02 これ異世界転移って奴?
俺が目覚めて2日が過ぎた。
まだ痛むが自由に動ける。
それまでの間にやっとこれは現実だというのがわかった。
ステータス表示もなければ、当然ログアウト表示もない。
VRMMOやってたんだけどな~。
今はナターシャちゃんは買い出しに行っていない。
まずは此処がどこなのか……。
とりあえず外に出る。
「はっ!?」
どこよ此処?
海辺にポツンと建つ家。
今時こんなのないだろ?
まさか過去にタイムスリップしたのか?
次に部屋を物色しようかな。
「えっ!?」
自分一人しかいない家に見知らぬ男がいた。
いや鏡だ。
これ俺?
待て待て待て待て待てーい。
これ俺がFFOで愛用してたキャラじゃん。
ってことはあのキャラの設定っぽく受け答えしてたのは正解だったのか?
いやいやいやそういう問題じゃないよ
これ異世界転移って奴?
それから俺はナターシャちゃんがいない間、いろいろ試した。
結論から言って俺が育てたキャラの能力がある。
魔物を素手であっさり倒せるし、わざと噛まれたけど痛くもないし傷も付かない。
これは俺の予想だがエンディング後だな。
崩れ行く城に残り、瀕死の重傷で生存しナターシャちゃんに助けてもらったってとこか。
つい一緒に暮らすと言ってしまったが、コミュ症の俺がどうやってナターシャちゃんと接すれば良いのか。
いや無口キャラ設定だったからそれを押し通すか?
ってな感じで傷の完全完治まで一年かかった。
身体がめっちゃ軽い。
このキャラは俊敏にかなり数値振ったからな。
というわけでそろそろナターシャちゃんとお別れしようかな。
このままいて素が出て嫌われたらショックだし。
あんな可愛い女の子に嫌われるとかマジ最悪だな。
「もう四月かぁ。あんたが来てから一年になるね。まぁ目を覚ましたのは半年前だけどね」
「……ああ」
いつものようにキャラに成り切ってぶっきらぼうに返す。
さてじゃあ今夜にでも去るか。
ナターシャちゃんにどうお別れを言って良いのかわからないから寝てる隙に。
「どうしたの?」
おっと心読まれたかな?
「いや…なんでもない」
とりあえずそう返しておこう。
そして深夜、俺は家を出て行く。
町に向かって歩きだした直後・・・・・。
「アーク!アーク行かないでー!!」
げ!気付かれた。
しかも声的に泣いてるな。
でも振り返ったらダメだ。
ドンっ!
え?抱き着かれたよ?
やべぇ~背中に柔らかい物が・・・・・。
今まで生きて来てこんな素晴らしい感触味わった事ないや。
いかんいかん。
暗殺者ロールプレイで返さないと。
「……どうした?」
「アーク、もう帰らないつもりでしょう?」
「ん?何故だ?……俺は寝付けなくて外を……」
「ウソ!あんたの眼は遠くを見てる」
俺の言葉遮られた。
あーやはりバレてたか。
「気付いていたか」
「お願い行かないで」
背中で泣いてるよ。
振り返って抱きしめるべきか。
ハードルたけーーー。
ダメだ。
俺にはそんな勇気はない。
「……俺はやはり君とは暮らせない」
気付いたらこんな事口走ってるよ。
人生最大のチャンスを・・・・・。
「あたいは…あんたが……スキ…な、の」
マジかー。
超嬉しい。
やっぱ人生最大の好機。
だがダメだ。
ナターシャちゃんが好きなのは俺じゃない。
ロールプレイをしてる俺だ。
素の俺を知ったら離れて行く。
コミュ症の俺がまともに話せるとは思えない。
「……ダークという名を知っているか?」
気付くと設定上の暗殺者の名を口にしていた。
「金さえ貰えば何でもやる、殺しさえ平気でやる男の名……それがな…はっ!」
ナターシャちゃんが離れる。
あー胸の感触が……残念。
「ま、まさか……」
「そうだ…俺は昔、ダークと呼ばれていた…」
「……ウソ」
ナターシャちゃんが崩れ落ちたような音がした。
うわ~めっちゃ罪悪感が・・・・・。
ごめんね。
「……すまない」
こうして俺は港町ニールに向かった。
人生最大の好機。リア充爆発しろと言われるようないちゃいちゃ生活を捨てて。
哀しい・・・・・。
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