情しそうになってましたが何か?
「聞いたよ。魔法が復活した事。これから大きな戦いになるかもしれない事。あんたはあたいを遠ざけてるの?」
「……ああ」
それでも良いや。
本当はただ怖いだけなんだけどね。
ごめんねナターシャちゃん。
「……本当の事は何一つ言ってくれないんだね」
「……何故そう思う」
確かに言ってないけど。
「だって一年……いやアークが目覚めてから半年ずっと一緒にいたんだよ。なんとなくわかるよ」
わかっちゃうの?
「だからそれは幻想」
うわ~もう俺も何言っちゃってるの?
ダメだ。
ただ怖いだけなのに。
どう言えば良いのかわからん
「またそれ?お願いだからちゃんと言って。あたいに魅力が無いならそれでも良い。ちゃんと言って欲しい」
「お前は必ず俺から離れる」
「殺し屋だから?」
「……そうだ」
なんか話が戻ってるぞ?
「またそれ?殺し屋をしたければすれば良いさぁ。あたいはもうそんな事気にしないよ。もしどうしても嫌なら無理矢理辞めさせるだけだよ」
え~~。
マジで言ってんの?
何だろ?
ナターシャちゃんが全然わからん。
コミュ症の俺じゃまともに話が出来ない。
「……それでも離れる」
「お願いだよ。ちゃんと話して。アークは何を抱えてるんだい?」
「……幻想だからだ」
「何が幻想なの?」
「お前が惚れたダークという男は存在しない」
「あたいが惚れたのはアークだよ」
どうしよう。
マジでどうしよう。
上手く話せない。
「……ある馬鹿な男の話をしよう。聞くか?」
「ええ喜んで」
喜んでなの?
「馬鹿な男には友がいた……」
学校のクラスでの他愛もないイジメだ。
友は誹謗中傷を受けた。
俺をそれを真に受けた。
だけど俺がもしもっとコミュニケーション能力があればじっくり友と話せて誤解だとわかった。
だけど上手く話せなくて最終的に裏切った馬鹿な男さ。
「それでその馬鹿な男はどうなったんだい?」
「家に閉じ籠り人と話す能力が更に損なわれ腐っていった」
うわ~。
つい黒歴史話してしまった。
「それとアークはどう関係あるんだい?」
「馬鹿な男はずっと見ていた。ダークが苦しみ、もがき、やむを得ず暗殺者になるしかなかった。そしてラフラカを倒した後、彼は自分の罪悪に耐えかね死を選んだ事を。そして、気付いたら馬鹿な男は傷だらけのボロボロなダークになっていた」
「……何言ってるの?」
そうなるよね。
でも異世界転移とか言われても信じないだろうな。
「信じたくなければそれで良い。話は終わりだ。帰れ」
何で俺はこんな事しか言えないんだろ。
「もっとわかりやすく話しておくれよ」
「俺は異世界転移した」
「えっ!?」
つい話してしまった。
エドの言葉もあり、つい気が緩んでいたのかも。
あ~頭イッちゃってる人だと思われたな。
「俺は死んでしまったダークの体を間借りしてる馬鹿な男って事さ。どうだ?こんなおかしな話をする奴だぞ。離れたくなるだろ」
「……アーク、少しだけこっちを向いて。あたいを見て」
あ~これはサイテー、ペッシーンってビンタのパターンだな。
とりあえず向くか……やっぱナターシャちゃん可愛いな。
「チュ!」
えっ!?
今何した?
キスされなかった?
初めてのチュー、君とチュー
ってどっかのアニメソングが脳内で流れているんですけど……。