N2 男の名はアーク
それから一週間が経過。
男の傷はまだ癒えない。
好い加減うんざりして来た。
何故あたいがこんな事を・・・・・と思い、毎日のように男の身体に治療薬を塗り込み包帯を替えた。
それも一ヶ月も立てば何とも思わなくなって来た。
それが当たり前の日課になっていたのだから。
男がうなされる事がある。
そういう時は決まって高熱を出す。
その時は包帯を数時間起きに替え、濡れたタオルを頭に置く。
それが当たり前になっていたので苦にはならなかった。
それどころか一人暮らしの寂しさを埋めてくれるものを感じた。
ただ一つ気がかりがあったが。
「ねぇあんた何者なんだい?名前はなんてんだい?」
時々問い掛ける
「……」
当然返事はない。
この時ばかりは、虚しさを感じずにはいられない。
一緒に生活しているのに会話がないんだ。
それがどうしても哀しくてならない。
四ヶ月立っても目覚めない。
もう目覚める事がないのではないかとさえ思ってしまう。
そうして待ちに待った日が来た・・・・・。
季節は10月。あれから半年過ぎて男が目を覚ました。
「・・・・・ん・・・・・ぅ…ぅん」
「やっと目を覚ましたね」
「ここは?・・・・・俺は一体……?」
かなり低くく渋い声ね。
「ここはあたいの家。あんたは近くの海岸に倒れてたのよ」
簡素に教える。
「・・・・・そうか」
男は虚空を眺めていた。まるで、死にびれたと言わんばかりに。
「半年も寝ていたのよ。もう起きないかと思った」
「そんなに寝てたのか?」
男はあたいを見つめる。
「ところであんた名前は?あたいはナターシャ」
今初めて名乗るがあたいの名はナターシャ=プリズン
「俺に名などない」
「はっ!?」
思わず間の抜けた声が出てしまう。
何?あたいは今まで名無し君を看病してたの?
それはあまりにも滑稽過ぎるわよ。
なーんて、実は予想していたけどね
「名など捨てた」
男が言い直す。
だろうね
全身傷らだけで倒れていたんだもん。
得体が知れなさ過ぎる。
いろいろ訳ありだという事は察していた。
あたいは男を看病しながら、様々な事を想像していた。
目を覚ましても、記憶喪失なんではないかとか。
それどころか喋れないのではないかとか・・・・・。
「それだと何かと困るねぇ。じゃあ、あたいが名前を付けて良い?」
寛大なあたいは、あえて何も聞かない。
それがお互いの為だろう。
ただ名前がないのは不便である。
「・・・・・ああ」
おっ!なかなか素直じゃない。
「じゃあ海辺に倒れていたから・・・・・海辺、水・・・・・う~んアクア…アクアアクー・・・・・アーク!」
ピーンと来ました。
「そうだ!アークなんてどう」
「ふっ・・・・・昔そんな名で呼ばれた事もあったな」
男の口元が緩む。
薄く笑った。
一瞬ドキっとした。
いかんいかん余計な事は考えるな。
じゃあこの男は今日からアークだ。
そしてアークは再び眠りに付いた……。
その後、行く当てがないとアークが言うのでここで一緒に住む事を提案する。
もう半年一緒にいたのだ。
いなくなるのは寂しい。
そして彼を拾って来て一年が過ぎた。
「もう四月かぁ。あんたが来てから一年になるね。まぁ目を覚ましたのは半年前だけどね」
「ああ……」
いつものようにぶっきらぼうに答える。
だがその後、彼は虚空を眺めていた。
「早いね」
「……」
一人で何かを考え込んでる。
「どうしたの?」
「いや…なんでもない」
とは答えたものの彼はあたいを見なかった。
その瞳はどこか遠くを見てるように感じた。
直ぐ側にいるのに、彼を遠くに感じる。
そして別れが訪れた・・・・・。




